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もくじ

前編
ー プロヴァンスに響き渡るV10の雄叫び
ー 明らかに騒音規制無視のジョン・ブルたち
ー グラマー度比べではM6はお話しにならない
ー 安くてパワフルなイカしたジャガー
ー マッチョなM6はクーペでどうぞ

後編
ー ちゃんとソソるクルマになっている
ー アストンならすべてが許される
ー やっぱりアストンならすべてが許される
ー 勝者はアレ でも、アッチも捨てがたい
ー 番外編 本当にボディ剛性はクーペ並み?

ちゃんとソソるクルマになっている

その点、ジャガー君はグラマラスでよろしい。見るからにソソるクルマ、にちゃんとなっている。

このスーパーチャージド版においては、ワイア・メッシュが――それこそヘタな有機飼育チキン農場よりもいっぱいなくらい――車輛周囲のいろんなところについてたりする。

なんちゃってベントレー調の装いはアレとしても、美形であることは間違いない。

イージーに使えるのと同じくらいイマジネーション欠如なキャビンに低く座る。

エルゴノミクスはエクセレント。ただし今回はグラマー度勝負なので、それは大きな加点要素にはならない。

ということで、ジャガーの強みはモダンなドロップ・トップのそれとしてはまさにカンペキなそのスペックにある。他2台と違ってこのクルマのエンジンはスーパーチャージャーつきで、したがって57.1kg-mのトルクを引き出すのは朝飯前。アストンやBMWを運転しているときと違って、ほとんどなんの労力もいらない。

低回転域しか使わずにグータラに運転してもトルクは強力で、しかもわかってることにギアボックスはZFのオートマティックときている。だからして、運転中ドライバーはカッコつけ、より具体的には右ヒジを置くポジションをぴっちり正確にキメることにだけ集中していればいい。

という次第でXKRは楽チンなクルーザーではあるけれど、だからといってちょっとトバしたくらいで途端に走りがだらしなくなったりはしない。

ほかのと較べてカルいステアリングはしかしめちゃくちゃ正確で、またライド・コンフォートとロール剛性とのバランスもカンペキ。このへんの案配の上手さはジャガーならでは、といっていいみたいだ。わかってる。

アストンならすべてが許される

アストン体験のとっかかりがボルボのキーというのは、1700万円もするクルマなのだし嬉しくない。でも、そうかと思うと1400万円級のこのジャガーも5代目エスコートのを使ってたりする。どっちもどっち。

そこのとこ以外に関しては、アストンはグラマー度の高さにおいてほか2台を徹底的に打ち負かしている。ボディ表面とツライチに埋め込まれたドア・ハンドルもスベスベしたウッドもサイコー。

レザーにいたっては、眺めても触ってもそして嗅いでもやっぱりレザーそのものに思える(ほか2台のレザーはそうではない)。なにからなにまで、とにかくぜーんぶが全部トクベツなイベントなのですよ。アストンの場合。

それに走ってもイイ。ブルブル君(DB9ヴォランテのことです)とは大違い。V8ロードスターの開発を通じて彼らが学んだことどもがいかに多いか、作った人たちにきくまでもなくわかる。

これはもう、続きというよりはまったく新しい章に入っている感じ。わざわざフランスのこんな場所、つまりヒドくやられちゃったD級路しかないようなところで試乗会を開催したことからして、このクルマのデキに関して彼らがもっている自信の深さがわかる。

サイアクにキツい路面を通過するとき以外はステアリング・コラムはビクともしないし、内装のフィッティングにいたってはどこをどう走っても全然キシッといわない。イヤ度ゼロ。

このへんに関してアストンはジャガーに匹敵する水準にある。同じくらいインプレッシヴ。ちなみにXKR、ボディのリジディティに関してはクラス・リーダーだったりする。

ただアストン、クーペ版と同じくこちらもまた楽チン至極では必ずしもない。なぜって、4.3ℓのV8は3500rpm(エグゾーストの音が盛大になりはじめるポイントはここだけど、41.8kg-mをフルに引き出そうと思ったらさらに上の5000rpmまでナンとしても回してやらないといけない)まではイマイチだから。

でも、そこから先はずっとビンビン。7000rpmを超えてもまだビンビンにハングリー。不可思議なことに、ウェイト・ペナルティが課せられているのにこないだ乗ったクーペよりも速く感じる。イイ。

やっぱりアストンならすべてが許される

なんだけど、テスト車輛についてたパドル・シフトのギアボックスに関してはイイことは書けない。ほとんど。なぜって、どっからどう考えてもM6のSMGのほうがデキがイイから。

しかも困ったことに、トバしてるとしまいにはクラッチからヤバそうな臭いが立ちのぼってくる。これはゴカンベン……なのだけど、マニュアル・ギアボックスのほうはトランスミッション・オイルを変更したことでググッとよくなったらしい。

買うときはそっちを選べばいいだけの話なので、パドルもののデキ云々の部分は今回の勝負の判断材料にはしないことにする。

いやホント、ロードスターは完成度がすごく高い。風の巻き込みはM6におけるそれよりも少なくて、ジャガーと同じくらい穏やか。つまりエクセレント。アストンなのだからトクベツでなくてはならなくて、そのトクベツのなんたるかがロードスターだとよりわかりやすい。

僕としてはだから、競合他車と較べたときの相対的なランキングみたいなものでいうとクーペよりもロードスターのほうが高いと思える。

つまり、高性能クーペ部門におけるV8ヴァンテージのランクよりも高性能屋根開き部門におけるV8ロードスターのそれのほうが高いと思える。

911カレラのクーペをブチ抜けるようなクルマではV8ヴァンテージはない。走りそのもので優劣を決めるなら、したがってセカンド・チョイスでしかない。でもコンバーチブル勝負となると話は違ってくる。

その魔力というか魅惑力でもってアストンがポルシェに勝つ。ハンドリングやそのものズバリの速さに多少の不足があったところで、そんなものはどうでもいい。気にするのはナンセンス。

そもそも、サーキットでいいタイムを出すためにわざわざコンバーチブルを買う人なんていない。賞味したり堪能したり眺めたり眺められたりしてイイ思いをしたいから買うのであって。

だとするなら、回転系の針の動きがフツーと逆方向になってることなんかナンでもない。同じく、ルーフ警告灯が何度も点滅することも。少なくともルーフに故障が発生する兆しはまったく見られなかったから大丈夫。

勝者はアレ でも、アッチも捨てがたい

というわけでカラダ、じゃなかった眼は正直ですよお客さん。もしいまのイマこの3台のなかからどれか好きなの乗ってっていいよといわれたら、アナタはきっとアストンにすることでしょう。

このテのクルマはそうやって選ぶのが正解。このテの対決ものもまた、そういった見地にたって審判をくだすのがやりかたとしては正しい。

ということで最後に要約を。まずBMWは、やっぱナニをやらせても優等生。今回あらためてそう思った。とっても高価なコンバーチブルを上手いこと商品化する能力を別にすれば、というただし書きはつきますが。

XKRはきわめてスキのないクルマだけど、アストンみたいなスター中のスターと較べられてしまうといささか分が悪い。トクベツさが足りない。楽チンに乗れちゃうのはフツーなら美点だけど、それすらも退屈さに思えてきちゃう。

ということで勝者はアストン。なんだけど、XKRとV8ロードスターは可能なら皆さん両方試したほうがいいですよと僕としては申し上げたい。どっちか買う前にゼヒとも。音がやかましかろうとそうでなかろうと。

番外編 本当にボディ剛性はクーペ並み?

DB9ヴォランテとV8ロードスターとを車体構造の強さで較べると、両者の間にはハンパでないデキの違いがある。もちろん、後者のほうが優秀。

違いの要因としてあげられるのは、まずホイールベース。すなわち、V8ロードスターのほうが短いぶんだけ本質的に有利。強固。V8ロードスターではシルと前後スカットルも強化されている。

同じく、さらにフロントのクロス・ビーム(ステアリング・コラムがとりつけられているパネル)もアルミ鋳物のコンポーネンツを使って対策されている。

ということで、ワナワナよさらば。なにより嬉しいことに、こうしたモディフィケーションは今後既存車種にも施されるという。これから出るV8クーペ・スポーツパックも、もちろん最初から対策入り。

AUTOCAR JAPAN誌 49号