金正恩氏

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北朝鮮で自殺は、「労働党と指導者に対する背信行為」という重大な罪とされている。しかし、世界保健機関(WHO)の2012年の統計によると、10万人あたりの自殺率(年齢調整後)のランキングで北朝鮮は38.5人。南米ガイアナ(44.2人)に次いで世界2位を記録した。ちなみに、韓国は3位(28.9人)、日本は18位(18.5人)だった。

女子大生が拷問で

罪とされているにもかかわらず、北朝鮮で自殺が多い理由として、WHOは貧困、制約が多い環境で住んでいることによる精神的なストレスを挙げている。その後の統計はないものの、国際社会の制裁強化で苦しい暮らしを強いられるようになったことで、自殺が増えている模様だ。

貧困だけではない。北朝鮮当局の庶民に対する厳しい統制が自殺の理由になることもある。例えば、一昨年4月には韓流ビデオのファイルを保有していた容疑だけで、治安当局は悲劇的な末路に追いやるほど女子大生に過酷な拷問を加えた。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

北朝鮮の経済、とりわけ食糧事情は最悪の状況より改善されたものの、決していいとはいず、生活苦による自殺もを絶たない。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、道内の三水(サムス)郡に住む50代の女性はわずか30キロのトウモロコシを借りたことが自殺のきっかけとなる。

女性は今年夏、生活苦からヤミ金業者にカネの代わりとしてトウモロコシ30キロを借りた。秋の収穫後に60キロにして返すことにしていたが、不幸なことに水害や冷害でトウモロコシが凶作となった。それでも業者は執拗に返済を求めた。期限から1ヶ月過ぎても返済の見通しが立たなかった。女性は返済できないことを苦にして9月末、自ら命を絶った。2ヶ月後に子どもの結婚式が控えてのことだった。

この話を聞いた地元の住民は「何も死ぬことはないのに、頑張って借金を返して生き抜けばいい日も来るだろうに」と無念そうに語っているというが、他の地域でも生活苦による自殺が起きている。

咸鏡南道(ハムギョンナムド)のある村では、「三池淵(サムジヨン)の突撃隊(建設部隊)に行く」と言い残して家を出た男性が、山中で自殺しているのが、薪集めに行った村人に発見された。男性は家族に「働きに出たら苦労するから、その前にいい物を食べておきたい」とごちそうをねだったという。彼にとって最後の晩餐だったのだろう。

男性は周囲に「日々の糧を得ることすら難しい、もう生きていたくない」とよく漏らしていたという。村人たちは「周囲の人やお上がもっと関心を注いでいたら、あんな悲劇にはならなかっただろうに」と悔やんでいるという。

今年は凶作に加えて、経済制裁により市場の景気も冷え込み、借金を返済できなくなった債務者と債権者の間でのトラブルが絶えず、暴力沙汰になることも少なくないと情報筋は伝えた。

ヤミ金絡みのトラブルや生活苦で自殺する人は以前から後を絶たないが、当局は自殺対策、生活支援策よりも、体制維持のためのプロパガンダにばかり力を入れていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。そのため、借金絡みでの凶悪事件も起きている。

北朝鮮の貿易関係者と交流がある中国の対北朝鮮情報筋は、北朝鮮の一般市民は国際社会が一丸となって北朝鮮に対する制裁を実行しているという話を聞いても半信半疑だったという。

しかし、当局の「生活が苦しいのは米国帝国主義者の共和国(北朝鮮)圧殺策動のせいだ」とのプロパガンダを聞いて、事実であると信じるようになったという。庶民の暮らしをないがしろにして、逆効果しかないプロパガンダを熱心に行っているということだ。

金正恩党委員長が、いくら核・ミサイルの業績を誇示しようと、高い自殺率やカネ絡みの凶悪犯罪の多発は、北朝鮮経済がいまだに深刻な状況にあることを物語っている。