ブラジル人DFダルベルトがインテルに加入して、まず長友佑都に与えた影響は……胃腸炎だった(長友は胃痛のため8月12日のベティスとのプレシーズンマッチを欠場)。というのはもちろん冗談だが、ダルベルトが長友の今後に何らかの影響を与えるのではないかという声が聞かれるのは、ごく当たり前のことだろう。ポジションは彼と同じ左サイドバック。年齢は23歳と、30歳の長友に比べて若く、インテルは彼を獲得するために2000万ユーロ(約26億円)の大金をかけている。

 今シーズンよりインテルの監督に就任したルチアーノ・スパレッティは、夏のプレシーズンマッチでこれまでいつも4人のDFを使ってきた。ダヴィデ・サントン、クリスティアン・アンサルディ、ダニーロ・ダンブロージオ、そして長友佑都。そこにダルベルトが入ってきたわけで、誰かがいらなくなる可能性は高い。


フィオレンティーナ戦に先発が予想される長友佑都(インテル)photo by Getty Images

 長友は移籍の噂の中でこの夏を過ごしてきた。実際、スパレッティの就任時には長友の名前は放出要員のリストの中に入っていた。当初、監督は長友の存在はそれほど重要ではないと思っていたし、CBにはインテルがボールを持った時、攻撃に手を貸すことのできる選手を残したいと思っていた。

 また、長友はその売り先にも困ることはなかった。彼の元には主にドイツを中心に多くのチームからのオファーが寄せられていた。かの国ではすでに日本人選手は一定の高い評価を受けており、受け入れる土壌ができている。ブンデスリーガになじみやすいのもすでに立証済みだ。例えばハンブルクなどは右サイドバックに日本人の酒井高徳がいる。逆サイドに同国人の長友が入ればかなり有利なのではないかとも考えられた。

 しかし就任以来、長友の練習の様子を日々眺めてきたスパレッティは、次第にその考えを変えていく。監督は長友の特性、テクニック、そしてなにより仕事に対する真摯な態度を高く評価するようになったのだ。また試合の流れを読む力、なにより守備の場面での洞察力にも一目置くようになった。試合の様々な局面で、それに見合った対応が素早くできるということは、スパレッティ・サッカーの基本中の基本である。

「ユウトは非常に優秀な選手だ。常に自分のやるべきことを理解していて、その判断は完璧なことが多い」

 ビジャレアルとのプレシーズンマッチの後、スパレッティはこうコメントした。
 
 そして実は、今回のダルベルトの加入こそが、長友の未来をインテル残留の方向に大きく傾けた。

 ダルベルトはサイドをスピーディーに上がる典型的なブラジルタイプのDFだ。しかし、守備の点では長友の方が安定感がある。ダルベルトの持たないテクニックを持つ選手として、長友はダルベルトの控えには最適なのだ。いや、現時点のポジション争いにおいては長友の方が優位にあるかもしれない。彼の方がイタリアサッカーをよりよく知っているし、監督が望むことも即座に理解できる。

 週末のセリエA開幕戦のフィオレンティーナ戦では、長友のスタメン出場が見込まれている。おそらくここでの出来が彼の未来に大きく影響してくるだろう。

 いずれにしても、今後ほかの左サイドバックが加入しない限りは、長友がミラノに残るのはほぼ確定のようだ。いや、それどころかライバルだったサントン、そしてアンサルディまでが移籍する可能性がある。この放出はスパレッティにとっては理にかなったものだ。ダルベルトと長友がいればこのポジションは安泰だからだ。

 これから数週間、スパレッティはダルベルトにイタリアサッカーでの守備を叩き込むことになるだろう。長友は彼にとってよきお手本になる。もちろんダルベルトは、サイドを長い距離上がることにかけては長友よりも優秀だし、彼よりいい脚を持ち、スピードも速い。しかし守備のメカニズムをまだ飲み込めてはいない。

 インテルのオーナーである張ファミリーは、長友を高く評価している。彼の働きぶり、プロフェッショナル精神をよく知っているからだ。だから彼らは一度も積極的に長友を放出しようとしたことはない。ただ、会長はテクニカル面でのマネージメントを全てSD(スポーツディレクター)のピエロ・アウシリオと蘇寧グループのテクニカル・コーディネーター、ヴァルテル・サバティーニに任せていて、口出しはしないことにしている。

 もし彼らが長友残留を決意すれば、会長は満足するだろう。自分のチームに同じ東洋人の選手がいることは喜ばしいことに違いないし、長友の55番のユニホームはアジア地域で最も売れているということも忘れてはならない。

 最後にインテリスタの反応だが、彼らの長友に関する意見は真っ二つに分かれている。長友を高く評価するグループと、もうインテルには必要ないと思っているグループだ。前者は長友のプロ精神と監督の指示を最大限に実現しようとする点を高く評価している。かわって後者は、長友はインテルにふさわしい実力を持ってはいないとし、すぐにでも彼を売り払うべきだと主張する。

 SNSのコメントを読むと、インテルのここ最近の振るわない成績と長友を関連付けるコメントがあふれている。もちろんインテルの不調は彼だけのせいではない。もし今シーズン、長友がインテルに残り、スパレッティのもとで好成績を残すことができたなら、こうした彼への誤った評価も正せるはずだ。

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