現役選手であれば、練習で全力を尽くすだけで良かった。しかし、コーチになると、選手たちが力を尽くせる環境を作るところから考えなければならない。
「練習のテンポもそうですし、雰囲気もとても大事だと思っています。やはり練習でしか鍛えられないモノもあるから。練習で培った力を試合で試し、練習でさらに磨いていくという作業が重要。ちょっと試合に出て、活躍しても、レギュラーの座を手に入れられるものじゃない。やはりレギュラー選手には経験があるし、若手と経験者とでは見えない差はあるから。それは自分が鹿島に入った時にも痛感したこと。
 確かに若手が『なんで今度は外されたのか』と、疑問や不満に思う気持ちも理解できるけれど、つべこべ言わずにただやり続けなくちゃいけない。言って分かるものでもないだろうし、実際は言葉で理解するのではなく、選手自身が自然に気づくことが大事だと思います。『なんでだよ』という思いを抱いた選手とどうコミュニケーションを取ればいいのか、それは選手それぞれで対応も違うので、難しいところではあるけれど、それが僕らの仕事だと思っています」
 選手のメンタルについての重要性を語ってくれた羽田は、カシマスタジアムでプレーする選手を見ながら、「僕自身はあまり鹿島でプレーできなかったから、『こんななかでプレーする、選手はすごいな』って思うこともある」と笑い、続けた。
 
「鹿島のコーチはみな現役時代、クラブに貢献した人ばかり。正直、選手としては貢献できなかった僕が今、トップチームでコーチをやらせてもらっている。そう考えると、今、コーチとしてしっかりと貢献しなくちゃいけないという責任の重さを感じています」
 
 いつかはJリーグで監督をやりたいという目標を持つ羽田だが、柳沢は将来について訊くと「監督とか、まだまだそんな先のことは考えられない」と答える。
 
 柳沢は彼らしく、目の前にある現実の課題と向き合っていた。寡黙な男は、言葉の力が求められる指導者という仕事の難しさを実感しながら、奮闘している。そして、現役時代同様に、「なにより大切なのは今日の練習」という姿勢も変わらない。
 
「指導者としては選手を育てるとか、チームのマネジメントとか、先のことも考えなくちゃいけないけれど、今日、いい練習ができるのかというのは重要じゃないですか? 選手時代は余計なことは考えず、一生懸命与えられた練習で力を尽くせば良かった。でも指導者は、一生懸命やったことで身につく練習をさせなくちゃいけない。選手個々もそうだし、グループとして必要なものを提示していくうえでは、細かいことに目を向けて、繊細な心配りができないといけないし。そういう意味でも誠実さが大事だと思います」
 
 実戦的にリーダシップを発揮し、行動する羽田と実直ながらもカリスマ性を漂わせる柳沢。同じスピリッツのもとで鍛えられている個性の違うふたりの若いコーチ。彼らの成長が鹿島の未来へとつながっていく。
 
取材・文:寺野典子(フリーライター)