「肩にグッと痛みが」「グーッと、ですか」「いえ、グッと…」

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「今日はどうされましたか」「昨夜から頭がズキズキ痛みまして」――。クリニックで交わされる、医師と患者の「よくある会話」だろう。

日本語は、病気の具合を説明するためのオノマトペ(擬音や擬態表現)が豊富だ。症状をズバリ言い当てられる表現ではないが、初診の段階では医師にとって重要な手がかりになるという。

患者の8割「医師や看護師に理解してもらえた」

医師「肩の痛みはジワジワですか」
患者「ジワー、ですかね」

問診で、1枚の用紙を見ながら会話をする医師と患者。2017年6月2日放送の「とくダネ!」(フジテレビ系)で紹介された、奈良市の「かわたペインクリニック」での、河田圭司院長による診察風景だ。用紙には、ヒリヒリ、チクチク、ガンガンといったオノマトペと、それぞれにどんな痛みかをたとえた一覧が載っていた。「ガーン」なら、そのたとえは「突き刺されたように」という具合だ。表にあるオノマトペは40種類以上。河田院長によると、実際は傷みの種類が複数存在しても、患者は「痛い」とひとくくりでしかとらえない傾向が強い。そのため患者に聞き取りながら、症状を具体化していた。

体の不調を説明する際に、オノマトペは有効か。ファイザー製薬が2013年11月20日、興味深い調査結果を発表している。医師や看護師に、オノマトペを使って体の痛みを表現した際に、回答した6780人の80.7%にあたる5469人が、医師や看護師に、「よく理解してもらえたと感じた」「だいたい理解してもらえたと感じた」と手ごたえを得ていた。日本大学総合科学研究所の小川節郎教授はこの結果に、「今後、慢性疼痛の領域において、医学と言語学の連携が強化され、痛みの共通理解など、診療におけるより良いコミュニケーションを実現するための研究がさらに進展することを期待しています」とコメントした。

ではどんな痛みにどのオノマトペを使う傾向にあるか。同調査によると、炎症や刺激による「侵害受容痛」に分類される肩関節周囲炎や変形性膝関節症では、「ズキズキ(する)」が最多だった。神経による「神経障害痛」では、例えば坐骨神経痛の場合「ズキズキ(する)」「ジンジン(する)」「ピリピリ(する)」の順に多かった。

オノマトペを具体的な痛みに比喩表現する装置も

医師にとっても、オノマトペは患者から有力な情報を引き出すキーワードとなるようだ。ファイザーは医師にもオノマトペに関する調査を実施し、2016年10月26日に発表した。調査にこたえた医師169人中、問診時にオノマトペを使用しているのは、「よくある」「ときどきある」を合わせて88.8%にあたる150人。その理由として9割以上の回答者が選んだのが、「患者から痛みの情報を聞き出しやすくなるから」「患者の痛みの表現から痛みの種類が推測できるから」だった。

もちろん「ズキズキ」にも個人差があり、単純に「こういう痛みだ」と100%結論付けられはしないだろう。だが東京都内の内科医に聞くと、医師たちはそれぞれの医療機関で勤務して経験を積み知識を磨くなかで、あまたある痛みの特性を理解、把握していくようだ。それが、患者とのコミュニケーションに生かされる。

近年では、こんな取り組みもある。電気通信大学大学院情報理工学研究科の坂本真樹教授は、オノマトペを定量化する診断システムを開発した。同大学ウェブサイトによると、「ズキン」といった語句を入力した場合、「痛みの度合いを『強い』『鋭い』など複数の要素で数値化し、さらに「ハンマーで殴られたような痛み』『電気が走るような痛み』というように比喩でも表現することで、主観的な痛みを可視化」しているという。将来実用化されれば、患者側で表現しきれなかった「本当の痛み」を見つけ出す有効なツールになりそうだ。