iPhone製造工場に潜入した学生が「なぜアメリカにiPhone製造を呼び戻せないか」を語る
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iPhoneを製造する中国の工場に身分を隠して潜入し、6週間にわたって期間工としてiPhone製造作業を行ったニューヨーク大学の学生が、「iPhoneの製造現場をアメリカに取り戻すのは不可能」「無理にアメリカに取り戻せば、状況はさらに悪化する」と述べ、その理由を実体験に基いて明らかにしています。
iPhone factory observer: why Trump can't bring manufacturing jobs back
アメリカのドナルド・トランプ大統領は、中間層に向けて「失われた雇用をアメリカに取り戻す」と公約し見事に大統領の座を射止めました。そして、iPhoneなどの端末を製造するAppleにアメリカでの雇用創出のために、製造拠点をアメリカ国内に移管するよう強力に促しています。
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しかし、トランプ大統領の考える「アメリカ第一主義」に基づいてiPhoneの製造工場をアメリカに移すことは、まったくもってアメリカ国内の労働者のためにならない、それどころかより悲惨な状況を生み出し得ると、ニューヨーク大学の修士課程に在籍するDejian ZengさんがCNBCの取材に対して答えています。Zengさんは、夏季休暇を使って中国にあるEMSペガトロンのChangShuo工場に期間工として参加して、6週間にわたってiPhone製造工場で働き、その内実を赤裸々に告白した人です。
iPhoneを製造する中国の工場に潜入したアメリカの大学院生がその労働環境を赤裸々に告白 - GIGAZINE
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ZengさんがCNBCのインタビューに答える様子は、ムービーで確認できます。
Student who worked in Chinese iPhone factory explains why manufacturing jobs aren't coming back to the U.S.
トランプ大統領がiPhone工場をアメリカ国内に戻したいという意向があることについての意見を求められたZengさんは、自らの体験に照らして「不可能だと思います」と答えています。
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ZengさんがiPhone製造工場で得た賃金は、月額で3000元(約4万9000円)だったとのこと。この賃金水準は中国で受け入れられたとしてもアメリカではとうてい受け入れられないだろうとZengさんは考えています。
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もしも、本当にiPhone製造工場を中国からアメリカに移せばどういう結果が待っているか?という質問に対して、Zengさんは「労働者の代わりにロボットが導入される結果になる」と答えています。労働者に賃金を支払うよりも、労働者の代わりにiPhoneを製造するロボットを開発しようという動きにつながり、結果としてアメリカで雇用が生み出されることはなく、アメリカに雇用を取り戻すことにはならないというわけです。
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Zengさんによると、製造ラインで働く人の数は約200人。黙々と単調な作業を分担している労働者ですが、「あくまで『現時点では』ロボットよりも安く済むから雇い入れられているだけ」とZengさんは考えています。逆に言えば、ロボットを開発・導入・保守管理する方がコストが低いならば、Appleは間違いなく労働者ではなくロボットを導入するということです。
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現在、iPhone工場では1日に3600台のiPhoneが製造されているとのこと。人間の労働者だけでなく自動化されたロボットの導入によってハイペースな製造スピードが維持されており、今後も、労働者を置き換えるロボットは開発され続けると考えられています。
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iPhoneの製造を引き受けている中国では、年々物価が上昇しています。それに伴い閉鎖される工場も出てきて、より内陸部の賃金の安い土地に移転する動きも見られているとのこと。
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そして、中国国内からより賃金の安い他の地域に製造拠点が移されるという状況になりつつあります。これは製造業で繰り返されてきた歴史であり、この流れに逆らうことは困難だとZengさんは考えています。
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Zengさんによると、iPhoneの製造が完全に機械化されていない理由は、「ロボットを開発したり保守したりするコストよりも、依然として労働者を雇い入れる方が安いから」だとのこと。裏を返せば、コスト面で逆転した部分は順次、ロボットに置き換わっているということです。
労働コストが安いため「世界の工場」として機能してきた中国でさえ人件費が高騰したため、ベトナムやバングラデシュなどのより安価に労働力を確保できる場所に製造拠点が移り始めているとのこと。このような世界の状況を考えると、Appleに製造拠点をアメリカ国内に移すことを強制するのはナンセンスであり、仮にトランプ政権が強行すれば、出てくる結果は「iPhoneの価格高騰」か「ロボット導入スピードの高まり」になるだけだとZengさんは考えています。