「ジオブロッキング」、このワードを聞いたことがあるだろうか?
日本では、あまり取り上げられることの少ないワードだが、最近、欧州連合(EU)競争法が取り締まりを強化する姿勢を示していることで世界では話題になっているキーワードだ。

◎ジオブロッキングとは?
インターネットで世界中がつなが、国や地域といった「境界」を意識せずに、大勢の人たちがコミュニケーションできるようになっている。

それは事実だが、その一方で、何らかの理由でアクセスできないデジタルコンテンツが存在するのも事実だ。その1つが「ジオブロッキング」、地理的なアクセス制限だ。ただ、単に地理的な問題ではなく、コンテンツの扱いが、各国(地域)で異なるというのがその原因だ。

たとえばYouTubeで、サムネイルが表示された動画をクリックしても。
「あなたの地域では再生できない」
などのエラーで再生できないことがある。


つまり、当該の動画の提供者が特定地域以外に再生を許可していないのだ。
このため、特定の地域では再生できないということ。これが、いわゆるジオブロッキングだ。

こうしたアクセス元による制限は、IPアドレスやジオタグが使われている。

インターネットは、IPアドレスを基本にした通信を行うネットワーク(IPネットワーク)だ。
そこで使われるIPアドレスは、IANAが管理している。大元のIPアドレスが国や地域で割り当てられ、そこから各ISP事業者などが使用するという形で管理されている。こうしたIPアドレスの大元の割り当ては公開されているため、国・地域の識別が可能なのだ。

余談だが、よくあるIPアドレス検索などのサイトは、IPアドレス割り当てのこうした仕組みを使っている。ただ、分割されたIPアドレスの割り当て情報は、分割された先にいけばいくほどわからなくなっていくので、県、市町村のレベルまで正確に識別されることはないが、大きな区分(国・地域)であれば、はっきりしている。

また、ジオタグ(緯度・経度の情報)をコンテンツ側に付与することで、個々のコンテンツの再生の可否をコントロールすることができる。

◎コンテンツホルダーとプラットフォーム
ジオブロッキンが適用される背景には、ビジネス的な事情(思惑)が絡んでいる。
YouTubeで日本のレーベルのMVが海外で再生されないという件も、ある意味ではジオブロッキングの一種といえるだろう。

ジオブロッキングという言葉は出てこなかったが、今年2月に「YouTubeの公式チャンネルにアップした楽曲が海外で再生できない」と、ミュージシャン自身がツイートことをキッカケに議論が起こり、当初は、音楽レーベルが国外での再生に制限をかけているのではないか? と疑問視された。

実際には、YouTube Redの規約の問題であり、日本国内の多くの音楽レーベルも同じ状況だといわれている。

YouTube Redとは、広告なしで動画が見放題となる定額の会員サービスで、現在、利用できる地域は限られている。このYouTube Redの規約で定められた収益率に納得できず、それを受け入れなかったYouTubeパートナーに対し、Googleが彼らの動画をYouTube Redの利用地域で視聴できないようにしているのではないか? と、みられているようだ。

それぞれのサービスは、ビジネスとして運用されているのだから、軽々しく是か非かを判断することはできないが、インターネットが市場として確立されてきたことから、コンテンツホルダーとプラットフォーム、それぞれのビジネスがぶつかるようになってきている、ということはいえるだろう。

◎なぜ欧州連合(EU)競争法が?
さて、冒頭の欧州連合競争法の話に戻るが、これはいわゆる、日本でいうところの独禁法にあたる。これに基づき、2020年までに「デジタル単一市場の完成」を目指すEUにとっては、こうした企業によるジオブロッキングという行為は、独占的な商行為であり、大きな阻害要因となるわけだ。

国ごとのライセンス販売を容認すると、同じコンテンツであっても
・国が違ってしまうと購入(利用)できない
・価格に大きな差が生じる
といった事態になる。
それは「国境線という障害のないヨーロッパにおいて労働者、商品、サービス、資本を自由に流れさせること」に反するので、なくしましょうということ。

実際、欧州委員会は2月に、Steamというゲームプラットフォームについて欧州連合競争法に違反しているかどうか、運営する企業Valveとパブリッシャー5社の調査を開始すると発表している。

前述のように、企業としては、ビジネスとしてジオブロッキングをしないわけにはいかないという面は少なからずある。もちろん、ジオブロッキングをせずに広く頒布し、別の形で利益を得るというビジネスモデルもあるだろう。

いま現われているケースはあくまでEUという特殊性も大きいが、将来的に、流れは「インターネット上のサービス(コンテンツ)をインターネットにつながるすべての人が平等にその恩恵を受けられる世界」に向かっていくだろうと思われる。

しかし、そうした時代の流れだとしても、それは制作・提供元の利益を不当に奪うものであってはいけないはずだ。

どう解決すべきなのか、これから議論がされていく問題だ。日本では、まだあまり話題にならないが、そろそろ意識しておいたほうがいい。


大内孝子