「第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」で決勝ラウンド進出を決めた「侍ジャパン」こと日本代表チーム。20日(日本時間21日)から開催される米ロサンゼルスでの準決勝に期待が高まります。野球は投手の実力が勝敗を大きく左右するスポーツですが、現代野球においてそれは変化球の良し悪しに掛かっていると言っても過言ではありません。そこで今回は野球の「変化球」について、TOKYO FMの番組の中で詳しい方々に教えてもらいました。
(TOKYO FM「ピートのふしぎなガレージ」3月11日放送より)


※写真はイメージです



◆「フォークボールを投げるには」
〜元・福岡ソフトバンクホークス投手、野球解説者 斉藤和巳さん


僕が現役時代に投げていた球種はストレート、カーブ、スライダー、フォークの4つ。プロはストレートと同じ腕の振りや投げ方で変化球が投げられるよう練習します。プロのレベルでは投手の腕の振りで球種がわかってしまうと、打者がタイミングを合わせて来ますから。

僕が得意としていたフォークボールは基本的にコントロールしにくい球種です。フォークに限らずチェンジアップ、シンカーなどの落ちる変化球は空振りを取りたいボールなので、緻密なコントロールよりもストライクからボールになる変化を練習するのが基本ですね。落ち幅が小さくなってストライクゾーンに投げてしまうと打者にとって絶好球になってしまいます。だからまずはホームベースの上でワンバウンドさせる練習から始める人が多いと思います。

普通のフォークボールのほかに、よく似たSFF(スプリット・フィンガー・ファストボール)という変化球もあります。フォークはスピードが遅くなって大きく落ちる変化球で、SFFはスピードがあるまま鋭く落ちる変化球とされていて、僕のフォークはSFFなんだそうです。正直、まわりの人がそう言うので「そういうものなのか」と思っていますが、自分では違いがよくわかっていなかったりします(笑)。

フォークは落差が求められるので、指で深くしっかりと挟んで投げます。そのぶんコントロールは難しくなりますが、大きな落差が武器になるというボールです。現役の選手ではホークスの千賀投手が有名ですね。彼のフォークは「おばけフォーク」と呼ばれるほどの落差を誇ります。かつて大魔神と呼ばれた横浜の佐々木投手のフォークに匹敵するでしょう。

僕も最初は千賀選手や佐々木さんのような落差の大きいフォークを練習していたのですが、どうにもコントロールができなかったので落差の小さなフォークをしっかりコントロールできるよう練習しました。大きく変化するボールのほうが強力な武器になりますが、コントロールできなければ意味がありません。投手の仕事は打者を抑えることなので、バットの芯を外せば良いという考え方にシフトしたのが良かったんだと思います。

僕の投球は直球とフォークが決め球でしたが、だからこそ「裏」のカーブとスライダーが重要でした。裏のカーブとスライダーがあってこそ打者が迷って、表の直球とフォークを活きるんです。たとえばフォークを何球も投げたときも打者が「もうそろそろ違う球が来るのでは」と思うだけで全然違います。そんな駆け引きがプロの世界で勝つためには大事なんです。

◆「クロマティを三振に取った球」
〜元・横浜大洋ホエールズ投手、野球解説者 遠藤一彦さん


私は野球を始めたのが中学からで、投手専門になったのが高2の秋から。大学まではストレートとカーブだけで、ストレートも135km/hくらいだったので、なぜプロから声が掛かったのかは私にとってもいまだに謎です。そしてプロ1年目が終わったときに、担当スカウトから「何か違うボールは投げられないのか?」と聞かれ「遊びでフォークを投げたことならあります」と答えたら「それを練習してみたらどうだ」と言われて、2年目のキャンプからフォークボールの練習を始めました。

一般的に「フォークボールを投げるには指が長いほうが有利」と言われます。実際「フォークボールの神様」と呼ばれた元・中日の杉下茂さんにコツを教わりに行ったのですが、杉下さんと手を合わせてみると私よりも関節ひとつ分も指が長くて、指の間にボールを挟んでもさらに指が余るほどでした。私の指の長さは普通の人とほとんど変わらないのでちょっと参考にならなくて、人差し指と中指を大きく広げるためのトレーニングを重ねるなどして自己流でフォークボールを覚えたんです。

こうしてフォークボールを覚えてプロで通用するようになったのですが、広島にだけはよく打たれました。これは癖を見抜かれていたからで、広島から長内選手が移籍してきたときに「遠藤さんの球種は入り方で全部わかります」と教えてくれたんです。古葉監督も広島から横浜に来て「球種がバレてるからなんとかしろ」と。ただ、当時は三塁コーチャーが球種を教えていた時代だったので、投球動作に入ったら隠しようがありません。最終的には「打たれないボールを投げるしかない」と開き直って投げていました。

巨人のクロマティがヒットを打った後、よく一塁ベース上で投手に向かって自分の頭を指差していたのは「配球は読めてるよ」というアピールでした。悔しいので一度やり返してやろうとみんなで話をしていたのですが、凡打では一塁に走った後すぐにベンチへ戻ってしまいますし、なかなか三振しない選手なので意外とチャンスがありません。でもあるとき、二死満塁でクロマティを2ストライクと追い込み、普通ならフォークのところを裏をかいてストレートで空振り三振に取った瞬間、自然と人差し指が頭に行きました。これは気持ち良かったですね。

ただしクロマティは悪気があってそういうゼスチャーをしていたわけではなく、試合を盛り上げようとしていたのだと思います。その試合の後で帰り際にすれ違ったら「グッジョブ!」と声を掛けてくれたのも良い思い出です。

◆「解析できない魔球を投げる人がいました」
〜理化学研究所 情報基盤センター長、工学博士 姫野龍太郎さん


私は福岡ソフトバンクホークスの工藤公康監督が横浜でまだ現役だったときに「もう少し現役を続けるために何かできませんか」と相談を受けたことがあります。そこでモーションキャプチャーで工藤さんの投球フォームを解析して、改良の余地がないか調べたんです。ところが工藤さんのフォームは非常に効率的で無駄がない。「残念ながら改良の余地がないので、球種を増やすのが手っ取り早いのでは……」と言うしかありませんでした。

工藤さんのフォームを調べてもうひとつわかったのが、工藤さんは直球を10球投げると、すべて同じ速度、回転軸、回転数の球を投げるということです。これはコントロールが正確である反面、打者から見れば同じ軌道なので打ちやすい部分があるかもしれないと思いました。もちろん打ちにくいコースを正確に狙ったり、ボール1個分の出し入れをすることはとても高度な技術。その裏返しなので難しい部分ではありますが。

変化球の研究をする中で興味深かったのは、昨年引退した広島の黒田博樹投手です。黒田投手のボールは見たことがない変化で、どんな回転をしているんだろうと不思議に思うほどでした。黒田投手は大リーグで長く活躍していたこともあり、1球ごとに球筋が違うムービングボールを得意としています。それがストライクゾーンの右端の奥とか、手前側の下をかすめるとか、ものすごく打ちにくい場所に決まるんです。しかもまるでスライダーのような投げ方なのに、反対のシュート方向に変化したりするのが不思議で仕方ありませんでした。

黒田さんが引退されたので、その秘密を教えていただける機会があったらとても嬉しく思います。映像で「こういう回転をしているからこういう変化球になる」ということはわかりますが、「どうやって投げるのか」はご本人に聞いてみないとわかりませんから。でもこれから黒田さんが若い選手に教えて、そのボールを受け継ぐ投手が出てくるかもしれないのも楽しみですね。

TOKYO FMの「ピートのふしぎなガレージ」は、《サーフィン》《俳句》《ラジコン》《釣り》《バーベキュー》などなど、さまざまな趣味と娯楽の奥深い世界をご紹介している番組。案内役は、街のはずれの洋館に住む宇宙人(!)のエヌ博士。彼のガレージをたまたま訪れた今どきの若者・新一クンと、その飼い猫のピートを時空を超える「便利カー」に乗せて、専門家による最新情報や、歴史に残るシーンを紹介します。

あなたの知的好奇心をくすぐる「ピートのふしぎなガレージ」。3月18日(土)の放送のテーマは《ハチミツ》。お聴き逃しなく!

<番組概要>
番組名:「ピートのふしぎなガレージ」
放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国37局ネット
放送日時:TOKYO FMは毎週土曜17:00〜17:50(JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください)
番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/garage


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聴取期限 2017年3月19日 AM 4:59 まで

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