「副業」推進に賛否あり

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企業が社員の副業を認める動きが出てきた。政府も2016年9月末から始めた「働き方改革実現会議」で、「副業・兼業など柔軟な働き方」をテーマの一つとして取り上げ、推進に向けた具体的な取り組みを行おうとしている。ただ、副業禁止は長年、企業文化の中に根付いてきただけに、企業側の抵抗感もあり、副業が一般的に広がるかは未知数だ。

ロート製薬(大阪市生野区)は2月、副業を解禁すると宣言した。具体的には「社外チャレンジワーク制度」を導入、会社という枠組みを超えた働き方に社員が挑戦できることにした。入社3年目以上の社員が対象で、本業に支障をきたさないものについては、休日などに副業を認めるものだ。さっそく社員約60人が立候補し、小売業や非営利団体(NPO)などで働き始めたという。

容認し、離職率が下がった会社も

同社は老舗の製薬会社として、目薬を中心とした一般用医薬品を手掛けてきたが、最近では、再生医療や食・農業など新分野にも乗り出している。会社自身が挑戦的に新しいことに取り組む中、社員も社外でさまざまな業種の人と触れ合い、経験を積むことで、自立する人材に育ってもらおうという狙いだ。同社は、そんな人材がいずれは会社のためになると見込んでいる。

すでにIT企業を中心に、副業を容認するケースは増えつつある。代表例の一つは、ソフトウェア開発などのサイボウズ(東京都中央区)だ。社は2012年、社員の多様性を受け入れる人事施策の一つとして、副業の解禁に踏み切った。社のブランドを損ねてはならないなど一定の条件はあるものの、副業をするに当たっては届け出も必要なく、基本的に社員の自由に任せている。

同社は、働き方を自分で選べる「選択型人事制度」を設けているが、この制度や副業解禁の効果で、2005年当時は28%にも上った離職率が、現在では4%程度に下がったという。働き方に多様性をもたせることで、優秀な人材をつなぎ留める効果が出ているようだ。

終身雇用と年功序列との関係

政府も副業推進に動き出したが、その狙いは、人口減少で労働力不足が深刻化しつつある中、個々の働き手の労働生産性を上げることが効果をもつと判断しているためだ。加藤勝信・働き方改革相は記者会見で、「社員が成長し、新たな事業や技術革新にチャレンジするのは、企業にとってもプラスになってくる」と述べ、社員の能力向上が企業の将来にプラスに働くと見ている。

厚生労働省も、企業の参考に示している標準的な就業規則で兼業・副業を禁止しているのを、副業容認の様式に改めることを検討している。

ただ、企業の中には反発も根強いとされる。中小企業庁の委託でリクルートキャリアが行った調査によれば、2014年度に社員の「兼業・副業」を「容認している」と答えた企業は3.8%に過ぎない。副業をすることで、社員が本業をおろそかにしたり、副業をきっかけに優秀な人材が社外を離れたりすることを恐れているためとみられる。

根底には終身雇用と年功序列という日本的な雇用慣行の根強さがある。一生面倒を見てもらう代わりに会社に忠誠をつくすということで、本業の業務以外の仕事に手を出すなどもってのほか、というのは、いわば企業文化としてしみついているケースが多い。政府の後押しがあるとはいえ、経営者、そして従業員自身の意識を変えることは、簡単ではなさそうだ。