志磨遼平 『溺れるナイフ』で魅せる、ヒロインを導く圧倒的存在感

撮影/祭貴義道 取材・文/新田理恵 制作/iD inc.

「恥ずかしながら、また芝居がやりたいと思った」
――俳優初挑戦となった『溺れるナイフ』。田舎町に引っ越した人気モデルの夏芽(小松菜奈)を気に入り、芸能界に引き戻そうとする気鋭のカメラマン・広能晶吾という役どころでしたが、志磨さんの只者ではないオーラがすごいと思いました。
いやいやいやいや…。
――ミュージシャンとしてのパフォーマンスと、映画でのお芝居は、使う筋肉が全然違うと思うのですが、今回、俳優業を経験してみていかがでしたか?
僕は楽器を持たないから、ミュージックビデオだったり、ステージだったり、カメラの前で多少身体を動かしてはいるので、なんとなく「(演技も)できるんじゃないですか?」と皆さんから思われるようで。実際そういうふうにも言ってもいただいたんですけど…。

――やってみたら全然違った?
歌うとか踊るとかは、自分に今、「歌いたいな」「踊りたいな」っていう衝動があって、それが筋肉に伝わって、手が、足が、顔が動いていく。でも、「ペットボトルから水を飲んでください」って他人から指令がくだって、今喉が渇いてるわけじゃないけど水を飲むってなったとき、なかなか筋肉は上手く作動してくれないんですね。
――なるほど…。
「あ、これが演技か」って思って。一回、自分の中で消化して身体を動かすっていうのは、まったく違う。やっぱり普通に生きているとないことですから。
――しかも、そのひとつひとつの動きに理由がありますからね。
そうです、そうです。「上手に嘘をつけ」っていうことですよね。面白い経験でしたね。
――ミュージシャンのときは、志磨さんご自身が表現したいことを表現する。それが、俳優となると、俳優部の一員として駒になる。その感覚もまた全然違うのでは?
違いましたね。ジャッジが自分のものではないっていう現場も初めてなので。10何年も音楽しかやってこなかったので、作業って自分が満足するまでやるもんだと思って、歌い直したり、演奏を録り直したりしていた。ライブぐらいですよね、やり直しがきかないのは。それだって自分の責任です。だから、初めて他人から、たとえば(『溺れるナイフ』の)山戸(結希)監督に「今のはすごくよかったのでOKです」って言われると、「今のでよかったのかな?」っていう…。後悔とまではいかなくても。

――自分では良し悪しがジャッジできず、疑問が湧いたと?
経験がないですから、どうしていいかも、まだわからなくて。でもまあ、監督がいいとおっしゃるなら、いいんだろうって飲み込んで。それで、映画が完成しても、なんとなく自分の中に残っているものがあるんです。「あのとき、こういう選択肢もあったかな」とか。その残っているものって、もう、『溺れるナイフ』のものではないんですよね。たぶん、何かまた次に活かそうとしている。
――次はこうしよう、みたいな欲が出てきた?
「終わったし、まあいいや!」っていう気持ちではなかったのが、自分でも意外だったんです。まさかそんなふうに思うとは思わなかったから。
――また機会があればお芝居をやってみたい、と?
思ってしまったんですよ。恥ずかしいことに。
――本作を観て、もっと俳優・志磨遼平を見てみたい! と思いました。
今回はカメラマンっていうお仕事の役だったから、まだ何とか。ちょっとは自分とも関わりの深いお仕事ですから。


――いきなりサラリーマン役だったらちょっと…。
そうそう、ちょっとね。それこそ、一回取材から入らないと。
――インターンとか(笑)。
髪切るとこから始めないと(笑)。
「10代の頃、誰かに見つけ出してほしかった」
――原作の広能と志磨さんの雰囲気は全然違いますよね。演じるにあたり、参考にしたものや、監督からの指示はありましたか?
いや、監督はたぶん、このまるっと「僕」っていう感じを、そのまま(ヒロインの)夏芽ちゃんにぶつけたかったのかな? って思います。でも、「僕っぽくすればいい」というのがすごく難しいから、助けを求めるような感じで他にモデルを探しました。
――具体的には?
カメラマンとしての仕草みたいなものは、いままで何人も撮ってもらったカメラマンの動きを見てきていますし、あと、僕はセルジュ・ゲンズブール(フランスの作詞・作曲家、歌手、映画監督、俳優)っていう人がすごく好きで、原作を読んで、広能さんがゲンズブールに似てるなぁと思って。

――雰囲気はありますね。
顔も似てるし、無精髭だし。まだ幼い女の子を自分の作品の中で羽化させるというか、大人にするようなところも似てる。すごい平たい言葉で言うと、「ロリコン」みたいな。
――確かに、平たく言うと(笑)。
でも、名プロデューサーでもあるっていう。広能ってそういう感じなのかな? って勝手に思ってたんですが、でも、どうもね、山戸監督やジョージ朝倉先生に聞いたら、原作のモデルは『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦先生だと…。
――えぇっ!? 全然違いましたね。
そう、えぇっ!? って。でも、個人的にはゲンズブールのように解釈していました。
――志磨さんは和歌山のご出身ですね。『溺れるナイフ』の舞台は架空の町ですが、お祭りなどの風習のモデルとなり、ロケ地にもなったのが和歌山です。その田舎の閉塞的な雰囲気は志磨さんにとってイメージしやすいものだったのではと思いますが、広能は、そこから夏芽を導き出していく存在ですね。
自分が10代、20代のときに求めていたヘルプというか、「ここから引っ張り出してほしい」って思う対象が、夏芽ちゃんにとっては、たぶん広能だった。だから、なんとなくそれは意識しながら、映画の中で、昔、自分が誰かにしてほしかったことをするという感じでした。つまり、見つけ出してもらうこととか、認めてもらうこととか、子どもとして扱われないこととかですね。

――この映画では10代の強烈な自意識が描かれていますが、志磨さんにも当時、夏芽と同じように、外へ出たい、もっと強烈な何かが欲しい、みたいな感覚があったんですね。
「若いから」とか、「そんなお前みたいなもんが」とか、僕がバンドやってるときも言われましたけど、『溺れるナイフ』の世界でも、夏芽ちゃんとコウちゃんは、そういうことを言われる世界でがんじがらめになってる構図があって。広能は夏芽を、田舎の中での人間関係だったり、噂だったり、そういうものから救ってあげる蜘蛛の糸のような人だったんでしょうね。
――かつて自分が求めた存在を、今回演じることができたということですね。
たぶん、そういうことなんだろうなと思っています。

「絶対に大丈夫と自分を信じてあげる力こそ、才能」
――志磨さんは高校を中退されていますが、それは音楽へのパッションゆえに、退路を断とうとしたのでしょうか?
逆です。パッションなさすぎて…。
――音楽一本にかけたからではなく?
学校にまったく間に合わない時間に起きてたんですよ(笑)。
――(笑)。あ、行かないというか、行けなかったんですね。
急にねぇ、起きられなくなって…。
――それは、登校拒否みたいな?
「ナルコレプシー」って、むちゃくちゃ寝るっていう病気があるっていうじゃないですか。それだったんですよ、たぶん。ホントに、ご飯食べながら、会話の途中で寝ていました。しかも、僕の(しゃべる)ターンなんですよ。「今日さぁ…zzz」って。みんな「えっ!」っていう(笑)。それぐらい眠かったんです。

――まわりもビックリですね(笑)。
ホントに。玄関開けてすぐ、玄関で寝たり。そうこうしてると、単位がなくなって。もう1年さらに高校へ行くぐらいだったら、起きてる短い時間で曲作るわ! と思って(笑)。楽器屋さんでアルバイトをしてたから。練習スタジオとかで曲を作って、「これから僕は24時間、音楽の人だ」って決めて。
――“誰かが見つけてくれる”ことに疑いはなかった?
疑いはなかった。絶対に、ゼッッタイに、大丈夫なんだと信じ込んでました。みんなそうですよ、きっと。
――10代の頃ってそうかもしれないですね。
そうです、そうです。それがたぶん、才能っていうやつですから。
――どこまで信じ込めるか、ですよね。
そうそう。自分に対して。
――信じられなくなって別の道に行ったときに夢が終わる。
そこから、また上手くいけばもちろんいいんですが。でも、途中で不安になるっていうのは、目指すものに対して、残酷だけど才能がなかったっていうことになりますよね。たぶん才能って、不安にならない力ですね。歌がうまい、とかじゃなくて。

――夏芽や、かつての志磨さんが求めた存在の広能。その役に、実体験を踏まえて共感できる志磨さんをキャスティングした監督の目はすごいですね。
監督は僕に、「広能みたいな存在で、そのまま夏芽ちゃんに対峙してくれ」って言ってるんだろうなって、自分なりに解釈してやりました。今、話してて思い出したんですけど、「コウちゃんに勝ちたい」って言う夏芽ちゃんに、広能は「もう勝ってるでしょ」って言う。あの言葉を言うためだけの、広能ですよね。たぶん。うん。
――あの一言がすべてだった?
10代のときに、あの一言がどれだけ欲しいか。すごい覚えてるんですけど、インディーズ時代、初めてのCDを出したときのことです。その少し前ぐらいから、お客さんがちょっとずつ増えだして、すごい有名なプロのバンドの現場を担当されてるローディーさん(ステージ袖で楽器トラブルに対応するなど、ミュージシャンを支えるスタッフ)がよく見に来てくれるようになったんですね。「カッコいいね」って言ってくれて。
――その人は、お仕事ではなく?
僕らにはローディーいらない時期ですから。ただ単に、陰で「休みやから見てる」って言って。それで、CDが出たあとに、そのローディーさんが「よかったね。もう、これからずっと大丈夫でしょ」って言ってくれたんですよ。しばらくは、その言葉を信じてずっとやってましたね、


――志磨さんにとって、大きな一言だったんですね。
“メジャー”っていうところにいるプロが、「ここから先はもう大丈夫なんじゃない?」って言ってくれた。それまで、自分で自分に言い聞かせるだけだったから、第三者からそう言ってもらえて、「やっぱり、ゼッタイいける!」って思えた(笑)。夏芽にも、そういう役割をしてあげるんですよね、広能さんは。
――公開中のアニメ映画『GANTZ:O』でも主題歌『人間ビデオ』を歌われるなど、映画と縁のあるお仕事が続いていますね。好きな映画はありますか?
ありますよ。「一番は?」って聞かれたら、いつも『小さな恋のメロディ』って答えるんです。
――可愛らしい作品ですね。志磨さんの音楽を聴かせていただいて感じるのですが、ロックミュージシャンという尖った響きとは裏腹に、すごく優しくて正しいですよね。
「優しくて正しい」は、僕が、ロックがそうであれればいいなって思っている2大柱ですよ。僕自身、そういうふうに思ったんですよね、ロックに対して。

【プロフィール】
志磨遼平(しま・りょうへい)/1982年3月6日生まれ。和歌山県出身。毛皮のマリーズとして2011年まで活動した後、2012年1月にドレスコーズを結成。デビューシングル『Trash』が映画『苦役列車』の主題歌に。2014年9月リリースの1st.E.P.『Hippies E.P.』を最後にバンド編成での活動を修了。ドレスコーズは志磨のソロプロジェクトとなる。今年6月に放送されたWOWOWドラマ『グーグーだって猫である2』の第3話に出演。『溺れるナイフ』の主題歌『コミック・ジェネレイション』も収録したニューシングル『人間ビデオ』をリリース。『人間ビデオ』は公開中の3DCGアニメ『GANTZ:O』の主題歌になっている。
【Twitter】@thedresscodes
志磨遼平(しま・りょうへい)/1982年3月6日生まれ。和歌山県出身。毛皮のマリーズとして2011年まで活動した後、2012年1月にドレスコーズを結成。デビューシングル『Trash』が映画『苦役列車』の主題歌に。2014年9月リリースの1st.E.P.『Hippies E.P.』を最後にバンド編成での活動を修了。ドレスコーズは志磨のソロプロジェクトとなる。今年6月に放送されたWOWOWドラマ『グーグーだって猫である2』の第3話に出演。『溺れるナイフ』の主題歌『コミック・ジェネレイション』も収録したニューシングル『人間ビデオ』をリリース。『人間ビデオ』は公開中の3DCGアニメ『GANTZ:O』の主題歌になっている。
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10月12日リリース!!

左より、R.I.P.デラックス盤、溺れる盤
【R.I.P.デラックス盤】
品番:KICM-91708
価格:¥4,800+税
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1. 人間ビデオ(フル3DCGアニメーション映画「GANTZ:O」主題歌)
2. コミック・ジェネレイション(映画「溺れるナイフ」主題歌)
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品番:KICM-1731
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