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2016年10月5日、AmazonのベゾスCEOが設立したロケットベンチャーの「Blue Origin」が、ロケットの安全な打ち上げにおいて重要な乗員脱出システムの実機テストに成功しました。テストの様子を収めた動画には、発射台から打ち上げられて上昇するロケットブースターから上部の乗員カプセルが脱出用のロケットブースターエンジンを噴射して離脱する様子が収められています。

Blue Origin | New Shepard In-flight Escape Test

https://www.blueorigin.com/news/news/new-shepard-in-flight-escape-test

今回の実験の目的は、打ち上げ中にロケットに何らかの異常が発生した際に、燃料を大量に搭載するロケットブースターから乗員用カプセルを切り離して緊急離脱させることで、乗員の安全を守るシステムがきちんと動作することを確認するというもの。実際に乗員用のカプセルを搭載したBlue Originのロケット「New Shepard」を打ち上げ、45秒後にカプセルの緊急脱出ブースターを作動させて猛スピードでロケットブースターから遠ざかる様子が以下のダイジェストムービーに収められています。

New Shepard In-flight Escape Test - YouTube

発射台で打ち上げを待つBlue Originのロケット「New Shepard」



シンプルな打ち上げ施設を持つ発射台。ややずんぐりしたNew Shepardは、カプセルを含めた全高およそ20メートルという小型なロケットです。



先端に取り付けられているカプセル部分。一回り細いブースターとの間には空間が設けられ、非常脱出時に噴射される脱出ロケットのガスがここを通るようになっている模様。



カウントダウンが行われ、New Shepardのロケットエンジンに点火され……



推力11万ポンド、馬力換算で100万馬力以上という液体燃料エンジンが文字どおり「火を噴いて」、カプセルとブースターを一気に空高く持ち上げます。



液体水素と液体酸素を燃焼させながら順調に上昇を続けるNew Shepard。やがて、打ち上げから45秒が経過して高度4893メートルに到達した瞬間……



カプセルの下部からまばゆい炎が噴射されます。これがカプセルの非常脱出用固形ロケットブースターに点火された瞬間。



推力7万ポンドのロケットブースターを2秒間噴射させることで、カプセルをブースターから離脱させて安全な圏内へと移動させます。



なお、今回のカプセル分離のタイミングは、機体に最大の負荷がかかる「MaxQ」のポイントが選ばれています。これは、機速と大気圧の兼ね合いで最も空気抵抗が高くなる瞬間で、今回の高度だと音速に達した瞬間となっている模様。

カプセルのブースターは、噴射ガスの向きを制御することで、主ブースターの軌道から逸れた位置へと移動します。こうすることで、異常の生じた主ブースターの影響を最大限に避けようとする方法で、これは過去のアポロ計画などでも取り入れられていたもの。



分離に成功し、ブースターが停止したカプセルはしばらく自由落下を行っていましたが……



3つのサブパラシュートが展開して、落下速度の制御に入ります。



その後、3つのメインパラシュートがデプロイされ……



大きく広がって、安全な着地に向けた降下を開始。



そして打ち上げから4分15秒後、ついに土煙を上げながらの着地の瞬間。メインブースターから離脱して、安全に地上へと帰還するという一連のシステムが正常に作動したことが確認された瞬間です。ちなみに、着陸の瞬間にはショックを和らげるためのロケット噴射が行われることになっていた模様ですが、この映像からはうまく確認できず。



そしてカメラは、降下してくる主ブースターに。分離後も上昇を続け、最終的に高度9万3713メートルという、もうすぐ宇宙空間に到達するところまで上昇していました。実験前の段階では、このブースターはカプセル離脱時に大きな負担にさらされるためにうまく帰還できずに破壊されてしまうだろうと予測されていましたが、見る限りはなんの問題もなく着陸に向けた降下を行っている様子。



降下中の主ブースターは、機体上部に展開されるドラッグブレーキ(空気抵抗ブレーキ)で降下速度を落としつつ、上下のフィンを使って機体姿勢を制御。



上部の地面が近づくと、ロケットエンジンを再び作動させ……



猛烈な噴射を行って、急激に降下速度を低下させます。よく見ると、機体下部には着陸用の脚が展開されています。動画を見ればわかるのですが、噴射の瞬間まではものすごいスピードで降下していることがわかり、この時にかかる減速Gは5Gに達するとのこと。



地面までもう少し。ジワジワと高度を落として……



打ち上げから7分30秒後、砂煙を上げながらついに着陸に成功。この時、機体の降下速度はわずか時速8km程度にまで落とされ、限りなくショックを和らげた着地ができるようになっています。



ブースターエンジンの火が消え、見事に着陸成功。今回でBlue Originでは5回目の着陸を成功させており、この機体は実験機としての役目を終えて退役することになるそうです。



「カプセルだけ着陸するだろう」という事前の予想を覆し、カプセルと主ブースターの両方が着陸に成功するという、まさに「完全成功」といって良さそうなBlue Originのテスト風景でした。



実験成功後、ベゾス氏は「信じられない1日を振り返る。Blue Originの情熱にあふれた素晴らしい800人のみんなに乾杯」というツイートを投稿していました。ちなみに、ツイートに付けられているハッシュタグ「#GradatimFerociter」は、ラテン語をもとにしたBlue Originのモットー「Gradatim Ferociter」で、英語の意味は「Step by step, ferociously (一歩ずつ、どう猛に)」というもの。





今後のロケット開発において大きなステップをクリアしたといえるBlue Originは、2016年9月に今後の開発計画を公表し、ヘビー級の再利用可能型ロケット「New Glenn」の開発を発表しています。New Glennは、全長は270から311フィート(約80〜95メートル)、最大直径は23フィート(約7メートル)と、アポロ計画に使用されたSaturn Vロケットとほぼ同じスケールのヘビー級のロケットであり、民間宇宙開発で最も注目を浴びているSpaceXのヘビー級ロケット「Falcon Heavy」をいきなり上回るというもの。さらに、第1段ロケットは打ち上げ後に地上に帰還してNew Shepardのように軟着陸することが可能となっており、再利用可能型ロケットの機能を有したものとなっているそうです。



冒頭のムービーはテスト風景のダイジェスト版でしたが、以下のムービーでは1時間以上にわたる全編を見ることも可能です。

Replay of In-flight Escape Test Live Webcast - YouTube