何を隠そう、私は東京出身です。日本の首都に生まれ、育ったのです。……なんて言うと、ヒンシュクものでしょうか。
今では「東京一極集中」の状況が問題視されているし、「首都機能移転」という案もにわかに持ち上がっています。その上、地方のパワーも再認識されかけている昨今。事実、地方への移住を実行した仕事仲間が私の身近には何人かいます。

世界でも類を見ない秘境“鳥取県”が、「首都争奪戦」に参戦


9月7日より、無料コミックサイト「コミック アース・スター」にてスタートした新連載『四十七大戦』の内容が、考えさせます。


まずは、同作のあらすじをご紹介。
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極北の島国日本の最果てに存在する世界でも類を見ない秘境“鳥取県”。今や消滅可能性都市となった鳥取県の衰退を食い止めようと、ご当地神「鳥取さん」は今日も奮闘中!
47都道府県で唯一無かった「スターベックス」も鳥取県に出店し感無量の鳥取さんだったが、ある者の陰謀により日本の次の首都を争う「首都争奪戦」に巻き込まれていく……。


これは、日本の次の首都となった「鳥取県」の壮大なる戦いの物語である!
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『四十七大戦』の主人公の名は「鳥取さん」。各都道府県にたった一人いる「ご当地神」の鳥取担当だそう。「ご当地神」とは「会いにゆける神=ゆる神(ゆるがみ)」として県民に親しまれる存在で、彼らの活躍や体調が県そのものの動向に影響します。そんな中、鳥取さんの奮闘で鳥取県が首都となった様子が「第零話」で公開されました。
……こう言っちゃなんだけど不思議な感じがします。なにしろ、鳥取ってつい最近まで「スタバがない県」という残念な特徴で有名だったから。

砂で攻撃したり、蟹を盾にしたり、「ヨナゴッ!」と悲鳴を上げたり


あまりにぶっ飛びすぎてるので、聞きたいことがいっぱいあります。まず一つ目の疑問なのですが、なぜ四十七ある都道府県の中で「鳥取さん」(鳥取県)が主人公に選ばれたのか? 作者の一二三(ひふみ)さんに伺いました。
「目立たないように見せかけて、鳥取には歴史や行政の取り組み等に面白いところがたくさんあるためです。企画段階では『関東のメジャーな県を主人公にしたほうが広く受け入れられやすいのでは?』という案も出たのですが、鳥取県は『人口が少ない、影が薄い』と言われながらも、それを逆手にとって個性的なアピールに変えたり、少子高齢化という現実に真摯に対応して結果を出すなど、今の時代に一番求められる“強さ”を持っていると感じたので、最終的には鳥取県が主人公のままで製作することになりました」(一二三さん)

9月7日に公開された「第壱話」を読むと、鳥取を取り巻く状況がこれでもかと盛り込まれていました。鳥取さんが(スターバックスに似た)カフェに感動していたり、殴られたら「ヨナゴッ!」と悲鳴を上げてたり、島根と犬猿の仲だったり……。


普段は真面目で堅実な性格な鳥取さんですが、隣県であり字が似ている島根と間違えられると激高し性格が豹変!


作品中に登場する「島根さん」とは顔も似ており、遂には首都になることを目指して島根さんと1対1のバトルに挑みます。鳥取砂丘を擁するだけに砂を駆使して攻め込んだり、「蟹取県」の異名を持つだけに松葉ガニを盾に身を守ったり……。

なるほど、同作はアクションバトル的な要素も兼ね備えているみたい。ということは、鳥取さんはこれから他の46都道府県と対決していくのでしょうか?
「まだオープンにできないことがたくさんあり、全てをお話することができず申し訳ありませんが、対決の場面だけでなくいろいろな形で他の都道府県を登場させたいなと思っております」(一二三さん)

各県を模した特徴的なキャラクター達が、それぞれの方言や名産品、県民性などを披露。地方ごとの“あるある”“ないない”的なネタ要素が、『四十七大戦』にはこれでもかと盛り込まれています。


例えば第壱話では、交通事故件数13年連続ワースト1の愛知県が「名古屋走り」で暴走してきます……。この辺りの風刺(?)も、同作の見どころの一つでしょう。

現実世界とリンクしている


また『四十七大戦』では、「過疎化」など地方の深刻な諸問題にも踏み込んでいます。
「極東の島国日本の最果ての地、魔境『鳥取』は、人口の減少により崩壊の危機に直面する消滅可能性都市であった。この物語はそんな不毛の地を必死に支えるご当地神『鳥取さん』の奮闘の記録である」(コミック アース・スター『四十七大戦』ページの「あらすじ」より抜粋)

この作品は、完全に現実世界とリンクしています。ということは、東京に一極集中している現状にアンチテーゼを唱えたいという思いがストーリーには込められている?
「『一極集中』や『過疎化』『消滅可能性都市』などの社会問題は確かに大事なものです。ただ、メインテーマとしてシリアスに取り上げるというより、まずは『有名な都市以外の地域も、よく知ればとても面白い個性があるんだ』と伝わってくれれば、漫画家としてこんなにうれしいことはありません」(一二三さん)
なるほど。実在する社会問題が反映されているので、シリアスに取り上げることもできなくはない。でも、作者の真意は「肩の力を抜いて楽しむ」というベクトルのほうが近いようです。

鳥取県知事にも認知されている


この『四十七大戦』を読んだ方々からは、今までにどのような声・反響が寄せられているのでしょう?
「連載開始当初は主にSNSで大きな反響があり、県の面白さをちゃんと読者の方に伝えられたことに安堵していました。今では『私の県のご当地神はどのように描かれるだろう?』など作品の今後を期待する読者の皆様の言葉がSNS上でたくさん見られ、改めて緊張しているところであります」(一二三さん)

実はこの作品には、鳥取県の平井伸治知事も注目している模様。9月2日に行われた定例会見で知事は同作について言及しており、「鳥取県の地方創生の取り組みがいろんなところで反響を呼んで、こんなマンガまで生まれてきたのかなと思っております」と発言。「魅力づくりを余念なくこれからも進めてまいりたいと思います」と、『四十七大戦』を意気に感じた心境を隠していません。
「県や県民の方からお怒りの言葉が来ることも覚悟していたのですが、逆に激励の言葉を多くいただき、ありがたく思っています。今後も怒られそうなギリギリのラインを描いていくことは変わらないので、どうか寛容な気持ちで読んでいただけると嬉しいです!」(一二三さん)

ちなみに、次回の『四十七大戦』は10月5日に更新される予定。いかにして、魔境「鳥取」が日本の首都となっていくのか、その過程をつぶさに見守っていきたいと思います!
(寺西ジャジューカ)