『失敗の研究 巨大組織が崩れるとき』 金田信一郎 (著)  日本経済新聞出版社

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■大企業が陥る6つの病とは

バブル期を経た1990年代以降、大企業の経営破たん、不正事件が相次いでいる。

アメリカ型の大量生産・大量輸出という手法に追随し、戦後日本はものづくり主導で驚異的な経済発展を遂げた。その中で、数多くの大企業が誕生した。ところが、ベルリンの壁崩壊後、旧東側諸国、新興国が消費国から生産する側にシフトした。これに伴う需要減、競争激化によって日本の大企業の多くが逆風を受けることとなった。

こうした厳しい環境下、世の中の変化に即した自己変革ができなかった結果、市場の支持を失い、あるいは不正に手を染めて信頼を失墜させるなど、大企業が市場からの撤退を迫られるケースが頻発しているのだ。

組織を維持することが目的化し、社会や顧客に対する責任を放棄してしまう。社会や顧客に対する責任より企業の論理を優先させてしまう。こうした企業は遅からず自壊していくことになるが、実際にこうした動きが後を絶たないのである。

私自身の経験では、新聞記者時代多くの社員たちと交わった山一証券の経営破たんは、残念で仕方がなかった。昭和40年不況時の経営危機を日銀特融で乗り切り、株式市況の上昇で借り入れ分を数年後に完済した。外部環境に救われたに過ぎないかつての成功体験から、経営判断を遅らせ再起不能の事態に追い込まれた。当時、経営トップに対して抱いた憤りはいまだ拭い去れない。

本書の著者は、折しも日本のバブル景気が崩壊した1990年に経済記者人生をスタート。経営上の失敗を犯した企業・組織を対象に、豊富な取材・執筆活動を行ってきたキャリアの持ち主だ。

その経験をもとに著者は、大企業の巨体を蝕む6つの病として以下を挙げる。肥満化、迷宮化、官僚化、ムラ化、独善化、恐竜化。そして、これらの合併症を起こすことも決して珍しくないと――。

■3Mとトヨタの姿勢に学ぶべきこと

本書は、理研やマクドナルド、東洋ゴム、三井不動産など、代表事例として8社について詳細に病状を分析する。

たとえ社内人事で経営トップが交代しても、企業が生まれ変わることは簡単ではない。これは、京セラ名誉会長の稲盛和夫氏が陣頭指揮をとるまで変われなかった日本航空が証明しているといえるだろう。

肥大化・硬直化してしまった組織の社員は、疑問を抱えながらもあきらめてしまうのが世の常なのかもしれない。そして、組織の論理と折り合いを付けられなければスピンアウトすることになる。惰性で組織が保たれているうちは、自己変革するだけのエネルギーは出てこないためだ。

逆に成功事例として紹介している3Mのケースでは、社員が必然的にイノベーションを起こし続ける仕組みが社内にビルトインされている。経営トップが大企業病の怖さを見越していた故のことだろう。同社のトップは「会社や上司の言いなりになるな」と社員に伝え続けてきたという。

同社では、社内のノウハウや技術が有機的に結びつくことで、数多くのヒット商品を生みだしてきた。それは組織内を常に活性化し続けてきた取り組みの成果に他ならない。大企業のトップや管理職たちに、3Mのトップが社員に向けた言葉の意味を噛みしめてほしいものである。

そして本書では、トヨタ自動車がハイブリッド車の開発を決めた時の腹のくくり方を紹介している。経営幹部から著者が聞いた「社会にとっていいことだから、それで倒れたら仕方がないじゃないか」という言葉は、大企業、メーカーに限らず、すべての企業が判断基準とすべき考え方だといえるのではないか。

(ジャーナリスト 山口邦夫=文)