現在、日本ではいわゆる待機児童問題が深刻だ。共働き世帯の増加に伴い、子どもを抱える家庭からの保育所ニーズが高まっているにも関わらず、保育所の定員・保育士の増加ペースがそれに追いついていない。都福祉保健局の発表によると、2016年4月時点で都内の待機児童の数は前年比8%増となっている。

そんな中、1970年代から企業内に保育施設を設置し、働く女性をサポートし続けているのがヤクルトだ。保育施設の数は全国で約1,200カ所、利用者数は全ヤクルトレディの20%以上を占める。同社の手厚いサポートはヤクルトレディ採用のきっかけともなり、長く働ける要因にもつながっているという。そのサポート体制について、ヤクルトレディの方のお話を交えながら掘り下げる。


全国に多数あるヤクルト保育所


ヤクルトレディが育児をしながらも長く働けるのは、「ヤクルト保育所」などの子育てサポート、契約関係の独自性、定年制度が存在しないことなどが大きな要因だ。ヤクルトレディキャリア8年の田中さん(仮名)にお話を聞くと、「子どもが1才半の頃から10才になるまでこの仕事を続けています。何かのタイミングで辞めようと思っていましたが、職場環境の良さ、子育てサポートの充実度、仕事の楽しさなど、どれも他にはないものなので長く続けられています」と語ってくれた。

ヤクルト保育所は全国に1,200カ所設けられており、その多くがヤクルトレディの出勤するセンターの近くにある。これにより子どもを預ける時間的なロスが少なくすむ。また保育料が月額6,000円(全国平均)とかなり低額だ。現在、全国のヤクルト保育所の保育児童数は1万人近くにのぼる。国の認可基準である「認可外保育施設指導監督基準」に加え、独自のマニュアル「ヤクルト保育所基準」による整備が行われており安心・安全面への配慮が十分に行われている。

また保育施設以外のサポートも充実している。ヤクルトレディのほとんどが「子育て経験者」なのである。田中さんによると、ヤクルトレディ同士でお互いに相談・フォローし合うことができるのもメリットだそう。また急な発熱、万が一事故等が発生した時にも速やかに保育所と連絡を取り合うことができるなど、保育所とヤクルトレディの間のコミュニケーションも良好なため安心して仕事に向かえるという。



ヤクルトレディ 採用のきっかけはいろいろ


ではヤクルトレディとなるために、どのような採用パターンがあるのだろうか。採用募集に応募する一般的なパターンに加えて、特徴的なものとして「スカウト」も大きな割合を占めるという。「当時育児中だった私が近所でベビーカーを押していた時に、今のセンター(販売会社の出先機関)のセンターマネージャーに声をかけられました。ヤクルト保育所などの保育施設関連のサポート体制が充実していたこともあり、職場見学後に即決しました」と田中さんは当時の心境を語ってくれた。

またヤクルトレディの採用において、特徴的な点が他にも2点ある。1点目は販売会社とヤクルトレディの契約関係についてだ。販売会社とヤクルトレディの間では、ヤクルトレディの多くは「個人事業主」として位置付けた上で契約を結ぶ。これによりヤクルトレディとしては、仕事の成果が直接的に収入につながりやすくなり、高収入を目指すことも可能になる。2点目は1点目にも関わってくることだが、ヤクルトレディには「定年制度」というものが存在しない。55年間ヤクルトレディを続けた80歳のヤクルトレディも存在し、雇用関係ではなく個人事業主として業務を請け負うことで長期的にヤクルトレディとして収入を得ることが可能になる。

ヤクルトレディ 女性の社会進出を背景に誕生


日本国内のヤクルトレディは約37,000人、平均年齢は約43歳だ。世界では12の国と地域に広がっている。そもそもヤクルトレディが誕生したのは1963年(昭和38年)、当時は1万人弱の規模。女性の社会進出を後押ししたいという想いもあって開始した制度だった。



そんなヤクルトレディたちを支えているヤクルトの企業内保育施設が、ヤクルト保育所である。1970年代初め、ヤクルトの販売が全国各地の販売会社独自で行われていた頃に運営を開始し、1980年代にヤクルトレディのイメージ統一を図り全国的な開設へと至った。「小さな子どもがいても安心して働けるように」との理念を元に、仕事中でも子どもの様子を見に行けるなどヤクルトレディの要望が取り入れられた施設となっている。

普段私達に健康を届けてくれるヤクルトレディ達の裏側には、現在の待機児童問題解決のヒントがあるのかもしれない。