「書を捨てよ町へ出よう」とは寺山修司による言葉ですが、たしかに家の中にいるだけだと平易な毎日を送りがちです。街へ出れば人との出会いもあるし、うれしいことや悲しいことにも遭遇する。それが、人生というものではないでしょうか?

街へ出たら、もしかしたら素敵な光景に対面するかもしれません。例えば、「パンチラ」とか……。

スカートがめくれたら、「宇宙」という名の浪漫が現れた


話は変わって。アートに関する企画・制作を行っている「ekoD Works(エコードワークス)」(東京都中央区)は現在、こんなタイツを発売中です。



これは、「スカートの中のロマンス」と題されたシリーズの第1弾。その名は『スカートの中の宇宙』です。

作品ページを確認すると、以下のような文言が踊っていました。
「なぜ人はスカートのはためきに目を奪われるのだろう。きっとそこに夢いっぱいの浪漫が詰まっているからに違いない。そこでエコードワークスは独自のロマンシングデバイスを開発し、スカートの中に潜む浪漫のヴィジュアライズを試みた」
「その装いは一見ごく普通の無地タイツだが、浪漫をひっそりと肌身に纏わすことで着用者のロマンチック・エンジンを加速させる。そしてひと度さわやかな風が吹き抜けると、スカートの裾から胸おどる光景がちらりちらりと垣間見える」

平常時に傍から見ると無地タイツにしか見えない。しかし、万に一つスカートがめくれてしまえば宇宙デザインが露わとなる。


浪漫=宇宙。そう解釈できましょうか?

いやさ、もっと深い真意があるかもしれない。そこで、制作者であるekoD Works代表・福澤貴之さんに直接お話を伺ってきました。



男女間の感情のギャップを、「宇宙」で縮める


――これは、女性側からすると「見せてもいい」というテンションで穿くタイツですか? それとも「実は、こういうタイツを穿いている」と、自分の中で噛みしめるテンションに向いているんでしょうか?
福澤さん どちらかと言うと、後者ですね。「パンチラ」って、女性としては見せようとして起こすものではありません。で、起こるとしても奇跡的です。風が吹くにしても、絶妙な角度から吹かないと起こり得ないですし。
――自分は、パンチラに遭遇したのが久しく記憶に無いくらいです。
福澤さん そうですか。私はこないだ、たまたま銀座にある某店のジュエリーコーナーで遭遇しました。ガラスケースを前かがみで覗き込んでいる観光客のパンチラが偶然にもチラッと見えたんですが、あの絶妙な角度じゃないと起こり得なかったはずです。
――遭遇する側の位置関係だったり、女性の前かがみの角度だったり、色んなものが合わさっての奇跡ですよね。
福澤さん そうですね。パンチラって、女性としては基本的には見せたくないものじゃないですか? でも、男としては見えた時にありがたい。お互いの相対する感情のせめぎあいがあります。そんなパンチラの瞬間に、このデザインが現れたとしたら……。
――はい。
福澤さん スカートの中は普段見えないからこそ、その中はどうなっているんだろうという想像は無限に広がっていきます。そして、中が気になってスカートの裾がなびく度に視線が吸い込まれていく。宇宙のデザインは、そんなスカートの内側がもつ物語性を可視化したものです。パンチラにエロを求める人からすると「いや、普通のパンチラが見たいよ!」という話かもしれませんが(笑)。
――たしかに。
福澤さん 男からすると、見えたらうれしい。女性からすると、万が一見えちゃったとしてもこういうデザインならOKになるかもしれない。結果、男女の感情のギャップが少し縮まるんじゃないかなと期待しました。

見えない部分のおしゃれ。江戸時代から伝わる「底至り」の概念が込められた


――ただ、Twitterでは「見せる前提で楽しめばいいの?」と解釈する人が多いようです。
福澤さん スカートで隠れた部分をデザインしていますが、それで「見せない前提はおかしい」とは言えないと思います。特に女性は、お気に入りの下着を穿いているとその日一日ウキウキすると聞いています。作品ページにある「浪漫をひっそりと肌身に纏わすことで着用者のロマンチック・ エンジンを加速させる」という一文は、そんな気分を表現しています。単なる無地タイツを穿いていればそれだけですが、「私はみんなの見えないところで“宇宙”をまとっているのよ」という。
――自分の中で自分だけが知っている浪漫があるという。
福澤さん そういう意味で、見せない前提で見えないところで楽しむというのもアリなんじゃないかと思います。江戸時代後期、幕府は「奢侈禁止令」を発令しました。「庶民は慎ましく生活し、豪華なものを着ちゃいけません」という法令です。そんな時代におしゃれな格好で歩いていると、役人に怒られてしまう。そこで、表は質素にしているけど怒られないよう裏地に刺繍を入れて豪華にする文化が根付きました。見えないところのおしゃれを楽しむ「底至り」(外観はそれほどではないが、表に出ないところが念入りで精巧にできていること)の概念です。そこからインスパイアされ、見せてもいい“見せパン”とは異なる方向性のおしゃれがあってもいいと考えました。

見えない部分にデザインを施し、普段使いができるデザインに


――そもそも、このようなタイツを商品化したきっかけは何ですか?
福澤さん 過去に発表した『妄想マッピングTシャツ』に見た目のインパクトはありましたが、一方で普段使いをしにくいという側面があったのも事実です。


福澤さん 実際、私のところにそういう声が届いているので、それらのフィードバックを反映させ、今回は新しいアプローチを試みています。
――だから、このタイツは露出している部分に何も描かれていないんですね。



福澤さん 基本的には黒タイツに見えるけども、スカートがめくれた時には「底至り」のデザイン思想が入っている。そこが、既存製品にはない要素だと思います。スカートがめくれるというアクシデントに、一つの楽しみが増える。見られた方は「これならOK」、見る方も「見れたらラッキー」。色んな要素が結びついて「スカートの中をアレンジするのはありなんじゃないか」という結論に至っています。ざっと調べた範囲では“スカートで隠れている場所だけデザインしているタイツ”という明確なジャンルは無さそうだったので。
――それはそうですよね。デザインって、本来は見せる場所にするものですから。
福澤さん 男に限らず、穿く方の女性の側にも浪漫があるタイツにしました。

股間に光る星があるのは、デザインとして定石


――デザイン面に関してですが、ちょうど股間の部分に光る星があるのはかなり大胆だと思いました。これは、意図しての配置ですか?
福澤さん 意図して、この位置になりました。たしかに、賛否両論あるんですが。


福澤さん デザインする上で、視点が集まるキャッチーな場所を作るのは必要なんですね。で、最も中心性があるのは股です。そこにアイキャッチになるものを置くのは当然だと考えました。真ん中に恒星があるという演出で「スカートの中が見えても、真ん中はまぶしすぎて見えない」とメッセージを表現したい。それを込めた上でのデザインです。
――なるほど。
福澤さん ただ、写真撮影時に穿いてくれたモデルの子は「ここが光っているのは恥ずかしい」と言っていました(笑)。
――また、左足の裏側に宇宙飛行士がデザインされていますよね。自分の勝手な解釈なんですが、パンチラに遭遇した男子とこの宇宙飛行士の立場に重なる部分があると思いました。


福澤さん まぁ、そういう見方を受け手の皆さんがしていただけるのはいいと思うんですけど(笑)。自分としては、単純にワンポイントが欲しいと思って付けました。女性が正座した時や足を曲げた時、普段は遠くにいる宇宙飛行士が宇宙の近くに来るという演出です。

あからさまに見せている構図はうれしくない


――作品ページに掲載されている画像も、グッと来るものが多いですね。


福澤さん これらはタイツの商品写真というより、“スカートの中のロマンス”をビジュアルで表現した「アートフォト」です。「日常の街中で見えちゃうパンチラに宇宙があったらどうなのか?」という視点で撮影しています。一つの作品として捉えていただきたいですね。
――夢のような……と言うより「こういうの、あるある」って受け取れます。あっ、絵コンテもあるんですね。


福澤さん はい。パンチラ写真を作品として発表しているモデルさんもいらっしゃいますが、あからさまに見せている構図は男としてあまりうれしくないんですよね。
――すごく、よくわかります。
福澤さん (絵コンテを見せながら)足を組み替える時に見えちゃったとか、風が吹いて前を抑えながら後ろは丸見えとか。



――こういうのに、男子は一番グッと来るんじゃないでしょうか。
福澤さん (絵コンテを見せながら)あと、トイレから帰ってきてタイツにスカートの裾を挟んじゃってる人もたまにいます。


――これは、自分も遭遇した記憶があります。
福澤さん 女子に聞くと「年に一回はやっちゃう」と述懐するほどの失敗らしいです。

現在、『スカートの中の宇宙』はekodworksのオンラインストアかヴィレッジヴァンガードの販売サイトにて購入できます。価格は4,320円(税込)。実際に私も現物を見せてもらいましたが、手に取ったら想像以上にスポーティです。

ちなみに「スカートの中のロマンス」は第2弾、第3弾の公開も予定されているとのこと。第2弾の詳細については、10月上旬〜中旬に情報解禁が行われるようです。
福澤さん 第2弾は、女性から大好評です。「皆に知られてない状況でこんな可愛いタイツを穿いている」というワクワク感があり、たまたま見えた男からするとすごくロマンが感じられる。そんなデザインに仕上がっています。

エロを追求するなら、通常の下着の方が優っているでしょう。しかし、目的はそれのみではない。「スカートの中のロマンス」には、江戸時代から伝わる美学とデザイン性と“粋”とも呼べる奥ゆかしさが込められていました。
……と偉そうにまとめつつ、制作者に説明されないとまるで察することはできなかった記者。まだまだ勉強不足です。
(寺西ジャジューカ)