言いにくいコトを、相手を傷つけず指摘するには

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執筆者:山本 恵一(メンタルヘルスライター)


社会生活をしていると、他人といっしょにいる機会は多く、楽しかったり嬉しかったり、満足することも多い反面、嫌な思いをすることも少なくないでしょう。たとえば、口臭・体臭、不潔、不快な癖など、相手が自覚していなくて周囲が不快に思っていることがあります。

こうしたデリケートな問題で、相手にそれとなく伝えたり改善を促したりするのは、どうやったらできるのでしょうか。

なくて七癖

自分の身体や行為とは、長年ずっとつきあってきているので、当初は自覚できていても、時間が経つと無意識的になっていることが多いものです。「なくて七癖」はこうした事態を端的に表している故事ことわざのひとつでしょう。自分の癖に、自分はまったく気がついていないのです。

自分自身や環境の事物を認知するのは感覚器官です。見る「目」、聞く「耳」、嗅ぐ「鼻」、味わう「舌」、触れる「皮膚」など、いわゆる五感がこれにあたります。

しかし、感覚器官には「順応」という作用があって、当初は鋭敏に察知しても、そのうち慣れてしまい、感覚が認知されなくなってしまいます。

とくに「臭い」は端的で、最初は臭っても、ほどなく臭わなくなってしまいます。それで、口臭・体臭などは自覚がなくなります。

自覚していないことは注意しにくい!

ハッキリと悪意をもっている「確信犯」や、自覚されている欠点などは、指摘されても納得できますし、本人はそんな悪癖を誰かに注意してもらいたいとさえ思っていることがしばしば。その場合、注意することは基本的に、注意する側とされる側との間に、親密な関係を生むきっかけともなります。

しかし、「なくて七癖」のように、気がついていなかったり、悪意がなかったりする場合にはまったく状況が違います。

気がついている時と同じように注意したり、指摘したりすると、「傷つけられた」「いちゃもんをつけられた」「けなされた」「嫌われた」など、関係が悪くなることも少なくありません。本人にしたら、気がついていないだけに、指摘されたことをにわかには受け入れがたいのです。

「大人のもの言い」:ビジネスマナーの応用

そんな時、「大人のもの言い」としてのビジネスマナーを活用すると、デリケートな問題も相手に伝わり、改善を可能としてくれるかもしれません。

「さりげない気配りが伝わる言い方」「恥をかかせない表現」としての「大人のもの言い」のポイントは次の3つです。

1.相手が動きたくなるような言い方


・立場や年齢、役職に関わらず、丁寧なことば遣いを心がける
・「そんなんじゃダメ」とネガティブにいわないで、「こうするとイイね」と、明るい見通しを示す

2.相手に敬意が伝わる言い方


・相手への敬意を失わない(クサイ人ね、サイアクなどと思っていたら伝わりません)
・相手を否定しない(デリケートな問題を抱えた背景を理解しよう)

3.マジックフレーズの活用


クッション言葉など、ひと言添えることで相手の印象をよくする言い方を心がける(例:失礼ですが、恐縮ですが、僭越ですが)

何でも言い合える関係性

とはいえ、電車に乗り合った知らない人や、はじめてのお客様に、口臭や体臭、不快な癖の指摘をするのは、よほどのことがない限りできることではありません。

上記したような「大人のもの言い」が効果をもつのは、やはり、それまで当人とどれくらい親しくつき合ってきたか、ということによるでしょう。いわゆる「同じ釜の飯を食べ」「苦楽を共にした」親友・戦友であればこそ、相手の問題性を傷つけることなく、相手に指摘できるのにほかなりません。

ですから、ふだんからその人と誠実なコミュニケーションをはかり、何でも言い合える関係になっているということが、いざという時、デリケートな問題を伝えることにつながるのだと思います。


<参考>
福田健・長崎真紀子 監修『ビジネス会話術』成美堂出版、2014.


<執筆者プロフィール>
山本恵一(やまもと・よしかず)
メンタルヘルスライター。立教大学大学院卒、元東京国際大学心理学教授。保健・衛生コンサルタントや妊娠・育児コンサルタント、企業・医療機関向けヘルスケアサービスなどを提供する株式会社とらうべ副社長