数年前からよく耳にするようになった“こじらせ女子”。綾瀬はるか主演のドラマで一気に認知度が上がり、一時は流行語大賞にもノミネートされたこの言葉は、結婚したいのにできない、もしくはしようとしない、少々扱いづらい女性のことを指す。

そこから派生して、これまた最近よく聞くのが“こじらせ男子”。

この連載では、近年東カレ界隈で増殖するこの“こじらせマン”の実態を、同じくこじらせ女子であるフリーランスの雑誌編集者の絵美里(30歳)が毎回24時過ぎの都内の居酒屋を舞台に、紹介していく。

初回はモテ男なのになぜか結婚に縁遠い敏腕ディレクターの亮太、前回は10年恋愛を休んでいる草食系な健夫を紹介したが、今回は異例の出世を果たした優秀営業マンが、独身であることに対して抱えている劣等感や、それでも譲れない結婚相手に求める条件について赤裸々に告白する。




<今週のこじらせマン>

名前:幸太郎
年齢:35歳
職業:大手広告代理店営業
年収:1,300万
住まい:広尾
出身:アメリカ
理想の結婚相手:程よく可愛くて、程よく頭がよくて、程よく真面目な年下女子


「この歳で結婚していない自分が恥ずかしい…。」新種のこじらせマン現る!


とある土曜の夜、白金の古民家バー『きえんきえら』で絵美里と幸太郎はウイスキーが入ったロックグラスで乾杯を交わす。




「久しぶりだな。元気してたか? 聞いたよ、お前ら別れちゃったらしいな。びっくりしたよ。」

「そうなんだよ〜。まぁ色々あったけど…、今はもう立ち直ったよ。てことで私、彼氏募集中だから飲み会よろしく!(笑)。幸太郎さん、得意分野でしょ?」

「最近俺、飲み会とかやってないからな〜。なんだよ、別れて落ち込んでるのかと思ったら案外元気そうで安心したよ。」

幸太郎は、絵美里の元カレ、哲哉の親友で絵美里の大学の先輩でもある。今日、絵美里が出席していた大学時代の同級生の結婚式の二次会で約1年ぶりに偶然再会し、会がお開きになった後、近場で飲み直そうという流れになった。

幸太郎は大手広告代理店に勤務するバリバリの営業マンだ。帰国子女で語学が堪能なため、新卒で入社して以来、主に外資系のクライアントを担当している。学生時代アメフトで鍛えたがっしりとした体形に、イタリア製のベージュのスーツが今日もビシッとキマッている。

男気があって、良くも悪くもウソがつけないストレートな性格と、周りを引っ張っていくリーダーシップで、幸太郎は後輩から同世代、上司まで、みんなに慕われている。少々コワモテ系のルックスも、九州男児好きが多いアラサー世代にはドンピシャなはずだ。

「えっそうなの?ところで幸太郎さんは最近どうなの?モデルの彼女と続いてるの?」

「あ〜、あれから半年くらいつきあったんだけど、やっぱり若すぎたな…。どんどん我儘になっていって、その結果喧嘩が増えてダメになっちゃった。まぁ、結婚とか全然考えられない相手だったからよかったんだけどな…。」

以前幸太郎と哲哉と3人でごはんを食べた際に、幸太郎が久々に彼女ができたといって見せてくれたLINEのアイコン写真を、絵美里はまだ鮮明に覚えている。

「そうだったんだ…じゃあ引き続き独身ライフ満喫中?」

「やめてくれよその言い方。確かに今は特に誰もいないけどな…。もう社内で俺の年次で結婚してないのは、俺くらいになっちゃったよ。ホント恥ずかしいよ…。」

どうしたことであろう、いつも自信満々の幸太郎が、随分と弱気になっている。間接照明に照らされたその横顔には、哀愁すら漂っている。


イケイケの広告営業マン、幸太郎にもかつては10年越しの純愛エピソードが!?


未婚であることの劣等感をバネに、異例のスピードで部長に昇格!


今まで、幸太郎は飲み会三昧の社会人生活を送って来た。気に入った女性には自分からガツガツ行くタイプで、特定の女性と交際している時は一途だが、そうでない期間は基本的に複数の女性とデートするのが当たり前だった。

ただ大前提として、そういった飲み会はあくまで結婚相手を探すことが本来の目的であり、元々幸太郎は20代の頃から結婚願望の強い方だった。

女性関係は常に絶えないものの、真剣交際にまで発展するケースは稀で、社会人になってから幸太郎が正式につきあった女性はわずか3人のみ。数年ぶりにできた3人目の彼女、理央(24歳)は少々若いなと感じつつも、ルックスが相当好みだったこともあり、珍しく相手側からの猛プッシュでつきあうことになった。

「幸太郎さんでもそんなこと思うんだね。ちょっとびっくり。」

「まぁな、未婚であることの劣等感は日々ひしひしと感じてるよ、みんな立派に家庭を築いてるのに…。だからこそ、仕事は誰よりも頑張って来たけどな。」

深夜残業に接待…「アイツはダメなやつ」そうレッテルを貼られないために、人一倍仕事には精を出した。その努力が報われ、先日幸太郎は見事同期の中で誰よりも早く部長に昇格した。

1人では使い切れないほど高額の給料を毎月持て余している幸太郎は、3年前に広尾のマンションを購入した。そしてさらに先月、念願のポルシェも購入したらしい。

「そういえばさ、あの元カノさん結婚しちゃったんだね。ニュースで見たよ。」

その元カノとは、社会人になる前に幸太郎が3年間付き合っていた美樹(35歳)だ。彼女は幸太郎が大学の時所属していた部活のマネージャーで、現在はキー局のアナウンサーである。ボブが似合う天然系美人で、お茶の間からの好感度も高い。幸太郎はこの学生時代の3年間という記録を未だに更新できていない。




別れた後も、幸太郎はずっと心のどこかで美樹のことを引きずっていて、「本当に俺にはもったいないくらいイイ女でさ〜。」と酔っぱらうたび、未練たらたらで美樹の話をしていた。そんなほろ苦い青春の思い出のお相手であったはずの彼女と、ひょんなことから元サヤになったのは幸太郎が30歳の時である。

夢にまで見た復縁だったはずなのに、二人は約半年で再び別れてしまう。5年以上の時を経て、彼女の性格はすっかり変わってしまっていたのだ。職場でもプライベートでもチヤホヤされるようになった彼女は、もはや幸太郎が好きだった優しくて純粋な美樹ではなかった。

そこからまた数年が過ぎ、美樹と某有名スポーツ選手との結婚が華々しく報道されたのは、確か3ヵ月ほど前のことである。


同志だったはずの独身貴族たちと、幸太郎の間に生まれてしまった価値観の違いとは!?


「理想の女性はここにはいない。」飲み会三昧だった社会人生活に終止符を打つ!?


10年越しの恋はあっけなく幕を閉じる。幸太郎は、離れている間に自分の中でどんどん美樹が美化されてしまっていたという、悲しい現実を突きつけられる。今ではもう吹っ切れているとはいうものの、やはり美樹の結婚は幸太郎にそれなりの衝撃を与えた。

そしてまた20代の美樹との交際経験が、結果的に幸太郎の女性に対するハードルを底上げしてしまったことも否定はできない。

「みたいだな。まぁよかったよ、アイツが幸せそうで。はぁ、俺も早く家族が欲しいな〜。」

「幸太郎さんが奥さんにしたい人って、どんな人なの?」

「程よく可愛くて、程よく頭良くて、程よく真面目な子かな。ホント普通でいいんだけどな〜。」




「う〜ん、なんかどこにでもいそうで、なかなかいなそうな条件だね。“普通”って一番難しくない?」

幸太郎のいう“普通の女性”=「美人かつ聡明じゃなくちゃダメ、それでいて自分のことだけを愛してくれる誠実な女性」絵美里はそう解釈した。はっきり言ってかなりハードルが高い…。「とにかく結婚したい」「多くは望まない」そう言いながらも、なかなか妥協できない現実に、果たして幸太郎自身は気づいているのだろうか…。

「それはもちろんわかってるよ…。だからこうやってここまで売れ残っちゃってるんだから。でもさ、逆にここまでこじらせたからこその意地みたいなものは、正直あるよね。周りにも家族にも胸を張って紹介できるような女性と結婚したいっていうか…。まぁ、そのためにも、俺自身もっと男を磨かなきゃいけないんだけどね。」

「なるほどね…。でも絶賛婚活中なら、なんで飲み会やらなくなったの?」

「う〜ん、理央の一件で、疲れちゃったのかもな。もちろん全員じゃないと思うけど、やっぱり相手が広告代理店って聞いて飲み会に来る子って肩書きで寄って来る場合が多いんだよ。

それにさ、飲み会でいつもつるんでる独身仲間が武勇伝を語ってるのを聞いてると、なんかうんざりしてきて…。最近奴らともちょっと距離を置いてるんだよね。」

仕事での成功や生活水準の高さを女性陣にひけらかす独身貴族らの姿をふと客観的に見つめた時、幸太郎は心底それをカッコ悪いと思ったし、自分は絶対そうなりたくないと感じたという。

近頃、幸太郎は平日の夜、部署の後輩を連れて飲みに行くことが多くなり、女性とデートするか飲み会に徹していた週末も、今はあえて同世代の子供がいる友人の家族と遊んだりしている。婚活戦線からは少し離れてしまっているが、その方が自分らしく、心が健康でいられる、と幸太郎は語る。

「幸太郎さん、なんか見る目変わったわ。ただのチャラい人だと思ってた(笑)。むしろ私の周りの独身女子紹介したいくらいだよ! 今度、飲み会やろう!」

「なんだよ急に、お前そうやって俺を上手く持ち上げて男を紹介させようって魂胆だろ。まぁいいけどさ(笑)。」

幸太郎のこじらせを分析するならば「こじらせている≒歳を取るごとに、理想相手のハードルが高くなりすぎてしまっている」といったところだろうか。

だが、「結婚=人間としてのステップアップ」だと強く信じる前向きな気持ちさえあれば、自分の現状をしっかりと客観視できている幸太郎なら、近い将来“既婚”というステータスを手にすることができるはず。絵美里はそう考える。

<“こじらせレベル”10のチェックシート>

1.恋愛願望   ★★★☆☆ 本気で結婚モードになっているため、恋人というよりは婚約者募集中。

2.恋愛経験値  ★★★☆☆ つきあった人数は35歳にしては少ない方だが、交際に至らずとも恋愛経験は豊富。

3.結婚願望   ★★★★★ わりとのんびり構えていたが、ここ数年で社内の同期が一気に結婚し、焦りを感じている。

4.社交性    ★★★★☆ 先輩から同世代、後輩まで分け隔てなくつきあう。唯一苦手なのが年上の女性。

5.精神力    ★★★★★ 失敗を経験しても、誰にも頼らずに這い上がり乗り越えていくバイタリティーを長年の独身生活で習得する。

6.こじらせ自覚度★★★★☆ 未だ配偶者のいない自分のことを恥じつつも、理想相手のハードルを下げる気は今のところなし。

7.理想が高い度 ★★★★★ この歳までこじらせてしまったぶん、周りの目もあり逆に妥協できないところもある。

8.ナルシスト度 ★★★★☆ 歳と共に角は取れてきたものの、幼少時代からずっとジャイアン気質。基本的に自分に自信あり。

9.卑屈度    ★☆☆☆☆ 唯一の欠点は未婚であること。それ以外はパーフェクトだと信じている。

10.心の広さ   ★★★☆☆ みんなの兄貴的キャラであり、その懐の深さは折り紙付き。ただし恋愛対象の女性に対しては未知数。

【これまでのこじらせマン】
Vol.1:高スペックな敏腕プロデューサーのエキセントリックな結婚条件とは!?
Vol.2:20代の頃は肉食系だった40歳のWebデザイナーが、草食化した理由