衝撃の事実を語る及川光博「とと姉ちゃん」74話

写真拡大

連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第13週「常子、防空演習にいそしむ」第74話 6月28日(火)放送より。 
脚本:西田征史 演出:岡田健


以前、滝子(大地真央)がくれたままごとのおもちゃと交換に、たくさんの食料を手にいれた小橋三姉妹。
帰り道(ロケはいいなあ)、美子(杉咲花)は耐え切れなくなってしゃがみこみ、いろんなものを失っていくことを嘆く。
その頭を優しくなでる常子(高畑充希)。鞠子(相楽樹)も一緒に、三人がひと塊になって悲しみに浸る。
美子を見守る常子の顔が完全に大人。一家の大黒柱らしき達観がある。
それに比べて次女・鞠子は、薄幸そうな顔と役割を君子(木村多江)から受け継いでしまっている。
高畑充希と杉咲花は生命力にあふれたきりっとした顔。父親(西島秀俊)似というわけではないが、男顔といえば男顔。2対2でうまくバランスがとれた家族である。

母似で薄幸系の鞠子は空襲から逃げる時、足を挫いてしまう。9回の2人3脚のエピソードで、君子が手首のねんざをしてしまったのと同じパターン。やっぱり似ている君子と鞠子。その時は鞠子が代わりを立派につとめたのだったが、今や、小説家になると言って姉の稼ぎで大学までいかせてもらったにもかかわらず、工場づとめであることにコンプレックスを感じる鞠子。10年20年と戦争が続いたら工場で働き続けることになるという彼女の想像はけっこう重たい・・・。
そんな妹を見て、「この時常子の気持ちは固まりました」(檀ふみ)。
いったい何に固まったかは、翌日、甲東出版にて五反田(及川光博)相手に語られる。
「お国を守るために戦争をしなければならないのは仕方ないことです。
ただ、戦争を讃えるような雑誌をつくることは私にはどうしても苦しくて。
いろいろなものを奪って行くような戦争を讃え、国民を煽るような雑誌をつくりたいという気持ちにはどうしても耐えられないんです(後略)」

常子の考えは至極全うである。家計のためとはいえ、2年近くよく頑張っていたと思う。
五反田は「そんな悲しい顔は美人には似合わないよ」という「キャンディ・キャンディ」の丘の上の王子さまみたいなことを言ったり「じゃあ、僕がその苦しみから解放してしんぜよう」なんて魔法使いみたいなことを言ったり。たぶん及川への当て書きであろう台詞を鮮やかに決めた後、衝撃の事実を語る五反田。
どーする常子!

朝ドラで太平洋戦争が描かれるのは「マッサン」(14年/脚本・羽原大介)以来。「マッサン」では、ヒロインのエリーが外国人だったことで、敵国の人間と見られて外に出られない日々を送るなど、かなり重たい描写が続いた。「花子とアン」(14年/脚本・中園ミホ)では、主人公がラジオで戦意高揚の話をすることの苦悩を経てついに降板するまでの顛末が描かれた。いずれも、主人公の信念に戦争が立ちはだかって来て、どう立ち向かうかがそれなりに尺を使って描かれている。
少し遡って、「カーネーション」(11年 脚本・渡辺あや)では、ちょうど「とと姉ちゃん」と同じ時期(昭和10年代後半)に、主人公がいい着物をもんぺに直す事業をはじめたり、闇にかかわっていると噂され物資を譲ってもらえない目にあったり、父親を、突如として戦争とは関係ないことで亡くしたり。いろいろなことが起る。戦争中の苦しみが戦争によるものだけでないという懐の深過ぎる脚本だった。

「とと姉ちゃん」は、天才的なまでに各々のエピソードをシンプルにする。74回の地方に食料をもらいにいく列車の中の乗客の面構えもじつにあっさりしたもの。でもまだ13週ははじまったばかり、しばし様子を見たいと思う。
(木俣冬)