速いプロライターはすでに始めている。野口悠紀雄『話すだけで書ける究極の文章法』
野口悠紀雄『話すだけで書ける究極の文章法 人工知能が助けてくれる!』(講談社)に驚いたことを伝えようと、この文章を書いているのだが、その前にちょっと聞いてほしい。
革命が起きたと大騒ぎになった。
ライターコミュニティでの話だ。
インタビュー記事を作るのはたいへんだ。
いろいろ苦労はあるが、そのうちのひとつは音声起こし。
インタビューで喋ったことをいったんすべて文字にする。
話者のニュアンスを再確認し、どう構成するかの基盤となる。
もちろんインタビュー原稿の作り方はひとそれぞれだが、音声起こしを丁寧にやる人は、完成原稿も丁寧だ。
だが、これが本当に面倒だ。
1時間の音声を起こすには、慣れてる人でも3時間ぐらい。慣れてなければ5時間ぐらいかかってしまう。
タイピングが速くても、喋りには追いつかない。
変換もある。誤変換もある。聞き取りにくい部分もある。
喋りは止まらないので、追いつかなくなると巻き戻す(もはやテープではないので「巻き戻す」じゃないのだが、感覚的には巻き戻す)。
ちょっと巻き戻したつもりなのに、もっと前に戻ったりする。
これがけっこう手間になる。
何秒巻き戻すのか設定できる音声起こし用のソフトもあるし、手はタイピングに専念させたいので、足で巻き戻すためのフットペダルという装置もあるぐらいだ。
ギャラが多ければ、外注に出すこともある。音声起こし専用の会社もある。
と、音声起こしはけっこうたいへんなのだ。
それが、簡単にできるというのだ。
方法は、こうだ。
インタビューを聞きながら、それを自分で喋りなおして、その自分の声を音声認識させる。
たったこれだけ。
音声認識の精度がめちゃくちゃ上がったので、できるようになった技だ。
5年前だとこうはいかなかった。自分で喋っても、デタラメな認識で、とんでもない文章が生み出された。
いまだったら、iPhoneのメモで、マイクボタンを押して音声認識させれば、そうとうな精度で文章化する。
残念ながら、まだインタビューの音声をそのまま認識させるのはむずかしい。
ノイズもあるし、やはり会話時の語りのゆらぎは大きい。
だが、その音声を聞きながら、音声認識されることを意識して話せば、ほぼバッチリの音声起こしができる。
もちろんパーフェクトではない。
時々おかしな認識もするが、慣れてくれば、後から少し修正すればOKぐらいの精度になる。
最初は、そんな方法うまくいかないよと言ってた者もいたが、実際にやって、「これはすごい!」と感動を報告するものが次々と現れ、疑心暗鬼派も転び、ライター仲間のなかであっという間に広まった。
そんなタイミングで、この本だ。
野口悠紀雄『話すだけで書ける究極の文章法 人工知能が助けてくれる!』。
帯の文章は、こうだ。
「文章を書くのが苦手な人こそ、音声入力を使って見よう! 仕事が驚異的に進む!」
あ! そうか。
音声起こしだけじゃなく、文章を書くのにも使えるのか!
いやいや、喋るのと、文章を書くのは違うのではないか。
いや、でも!
疑心暗鬼の影と、執筆革命の予感に巻き込まれながらイッキに読んだ。
「はじめに」に、こうある。
“音声入力機能を用いれば、PC(パソコン)のキーボードで入力するのに比べて、約10倍の速さで文章を書くことができます。
つまり、文章を書くという作業の性質が、一変してしまったわけです。”
本書は、「文章をまるまる音声入力で書こう」という内容ではない。
「スマートフォンの音声入力でメモをとる」という部分がキーだ。
メモなら、いままでも、フリック入力で簡単に入力できた。という反論もあるだろうが、そうではなく音声入力という圧倒的に手軽な方法でできることに意味があるのだ、と解く。
“これまでも私は、「文章を書く際に最も重要なのは、とにかくスタートすることだ」と考えており、「全体の構想がまとまらなくても、とにかく書き始める」ことを心がけていました。”
書き始めるのが、簡単になるのだ。
これは、なかなか始められないタイプには便利である。
著者の野口悠紀雄が「iPhoneにて音声入力」している映像がある。
野口悠紀雄式「雑誌連載記事の原稿ができるまで」は、こうだ。
【1】メモ入力
iPhoneの音声入力でメモをどんどんつける。
【2】予備的編集
メモを出発点として、順序の入れ換えなどを行う。
【3】追加メモの入力
追加のメモをiPhoneから音声入力する。
【4】本格的編集
PCを用いて本格的な編集作業を行う。
長い場合は、紙にプリントアウトして編集することもあるそうだ。
ぼくもやってみた。
最初は、声を出すことに抵抗があって、「うーむ、これめんどうだな」なんて思っていた。
が、慣れてくるとイケる。
いままで机に向かっていた作業が、どこでもいつでも、できるのは強い。
寝転がってでもできる、
ちょっとしたすきまの時間でもできる。
声でメモすると、タイプするよりも文章そのものではなく内容に集中できることにも気づいた。
タイプする場合だと、文章をどう整えるかまでつい考えてしまう。声の場合は、伝えるべき内容に意識が向かう。
読むときに、黙読するのと、音読するのでは意識が変わるのと同じような感覚だ。
書きながら考えるという行程が、「アイデアを出す/構成する/書く」と明確に区分けできる感覚がある。
いま書いている原稿も、本書で説明されている音声入力を活用して書く方法で、書いている。
まだ、どういうふうにやると効率があがるのか判ってないまま無我夢中でやっている。
だが、繰り返しやることによって、文章を書く流れがシステム化されそうな気がする。
進化していく人工知能を、どう活用しながら文章を書くのか。
これからは、そのためのスタイル構築が執筆のキーとなるだろう。
野口悠紀雄『話すだけで書ける究極の文章法 人工知能が助けてくれる!』の目次を紹介する。
序章 音声入力は、知的作業に革命をもたらす
第1章 いつでもどこでもメモを取れる
第2章 アイディア製造工場の稼働法
第3章 「見える化」で頭を鍛える
第4章 音声入力で本格的な文章を書く
第5章 いつでもどこでもすぐに検索
第6章 音声入力でのスケジューリング
第7章 人工知能はいかなる世界を作るか?
補論1 音声入力機能の使い方
補論2 「超」整理手帳アプリについて
音声入力を活用して原稿を書く方法を軸として、アイデアの出し方や、原稿の書き方などがまとめられた一冊。
いままでの野口悠紀雄の著作との重複をいとわず丁寧に 新しいスタイルの文章法が解説されている。
(米光一成)
革命が起きたと大騒ぎになった。
ライターコミュニティでの話だ。
インタビュー記事を作るのはたいへんだ。
いろいろ苦労はあるが、そのうちのひとつは音声起こし。
インタビューで喋ったことをいったんすべて文字にする。
話者のニュアンスを再確認し、どう構成するかの基盤となる。
もちろんインタビュー原稿の作り方はひとそれぞれだが、音声起こしを丁寧にやる人は、完成原稿も丁寧だ。
1時間の音声を起こすには、慣れてる人でも3時間ぐらい。慣れてなければ5時間ぐらいかかってしまう。
タイピングが速くても、喋りには追いつかない。
変換もある。誤変換もある。聞き取りにくい部分もある。
喋りは止まらないので、追いつかなくなると巻き戻す(もはやテープではないので「巻き戻す」じゃないのだが、感覚的には巻き戻す)。
ちょっと巻き戻したつもりなのに、もっと前に戻ったりする。
これがけっこう手間になる。
何秒巻き戻すのか設定できる音声起こし用のソフトもあるし、手はタイピングに専念させたいので、足で巻き戻すためのフットペダルという装置もあるぐらいだ。
ギャラが多ければ、外注に出すこともある。音声起こし専用の会社もある。
と、音声起こしはけっこうたいへんなのだ。
それが、簡単にできるというのだ。
方法は、こうだ。
インタビューを聞きながら、それを自分で喋りなおして、その自分の声を音声認識させる。
たったこれだけ。
音声認識の精度がめちゃくちゃ上がったので、できるようになった技だ。
5年前だとこうはいかなかった。自分で喋っても、デタラメな認識で、とんでもない文章が生み出された。
いまだったら、iPhoneのメモで、マイクボタンを押して音声認識させれば、そうとうな精度で文章化する。
残念ながら、まだインタビューの音声をそのまま認識させるのはむずかしい。
ノイズもあるし、やはり会話時の語りのゆらぎは大きい。
だが、その音声を聞きながら、音声認識されることを意識して話せば、ほぼバッチリの音声起こしができる。
もちろんパーフェクトではない。
時々おかしな認識もするが、慣れてくれば、後から少し修正すればOKぐらいの精度になる。
最初は、そんな方法うまくいかないよと言ってた者もいたが、実際にやって、「これはすごい!」と感動を報告するものが次々と現れ、疑心暗鬼派も転び、ライター仲間のなかであっという間に広まった。
そんなタイミングで、この本だ。
野口悠紀雄『話すだけで書ける究極の文章法 人工知能が助けてくれる!』。
帯の文章は、こうだ。
「文章を書くのが苦手な人こそ、音声入力を使って見よう! 仕事が驚異的に進む!」
あ! そうか。
音声起こしだけじゃなく、文章を書くのにも使えるのか!
いやいや、喋るのと、文章を書くのは違うのではないか。
いや、でも!
疑心暗鬼の影と、執筆革命の予感に巻き込まれながらイッキに読んだ。
「はじめに」に、こうある。
“音声入力機能を用いれば、PC(パソコン)のキーボードで入力するのに比べて、約10倍の速さで文章を書くことができます。
つまり、文章を書くという作業の性質が、一変してしまったわけです。”
本書は、「文章をまるまる音声入力で書こう」という内容ではない。
「スマートフォンの音声入力でメモをとる」という部分がキーだ。
メモなら、いままでも、フリック入力で簡単に入力できた。という反論もあるだろうが、そうではなく音声入力という圧倒的に手軽な方法でできることに意味があるのだ、と解く。
“これまでも私は、「文章を書く際に最も重要なのは、とにかくスタートすることだ」と考えており、「全体の構想がまとまらなくても、とにかく書き始める」ことを心がけていました。”
書き始めるのが、簡単になるのだ。
これは、なかなか始められないタイプには便利である。
著者の野口悠紀雄が「iPhoneにて音声入力」している映像がある。
野口悠紀雄式「雑誌連載記事の原稿ができるまで」は、こうだ。
【1】メモ入力
iPhoneの音声入力でメモをどんどんつける。
【2】予備的編集
メモを出発点として、順序の入れ換えなどを行う。
【3】追加メモの入力
追加のメモをiPhoneから音声入力する。
【4】本格的編集
PCを用いて本格的な編集作業を行う。
長い場合は、紙にプリントアウトして編集することもあるそうだ。
ぼくもやってみた。
最初は、声を出すことに抵抗があって、「うーむ、これめんどうだな」なんて思っていた。
が、慣れてくるとイケる。
いままで机に向かっていた作業が、どこでもいつでも、できるのは強い。
寝転がってでもできる、
ちょっとしたすきまの時間でもできる。
声でメモすると、タイプするよりも文章そのものではなく内容に集中できることにも気づいた。
タイプする場合だと、文章をどう整えるかまでつい考えてしまう。声の場合は、伝えるべき内容に意識が向かう。
読むときに、黙読するのと、音読するのでは意識が変わるのと同じような感覚だ。
書きながら考えるという行程が、「アイデアを出す/構成する/書く」と明確に区分けできる感覚がある。
いま書いている原稿も、本書で説明されている音声入力を活用して書く方法で、書いている。
まだ、どういうふうにやると効率があがるのか判ってないまま無我夢中でやっている。
だが、繰り返しやることによって、文章を書く流れがシステム化されそうな気がする。
進化していく人工知能を、どう活用しながら文章を書くのか。
これからは、そのためのスタイル構築が執筆のキーとなるだろう。
野口悠紀雄『話すだけで書ける究極の文章法 人工知能が助けてくれる!』の目次を紹介する。
序章 音声入力は、知的作業に革命をもたらす
第1章 いつでもどこでもメモを取れる
第2章 アイディア製造工場の稼働法
第3章 「見える化」で頭を鍛える
第4章 音声入力で本格的な文章を書く
第5章 いつでもどこでもすぐに検索
第6章 音声入力でのスケジューリング
第7章 人工知能はいかなる世界を作るか?
補論1 音声入力機能の使い方
補論2 「超」整理手帳アプリについて
音声入力を活用して原稿を書く方法を軸として、アイデアの出し方や、原稿の書き方などがまとめられた一冊。
いままでの野口悠紀雄の著作との重複をいとわず丁寧に 新しいスタイルの文章法が解説されている。
(米光一成)