まゆ型ローターの斬新なロータリーエンジン試作品が発売。レーシングカート向け、重さ1.8kg

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米国のスタートアップ企業LiquidPistonが、2014年に発表した新発想の小型ロータリーエンジンをレーシングカート用に仕立てて公開しました。このエンジンはローターが"まゆ"の形状で、ハウジングが三角形。一般的なロータリーエンジンとは逆の組み合わせになっているのが特徴です。また吸排気はローター内部を通る設計になっています。

現在はまだ試作品の段階ながら、公開したエンジンは潜在的な開発パートナーに向けた「デベロッパーズキット」として、3万ドルで販売します。

一般的にロータリーエンジンといえば、まゆ型のハウジング内を三角形のローターが回転します。これはドイツの発明家フェリックス・ヴァンケルが考案したことからヴァンケル・エンジンとも呼ばれ、レシプロエンジンに比べて構造が単純で軽量なのが特徴です。

LiquidPistonが開発したレーシングカート向けロータリーエンジン「X mini」は、一般に知られるロータリーエンジンとは逆に三角形のハウジング内をまゆ型のローターが回転します。このためロータリーエンジンではあるもののヴァンケルエンジンとは異なります。とはいえ構造の単純さは受け継いでおり、エンジン本体の重量は4パウンド、約1.8kgと非常に軽量です。

補機類が装着されれば実際にはもう少し重くなるとはいえ、レシプロ型のカート用エンジンと比較して1/10という軽さは驚異的です。ただ、比較対象とするカート用エンジンが6.5馬力なのに比べると、現在の出力は約半分しかないとのこと。LiquidPistonは、いずれは5馬力程度にまで出力をアップできると見込んでいます。

 

 

ロータリーエンジンといえばキモとなるのが燃焼室のシーリング。高い圧縮比を得るためにはハウジングとローター摺動部をいかにシールするかが重要です。LiquidPistonのエンジンは独自のローターおよびハウジング設計によりアペックスシールに相当するパーツがハウジング側に装着されます。このためシールの摺動速度は低くなり、より高いシール特性が得られるとのこと。

内部構造ではほかに、ハウジング形状の工夫で高い圧縮比とそれを上回る膨張比を生み出し、レシプロエンジンでいうミラー/アトキンソンサイクル同様の効果を得ているとのこと。

使用する燃料はガソリンのほか天然ガスや米軍が使用するジェット燃料JP-8などにも対応可能。LiquidPistonのエンジン開発には米国防高等研究計画局(DARPA)が資金を提供しており、将来的にはレーシングカートではなく軍用のUAV(無人飛行機)やロボットの動力源としての利用を検討しているとか。

さらに、その他の一般的な製品への応用としては、EVの非常用発電エンジン(レンジエクステンダー)や、バックパック式発電機、さらに草刈機や、チェーンソーなどのエンジンを置き換えることができるとしています。

なお、"ロータリー"と聞いただけでピクッと反応してしまう人なら「ぜひ自動車向けエンジンも」と思ってしまうところかもしれません。実際、LiquidPistonは最大1000馬力ぐらいの出力を持つエンジンも作れなくなはいとしています。ただ、スタートアップ企業にとっては(たとえば広島の自動車メーカーあたりとの提携でもなければ)、いきなり自動車エンジンを作って採算ベースに乗せるというのは難しいことかもしれません。