ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』でW主演 小池徹平&三浦春馬インタビュー
三浦春馬にとって、小池徹平は特別な“大先輩”。ともにドラマ『ごくせん』(日本テレビ系)出身で、ヤンクミという同じ恩師を持つ同窓生として特別な絆で結ばれているという。そんなふたりが、2013年、演劇のアカデミー賞ともいわれるトニー賞で作品賞をはじめ、オリジナル楽曲賞、主演男優賞を含む6部門を受賞する快挙を成し遂げたブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』に挑む! シンディ・ローパーが書き下ろすパワフルで最高に魅力的な楽曲の数々を2人はどう歌い上げるのか?

撮影/平岩亨 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.
スタイリング/松下洋介【小池】、TAKAO(D-CORD)【三浦】
ヘアメイク/加藤ゆい【小池】、MIZUHO(vitamins)【三浦】
衣装協力:MR.OLIVE( 03-5459-1885 )、S.O.S fp 恵比寿本店( 03-3461-4875 )

靴工場の社長とドラァグクイーン どう演じる?



――2005年に映画として誕生し、2012年にはミュージカル化された『キンキーブーツ』ですが、これらの作品はご覧になりましたか?

三浦 僕は2013年の初演をニューヨークで見ました。興奮して「いつかこういう役ができれば」と思いましたが、まさかそのときは、自分が出演できるなんて夢にも思ってなかったです。シンディ・ローパーさんの曲がすごく頭に残ってて、ホテルに帰ってからも英語もわからないのにハミングしてました。
小池 僕は今回のお話をいただいて、先に映画を見て、そのあとで曲を聴いたんですが、全ての楽曲が素晴らしくて! 別の現場で会うミュージカル仲間たちと話してると、みんなに(出演を)うらやましがられますね。




――三浦さんが演じられるローラはドラァグクイーン。ドラァグクイーンとは、ドレスやハイヒールなどの派手な衣裳を身にまとうなどして、男性が女性の姿で行うパフォーマンスの一種ですが、メイクや衣裳でそういう姿になるご自分を想像されてみていかがですか?

三浦 ゾクゾクしますね! こういう役どころって、なかなか映像作品ではできないので、解放されるような気持ちです。いま、想像するだけで「素敵だな」と思うのに、実際にメイクして着飾って、板の上に立ったらどうなっちゃうんだろう?(笑) 高揚しすぎて歌声が裏返っちゃったら…
小池 そこはちゃんとやれよ!(笑)



三浦 役作り面では、まずはやってみて、そこにローラのドラァグクイーンの血が浸透していくのを待つという感じですかね。もちろん、(ドラァグクイーンの)ショーを見に行ったり、新宿二丁目に足を運んだりということも浮かびますけど…(笑)。
小池 ふたり一緒には行かないほうがいいかな(笑)。
三浦 いやいや行きましょうよ!(笑)。

――単に奇抜な役というのではなく、内面にいろんな思いや過去を背負っていますね。

三浦 ずっと父親の期待を背負い育ってきて、でも自分の中に芽生え膨らんできた気持ちがあって、それでもその本心に嘘をついてきた。それが彼女の「私はこれで行くの」というブレない強さに繋がってると思う。ローラの痛みや積み重ねてきた感情を歌や立ち振る舞いの中で感じながら表現できたらと思います。

――小池さんが演じるチャーリーは靴工場の社長です。ローラと出会ったことで、差別や偏見を捨てて、経営不振の会社をドラァグクイーン専門の靴工場として再生させていきます。

小池 靴が大好きで、靴と向き合ってるからこそ、他人とのコミュニケーションは苦手だったり、感情をうまく出せなかったりするんですが(苦笑)。芝居でも、相手と目を合わせなかったり、繊細な部分を出しつつ、でも、どこか愛せるチャーリーにしたいですね。



――対照的なふたりの関係性も魅力的ですね。

小池 華やかなローラと地味なチャーリー。そこは徹底したいですね。僕は靴を愛し、職人に徹したいと思います。
三浦 ローラには、チャーリーの人生や価値観を一変させるような説得力が必要だと思います。何が起きても動じない、幹のようなローラを作っていきたいです。

シンディ・ローパーから授かったアドバイスは?



――シンディ・ローパーの曲が日本語歌詞でどのように歌われるのか、楽しみです!

三浦 この作品のどこに“セクシー”な部分があるかを歌うのがローラ。オリジナル版ではビリー・ポーターさんが、ところどころに吐息を置くように表現されていて、そういう部分も反映された日本語歌詞になると思います。

――劇場を出たらすぐ口ずさみたくなるような曲ばかりで、シンディらしいポップさもありますね。

三浦 1回聴くと、すぐにサビが頭の中に入ってきますよね?
小池 そうそう。でも、1回聴いてすぐに歌えそうと思いきや、これが難しいんですよ!(苦笑)
三浦 その人が歩んできた人生の時間――たとえば、これって心音? これは時計の音みたいに聞こえるな、という部分が随所にある。シンディの80年代的な誰もが知ってる親しみやすい軽快さの中にも、心に訴えかけるようなリズムがあったり。そういう部分を大切に歌いたい。



――三浦さんは、ニューヨークでシンディと会って直接アドバイスをもらったそうですね。

三浦 お会いする前は「すごく迫力のあるひとなんじゃないかな?」と思ってましたし、勝手にお会いしたときのイメージを持ってたんですよ。こっちが「よろしくお願いします」と言って、「よく来てくれたわね」とクロストークをするような…。

――いざ、会ってみると…?

三浦 いきなり「はい、じゃあトレーニングを始めましょ」とすぐに稽古場に入りました。「あなた、ちゃんとしたキーで歌えるの?」と聞かれて「はい、もちろんです」と答えたら、「時間がもったいないから発声始めて」と。

――即レッスンモードなんですね!

三浦 こちらが学びに行っているわけで、それが当然なんですけど、委縮してしまい、発声もうまくできなくて…(苦笑)。「体をまっすぐに!」とかいろいろ指示が飛ぶんですが、最後はいきなりあごをつかまれて「もっと下に!」と。強かったです(笑)。ただ、レッスンが終わって帰るとき、最後の最後に「捧げたぶんだけ、必ず自分に返ってくるから頑張って」とおっしゃっていただきました。

――厳しくも、背中を押してくれる心強い言葉ですね。

三浦 彼女の目の強さと言葉が僕の中ですごくリンクしましたね。根気よくトレーニングを続ければ、道は開けるんじゃないかと。

――稽古では、オリジナル版と同じくジェリー・ミッチェル氏の演出を受けることになります。

三浦 英語版の台本もいただいてるので、日本語のセリフで迷ったり、心情にそぐわない部分があったら、英語のほうに立ち返って、比べてみようと思います。

――そうしたメソッドは以前から?

三浦 『地獄のオルフェウス』で大竹しのぶさんが熱心にそうされていたんです。オリジナルの台本は、その国の人々の感覚で作られている部分が強いと思うので、そこに寄り添うことが大切だと思います。大竹さんにならって、その作業を時間を惜しまずにやっていきたいですね。

――小池さんはいかがですか?

小池 どんな演出をされるのか、すごく楽しみです。言葉の壁、細かいニュアンスを僕らがどこまで受けきれるのか?という不安もありますが、ただ指示を受け止めるだけでなく、こちらからも「こう思いますけど」というやり取りができたらと思います。僕、稽古がすごく好きなんです(笑)。特に今回、ご一緒するのが楽しみな方ばかりだし、ダンスの振り付けも含め、日本版ができあがっていく過程が楽しみです。稽古が始まって規則正しい生活の中で、この作品のことだけ考えられるようになる毎日が待ちきれないです!