今じゃすっかり市民権を得た妊活という言葉。一昔前まではある年齢に達すると結婚して子どもは当たり前のようにできるものと思われていましたが、晩婚化も進み出生数も下がる現在、妊活はもはや大切な社会的問題といえるかもしれません。しかし、社会問題とか出生率とか関係なしに、子宝に恵まれないカップルにとって妊活は今そこにある切羽詰まった問題です。

それにも関わらず、未だに妊活と検索して出てくる記事の多くは女性目線のもの。男性の当事者はどういう気持ちで妊活に臨んでいるのでしょうか?

「不妊治療を始めようというのは9割9分が女性の方からです」

そう言うのは新刊の『俺たち妊活部 「パパになりたい!」男たち101人の本音』(主婦の友社)の中で100人以上の妊活経験者の男性に取材をし、自らも妊活を経験した人気ライターの村橋ゴローさん。



男性から提案する不妊治療


不妊治療のクリニックに行くことさえ嫌がる男性が多いなか、村橋さんは自ら不妊治療をしようと奥さんに言ったといいます。自ら切り出すとは、さぞかし子どもが欲しかったのかと思いきや、それだけでもないようです。

「子どもは欲しかったのですが、正直言うと不妊治療で子どもができることなんて全然考えていませんでした。むしろできなかった時のことしか考えていませんでした。ただ後悔したくなかったのです。できなくても『俺たちやれることは全部やったよね』って言えるようにしておきたかったのです」


そういう意味では、男性の立場から不妊治療の話題を切り出したという極めて珍しい立場でありながら、本質的には他の妊活男性と変わらないのかも知れません。

というのも村橋さんの取材によると、妊活する男性たちの本音第一位は「子どもが欲しいという奥さんを応援したい」ということだからです。確かに女性と比べて生理的タイムリミットを意識することがない分だけ、男性は女性よりも切迫感がないのかも知れません。しかし、妻に寄り添い子どもを授かりたいとする男性の思いは、決して生半可ものではありません。

そのことは『俺たち妊活部』を読めばとてもよくわかります。同書では、不妊治療を通じての村橋さんの感情のひだが、奥さんへの愛情も含めて丁寧に赤裸々に描かれています。

「これまでの妊活本のほとんどがノウハウか赤ちゃんができるかできないかに焦点を当てているものでした。でも妊活って100人いたら100人の愛の物語なんです。結果がでなくても、経過しだいでは二人の絆が強まることもあるはずです。ただ、精神的にも肉体的にも経済的にもかなり厳しい治療になることもあるので、地獄のような苦しみになることもあります。特に男性が協力的でないと妊活離婚にもつながりかねません。そうした厳しい治療を長年行っている人たちがたくさんいるなか、上辺だけ取り繕って嘘っぽいかっこいいことを書くことは彼らに失礼だと思い、できるだけ自分の思いを丸裸にして書きました」(村橋さん)

不妊治療は「やるべき」


同書では村橋さんの妊活が時系列に書かれているので、不妊治療の流れや内容も分かりやすく理解できるのですが、それ以上に胸を打つのが村橋さんが治療を通じて抱いた思いや奥さんに対する愛情です。

特に体外受精の結果の2度目の流産(不妊治療においては妊娠初期の流産はよくあることなのです)を描いた場面は胸をしめつけられます。妊娠判定が出て否応なく期待が高まり頭の中は赤ちゃんのことでいっぱいなのに、ぬか喜びを恐れてあえて妊娠の話題を極力口にしない二人。ホルモン値の推移や体調の微妙な変化に全神経を注ぎながら次の妊娠判定を待つ不安。流産がわかり悲しみと絶望をこらえてひたすら耐え忍ぶ奥さん。奥さんに対して何もしてあげられない無力感に苛まされながら、ただただ彼女の背中を強く抱きしめ涙を落とす村橋さん。

多くの読者が「泣いてしまった」という丁寧な心理描写はとても切ないのですが、同時に村橋さんが奥さんに寄り添っていく姿は夫婦の美しい愛の物語でもあります。そのためか男性目線で描かれた本でありながら、女性読者からの評判がすこぶるいいといいます。

「正直いうと不妊治療中はいいことはありません。赤ちゃんを授かるまではいいことなんてないでしょう。それでも誰かに不妊治療をするべきかと聞かれたらやるべきだと僕は言います。たとえ最終的に赤ちゃんを授かることがなくても、夫婦の絆が深まることはあるはずです。でも男性が金だけ出すとか、クリニックに行かせてやるという姿勢だと逆に大変なことになりかねません。苦しい治療を通じて夫婦の絆が強まるのは、夫の惜しみない協力があればこそです。妊活中の男性が奥さんのつらさや悩みに寄り添って、一組でも多くの夫婦がいい形で妊活を乗り切ることができればいいなと思います」
(鶴賀太郎)