役者は揃った。サエコを中心に、5人の女たちが繰り広げる攻防戦。 身近な女の、大富豪との熱愛発覚。 その時、女たちは何を思うのだろうか?サエコのサークル時代の同期で、現在地方局の女子アナをしている"アン”が、サエコ熱愛の噂を聞き、悪意剥き出しに、何かを企んでいたようだが・・・「私よりイイ男と結婚するなんて許せない。」心に潜んだ毒は女たちを狂わせて行く・・・。

前回:百戦錬磨の男と、魔性の女。勝利の女神はどちらに微笑む。


不埒なリズムでギラつく胸は、君を欲しがる欲望のサイン・・・?


サエコの登場により、焚き付けられた男は、紛れもなくタクミだった。

全員が揃ったところで、二度目の乾杯をする。
さとみの右隣にサエコが座り、そのまた隣にタクミという配置だ。

タクミは、サエコ越しにさとみへアイコンタクトを送り、唇を動かした。

- good job -

昔から、タクミが”獲物“を見つけたときの合図だった。

アネモネのような可憐なワンピースの赤は、タクミの目には、不敵な闘牛士の真っ赤な旗のように映っているのだろうか。不埒なリズムでギラつく胸は、君を欲しがる欲望のサインと、郷ひろみが歌っているように、先ほどから、野蛮な太陽の如くギラついた視線を送っている。

しかし、当の本人のサエコは、1mmの遠慮もないタクミの視線に気付かぬはずはないが、どこ吹く風で目の前に座っている取締役の男と話している。

さとみは幹事として会全体に気を配らねばと思いながらも、意識はタクミのいる右側に圧倒的に引寄せられてしまっていた・・・


その頃、広尾の高級マンションの一室では・・・


その頃広尾のマンションの一室では・・・


その頃広尾のマンションの一室。

20畳は優にあるだろう、その高級マンションのダイニングは、年代もののシャンパンが揮発して湿度が保たれているのか、加湿器がなくともじっとりと湿っている。

エクゼクティブと思しきビジネスマンや、外国人もちらほら。絹のような腕を惜しげもなく出した細く美しい女たち。

皆、毛並みのいい血統証付きの粒揃いのようでいて、反面、胡散臭い詐欺師のようにも見える。得体の知れぬ玉石混交の男と女・・・

仮面舞踊会のような危うさに、自然と警戒心が上がりながらも、アップサイドの果てしなさに、アンは思わず幸せの眩暈を起こしそうになっていた。




-アンちゃん、本当にますます綺麗になって!やっぱり女子アナなんだねぇ。-

二流広告代理店の男の言葉で、はっと我にかえった。アンと連れ立ってパーティーに行けるのがよほど嬉しいのか、身の程をわきまえず、アンの腰に手を回している。

-でも、東京だと、山梨テレビは見れないのが残念だなぁ。-

悪気はないであろう男の二言目に、アンは見逃してやっていた男の手を腰からベリベリと引き剥がす。

キン肉マンのような顔をした二流代理店にこれ以上付き合っているわけにはいかない。アンは、シャンパンを片手に、辺りを見渡した。


その"獲物”を射程圏内におさめた時・・・アンが動きだす。




部屋の奥に鎮座している、70万は下らないアルフレックスのソファの中央に、一人の男が座っていた。

カジュアルながら着る者を選ぶ、グレーのパーカーに、グレーのスウェットというファッションで、リラックスした仕草で赤ワインを飲んでいる。

サエコの熱愛の噂を聞いてからというもの、せり上がってくる苛立ちを押し込めながら、何度も何度も、その男の名前と、社名と、売上と、経常利益と、役員報酬、そして保有資産を調べあげたのだ。アンの脳内に、深く深くインプットされたその男の顔は、もはや最先端顔認証と同格以上の精度で、今アンの頭の中で線を結ぶ。

- 見つけた。 -

”獲物”を射程距離に収めたアンの心が、急激に高鳴る。

「不思議ね、願った奇跡がこんなに側にあるなんて・・・」

Misiaの「Everything」の一節を今にも高らかに歌いあげたいような衝動を抑えて、アンは、その男にゆっくりと近づいた。