「シングルマザーは恋愛禁止」深夜ドラマ「おかしの家」は今期注目ドラマだ

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「だめだめ シングルマザーは恋愛禁止 アイドルとおんなじ 恋愛禁止」

5歳の男の子の母親役・尾野真千子がママチャリをグイグイ漕ぎながらひとりごと。
だめだめと言いながらちょっとテンション上がっている。
10月21日からはじまった深夜ドラマ「おかしの家」(TBS/毎週水曜深夜23時53分〜)。


第1話では、離婚を機に地元・下町に帰ってきた礼子(尾野真千子)は、何年かぶりに同級生・太郎(オダギリジョー)に会って、勝手な思い込みも含め、そこはかとなく気持ちが動き出す。

太郎のほうは、「この流れだと確実に惚れられるな」と幼なじみたちに心配され、当人も「礼子を養う自信がない」と弱気。
なにしろ、彼は現在、亡くなった祖父のやっていた駄菓子屋さくらやを継いでいるが、その利益は微々たるものだ。
そこで働く以外は、深夜の工事現場のバイトをしていて、その給料の半分の使い道すら誇れるものではなかった。

理由あって恋愛に消極的な太郎。ところが、はじまって30分(1話30分)で、太郎と礼子がなんとなくずるずると近づいていく。
その様子は恋愛ドラマらしいメリハリの効いた、恋愛のお手本のようなものではない。
つねにやる気満々な若さはないが、枯れてもいない33歳の男女がなんとなく動物的に接近していく流れが、適度なユーモアを交えつつ、手際よく描かれている。

時が過ぎていくこと、大人になること


脚本と監督は、『舟を編む』『バンクーバーの朝日』などを撮った奇才・石井裕也。
太郎が来るのをずっと待っていた礼子が、やっと現れた彼と話すとき、ママチャリのサドルをぐじゅぐじゅいじっている姿や、冒頭で、金魚すくいの金魚を水中撮影し、途中、幼なじみの4人が水に足を浸けて涼んでいるところも水中撮影しているという、あってもなくてもいいけどあったら印象的な画づくりにも余念がない。

「エッヂの効いたドラマづくりに挑戦すると共に、TBS の次世代を担うクリエーターの発掘と育成を目指す」ために作られた枠「水ドラ!!」のトップバッターが、映画界ではすでにだいぶ有名な石井だということは、新人にいい刺激を与えるための人選か。

石井監督は「おかしの家」を恋愛ものの要素も入れつつ、本質的なテーマとして、時が過ぎていくこと、大人になることについてなどを用意している。
冒頭で太郎は、
「この駄菓子屋はいずれ確実につぶれる でもこの駄菓子屋は無意味で無駄なものだとどうしても思えないのだ」と語る。
祖母・明子(八千草薫)はもう店を処分してもいいと言うが、そうしたがらない太郎。
彼は子供のとき、どんどん時間が過ぎていくのがこわくて時計の秒針の音をおそれるほどで、人の死や昔からある駄菓子屋がなくなることに対してナイーブだ。
駄菓子屋の裏庭で日々、幼なじみたちとつるんでいるときは、死んだような瞳をして、時間が進むのを拒絶しているかのよう。

この死んだ目をしただらだら仲間の顔ぶれも印象的。
駄菓子屋と同じく客の少ない銭湯をやっている、50代の島崎は嶋田久作。
脚本家志望で、なぜか太郎と同じ髪型をしている同級生の三枝は勝地涼。
太郎と三枝よりひとつ下の金田は前野朋哉。
彼らはみごとに、すでに肉体はおっさん化しているにもかかわらず気持ちだけは少年のように見える。

どうなる? シングルマザーの恋


主題歌「空がまた暗くなる」(RC サクセション)は「大人だろ」と歌う。
それが太郎たちに向けられているようなのだが、彼らは、これから大人の自覚をもつのか、そのまま時が止まったままなのか、駄菓子屋はどうなるのか、シングルマザーの恋は? 
なにより、テレビドラマにまだ可能性は残っているのか、新設枠がどこまで闘えるだろうか。
(木俣冬)