女性器をテーマに扱った『あいこのまーちゃん』。突然の連載中止、そこからの復活劇を遂げてようやく出版された作品です。女性器を描くのはそこまでタブーなんだろうか。

写真拡大

ベルギー・ブリュッセルに堂々と飾られている「小便小僧」。毎日洋服を着せ替えるなど、イベントも多い観光スポットです。
対になるネタとして、屈んで放尿する「小便少女」の像も、同じブリュッセル市内に作られています。
ところがどうも、こちらは市民には良く思われていない。
裏路地のような場所で、鉄格子で覆われている彼女。観客はほとんどなし。
「リアルすぎて笑えない」んだって。

『あいこのまーちゃん』は、女性器をテーマにしたマンガ。
2014年6月27日に、連載開始2日後というところで、突如連載取り消しが決まりました。
その単行本が、クラウドファウンディングなどの苦労を経て、2015年4月28日ついに発売されました。

主人公のあいこは、天真爛漫な女子中学1年生。
ある日、クラスのみんながすでに生理が来ていることを彼女は気にしていました。
すると突然、彼女の股間に顔が現れて、吐血します。
この顔、とにかく色々しゃべる。あいこが彼女につけた名前は「まーちゃん」。
まーちゃんとあいこが会話しながら、楽しく暮らす日々が始まります。

会話シーンは当然、あいこは下半身すっぱだか。と言っても股間は「まーちゃん」の顔です。
他の子の股間も、あいこから見ると顔に見えるらしい。
自然体験合宿では、クラスメイトの陰毛をみて「みんなひげが生えている!」とショックを受けます。
ナプキンサイズはまーちゃんと相談。サイズがあわない時、まーちゃんは血まみれで大変な有り様に。
ある日男子に告白され、彼女の心に性が芽生え、興奮します。これをまーちゃんの「よだれ」で表現。
女性器を擬人化することで、女性の身体に変化していく性徴を、をコミカルに表現した性教育マンガです。

連載取り消しは、あまりにも唐突でした。
連載取り消しのおしらせ : やまもとありさ「まんまんかきかき!」
「コミックゼノン編集部のあるコアミックスという会社が徳間書店という会社に委託して雑誌や単行本を出版するらしいのですが、徳間書店の担当者が、有害図書指定に当たる可能性があるとして、わたしの漫画を出版できないと判断したそうです」
「原稿5話分と、5枚のカラーと何話かネームを書き溜めていて、公開日が近づき楽しみにしていたところだったので、しばらく事実が飲込めず誰にも何も言えないままでした」

連載中止が決まってから、作者によって一話がまるまるネットにアップ。
公開した1話は33万アクセスを越えます。
Twitterでは「面白いじゃん」「なんでこれが中止なの?」「これをアウトにするのは表現の自由の侵害では?」との声が、多く見られました。
ただ同時に「これはアウトでしょ」「さすがにやりすぎだ」「ちょっと生理的に受け付けない」という声は、決して少なくありませんでした。

続編を書くためのクラウドファウンディングでは応援の声が飛び交い、140万集まります。
エールに応えるべく、作者も2014年12月には、273時間作画配信なども実施。
多くの人の支持によって、できた単行本です。

気をつけたいのは「漫画が、東京都の定める「不健全図書」に当たる可能性があると出版社が判断した」という部分。
つまり単行本自体は出しても問題はない。
決して法にふれてない。会社が「可能性」として切った。
だから「どこ」がNGなのか、結局誰にもわからない。

女性器を作品で扱うのは、かつてから難しいのは事実。
男性器の話題は、比較的ジョークとして扱われやすい。かつての『クレヨンしんちゃん』のぞうさんとか。
しかし女性器の話題は、大体の場合タブー扱い。
特に「少女の」がついた時、絶対に許されなくなります。

「六ツか七ツの男の子の陰茎がただかわいらしいのに比べて、同年齢の女の子の陰部が無気味なのは、それが単に排尿のための器官ではなく、すでに性交可能を幻想させるからである。だから少女に陰部を出させることは、「少女」という幻想の「女」を現実化することになってしまう」
(富岡多恵子 荒木経惟『少女世界』(1984)あとがきより)

女性であるからには「ついている」のだから、なかったことにするのはちょっとおかしい。
とはいえ、女性器を何らかの形で表現することに抵抗がある人がいるのは、仕方がない。
今回は努力の甲斐あって出版にこぎつけました。しかし「出版社の裁量」がどう作家に影響するかは、これからも課題になるはず。

さて作品の後半、性的興奮をしてはまーちゃんがよだれを垂らし、言うことを聞かなくなります。
子供だったあいこは性に目覚め、それを「いやらしいこと」だと考えて、悩みます。

大人になりたくない、自分の性に向き合いたくない。
でも、まーちゃんはそこにいる。吐血もするし、よだれも垂らす。
少女は、自分の女性器とコミュニケーションを取りながら、うまく折り合いをつける術を探していきます。

『あいこのまーちゃん』

(たまごまご)