■各ポジションに丁寧な手当をした堅実な補強

ディエゴ・フォルランの獲得により、サッカー専門各誌・紙が補強診断でSをつけそうなセレッソ大阪。なんと言ってもピチーチ※を二回獲得、FIFAワールドカップMVPにも輝いた本物中の本物だけに、フォルランの能力を疑う者はいまい。いかにずば抜けた力を持っているかは、ウルグアイ代表で来日した昨年の試合でも実証済みだ。(※編注:リーガエスパニョーラ得点王)

ランコ・ポポヴィッチ監督がどのようなフォーメーションを採用するかはわからないが、2トップ、1トップのセンターフォワードかトップ下など得点に直結するポジションで先発させることはまちがいない。いや、出場していただく、といった感じか……。

そのフォルランの輝きに眼を奪われ、ついつい「豪華大型補強!」と言ってしまいたくなるが、実際には各ポジションに丁寧に手当をした堅実な補強に映る。

現役オーストラリア代表でメルボルン・ビクトリーから移籍のミッチ・ニコルズ、日本代表招集経験がありFC東京から移籍の長谷川アーリアジャスールは、ともに前線から中盤まで複数のポジションをこなすユーティリティ(ポリバレントな)プレーヤーで、ボランチ、サイドハーフ、トップ下またはセカンドトップ、センターフォワードまでの穴埋めも期待できる選手たち。1月時点で長谷川が25歳、ニコルズが24歳と、中堅どころの落ち着いた時期にさしかかる、それでいてフィジカル的にも頼もしい年齢であり、働き蜂として計算できる。

長谷川は月間JリーグMVPに選ばれるなど昨年東京で頭角をあらわしたスター性のある選手だが、戦力としてはむしろ華より実をとった恰好ではないだろうか。

■補強が活きるのはベースが整ったチームだからこそ

ディフェンスラインには京都サンガF.C.から右サイドバックの安藤淳とセンターバックの染谷悠太が入った。ぎりぎりでJ1に昇格しなかったクラブのなかでは最上位の京都から選手をピックアップしたという点で目の付けどころもコストパフォーマンスもいい補強だ。

それに、昨シーズンの京都はサイドバックが高い位置取りをする攻撃的なチーム。そのサッカーに慣れたディフェンダーということで、やはりスペクタクルあふれる攻撃的なサッカーを披露するセレッソに入っても、フィットできそうな期待を持てる。それぞれ29歳と27歳、キャリアハイを迎えそうな充実期にあり、年齢構成上のバランサーとしても機能するだろう。実際、今回の補強選手にかぎっても、30代、20代後半、20代前半〜中盤とバランスがとれている。

こうした手当という意味での補強らしい補強ができるのも既存のチームがある程度しっかりしたメンバー編成をしているからで、セレッソの根底には傑出した育成能力がある。それもセレッソ大阪U-18までで完結するものではなくトップで使い仕上げていくクラブ全体の育成力だ。

あれだけのタレントを欧州に買われていきながらなお、柿谷曜一朗、南野拓実が攻撃を牽引し、魅力的なサッカーでJ1の4位へと躍進、柿谷の代表での活躍も手伝い、コアサポーターに加えて新規のセレッソ女子を惹きつけている点は高く評価すべきだろう。

補強が活きるのもベースが整ったチームだからこそ。ことしフォルランの活躍によって優勝やそれに類する結果を残したとき、もちろん補強も賞賛されるべきだが、下部組織出身者の活躍と彼らの力を高めたスタッフの働きを忘れてはならないだろう。

■著者プロフィール
後藤勝
東京都出身。ゲーム雑誌、サブカル雑誌への執筆を経て、2001年ごろからサッカーを中心に活動。FC東京関連や、昭和期のサッカー関係者へのインタビュー、JFLや地域リーグなど下位ディビジョンの取材に定評がある。著書に「トーキョーワッショイ」(双葉社)がある。
2012年10月から、FC東京の取材に特化した有料マガジン「トーキョーワッショイ!プレミアム」をスタートしている。