2013年初の公式戦となるアルガルベカップに参戦したなでしこジャパンは、順位決定戦で中国を1−0と破り、5位で大会を終えた。

 12チーム中5位。昨年の準優勝と比べると平凡な成績だが、今大会は試合ごとに異なるテストの要素が満載の4戦だった。

 2月の大分合宿のなでしこチャレンジ組から引き上げた選手が順調な動きを見せ、ポルトガルに入って数日間のトレーニングでその成長を感じた佐々木則夫監督は、新戦力6名を含む若手中心メンバーで初戦に臨んだ。結果として、ノルウェーに敗戦(●0−2)し、この負けが5位という成績に影響したことは間違いない。

「采配ミスだった」と佐々木監督はノルウェー戦後に語ったが、それは「期待をかけすぎた」と同意だろう。国内合宿を含めわずか2週間ほどではあったが、細かく指示してきたなでしこ流のボールの動かし方と連動の第一歩を体現できるようになっていた新米なでしこたちに、チャンスを与えたかったのだ。

 わずかに狂いが生じたのは初戦の2日前。予定されていたスウェーデンとの練習試合が雨天中止となった。新戦力が実戦でどの程度動けるのかをここで見極めるつもりでいた指揮官は、そのテストを初戦にスライドさせた。しかし、ノルウェーのフィジカルの強さに戸惑って相手のペースに引き込まれ、ほとんどの選手たちが本来のプレイを見せることができなかった。

 経験の重要さを痛感させられた試合だったが、それは中堅選手にもあてはまる。ロンドン五輪メンバーの大儀見優季、鮫島彩らを投入しても劣勢を覆すことはできなかった。ベテラン抜きで苦境を切り抜ける“経験”がなかったことも初戦の敗因に上げられるだろう。

 現メンバーのベスト布陣で臨んだ続くドイツ戦(●1−2)、そしてチームの可能性を広げようとしたデンマーク戦(○2−0)は「今しかできないトライ」(岩清水梓)だった。

 澤穂希や宮間あやら、主力がいないことの影響の大きさはさておき、現状メンバーでいかにスムーズな戦いができるか。ロンドン五輪のチームと比較することなく、「できるだけ、いろんなことを怖がらずにやってみる雰囲気をつくろうと心掛けていた」という岩清水たちが考えたのが、ボランチの宇津木瑠美をアンカー役としてだけではなく、攻撃の起点にも据えることで攻守に厚みをもたらすこと。

 これで相手DFラインの裏を突く、タテへの攻撃が増え、デンマーク戦では宇津木のロングパスが大儀見のゴールに結びついた。中堅選手が今までの経験をもとに最善の組みたてを模索したスタイルといえる。

 中国との5位決定戦では、佐々木監督自身、スタメンを組むにあたって計算できる選手を最小限にし、ここまでの3試合で力を出し切れていなかった選手、監督がもう一度試してみたい選手を起用。なおかつ、勝つことを要求した。

 対する中国は気合い十分。相手の寄せの速さや、ファウルすれすれの激しい当たりに、日本は苦しい展開となった。FWにボールが入らない状況に、大儀見もたまらず中盤までボールを受けに下がってくる。それでもまだなでしこのプレスにはムラがあり、攻守がかみ合わないまま前半を終えた。

 後半に入ると、佐々木監督は流れを変えようと選手を入れ替えた。田中明日菜をボランチに、田中陽子を左サイドMF、トップに田中美南を入れた。「我々が卓越した展開をしたのではなく、中国の足が止まったから」(佐々木監督)とはいえ、この交代で攻撃は活性化した。そして67分、中島依美が鋭い突破を見せ、ファウルを誘い絶好の位置でFKを得る。

 そのFKを任されたのは中島本人。すると大儀見が近寄り、中島に告げる。「DFの裏に蹴って」。大儀見が位置を取ったのは、飛び込むタイミングをはかろうとする味方と、それを阻止しようとする中国DF陣の群れの一番奥。中島が蹴りだした瞬間、大儀見は一瞬、群れの動きと逆行するかのように踏み出しをとどめ、一団の空中戦の一瞬後に一気に前線へ飛び出した。思惑どおり、ボールはピタリと大儀見の足もとにこぼれた。大儀見の読みと中島の正確なFKの賜物の決勝ゴールだった。