左より、宇多丸、井筒和幸
 2008年にフランスで公開後、全米で初登場1位を獲得し、9週連続でトップ10入りを記録した映画『96時間』。日本を含む世界中を震撼させた問題作が来年1月11日、更なるスケールアップを遂げ『96時間/リベンジ』として公開される。本作の公開を記念して、20日には『96時間』と『96時間/リベンジ』の“イッキ観”試写会を開催。上映前には、映画監督でありながら、辛口映画評論家としても知られる井筒和幸と、レギュラーラジオ番組「ウィークエンド・シャッフル」での独自の切り口による映画評もおなじみのライムスター・宇多丸がトークショーを行った。

 宇多丸は過去2度、自身の番組のゲストとして井筒監督を招いたことがあり、和やかな雰囲気でスタート。本作について、宇多丸は「リーアム・リーソンの皮を被ったスティーブン・セガール映画」と例えると、「敵とコイツ(主人公)のどっちが勝つかの勝負じゃないんですよ。会ったら最後、そりゃもう敵は死ぬんだよ。いつ会うか?みたいな話。」と説明。「あと、90分台で短いのがいいですよ。こういうのを2時間半とか掛けてやるような映画が多過ぎじゃないですか。」と付け加えると、井筒が「『007 スカイフォール』は長かったよね。」と、宇多丸が自身の番組で「シネマランキング2012」第1位に選んだ作品を批評。「アレはいいんです!あの倍あってもいい。その話はいいんです。」とフォロ―する宇多丸と対立し、二人のやり取りに序盤から場内は笑いに包まれた。

 また、スティーブン・セガールとの違いについて、宇多丸がリーアム・ニーソンを“演技派”と例えると、井筒は「誰だって演技派じゃ!」と徐々にヒートアップ。宇多丸が前作『96時間』でのブライアンについて「この人も、殺していい訳じゃないけどね。パリに乗り込んで行って、あんなにやりたい放題って。フランスの主権を侵されまくりだよ。」と突っ込むと、井筒は「今回だって、イスタンブールの主権を侵しまくってたよ。あんな屋根の上に勝手に行ったらアカンぞ。あれ?屋根の上で誰か(ダニエル・クレイグ)もやってたぞ、この間イスタンブールで。同じロケ・コーディネーターがやってんじゃないの?」と再び話題を『007 スカイフォール』へと引き戻した。

 井筒が、元CIAの主人公ブライアンと混同して、今作で“リベンジ”計画を実行する因縁の相手をCIAと言い間違え、「あ、CIAじゃねぇか、ゴメン。ちゃんとした敵だよね。『007 スカイフォール』はちゃんとした敵じゃなかったからな。」とボヤくと、宇多丸も遂に堪忍袋の緒が切れたのか「あのねぇ、とにかく俺の前で『007 スカイフォール』の悪口を言うのはヤメろ!俺はあの映画、結構好きなんだよ。お願いしますよ。」と反論し、場内は爆笑。

 仕切り直そうと、宇多丸が真面目に「一作目も電話でむざむざ、さらわれる瞬間を聞いてなきゃいけないっていう。電話でやり取りしてる内はまだカットバックなんだけど、敵が娘のいる部屋に入ってきて、いざ捕まるって所になったら、リーアム・ニーソンの顔にグーッとアップになって。お父さんの無念の方に気持ちが集中するような演出になっていて。あそこがすごく良い訳ですよね。」と見所を語ると、井筒は「いやもう『シンドラーのリスト』より出てたよ。ナチスに魂を売るかどうしようか迷ってた。演技派やから。」と茶化し、宇多丸は半ば呆れた様子で「『96時間』を褒めるのに、他の映画をけなさないといけない。」と愚痴った。

 続いて、宇多丸は「奥さんが『007 ゴールデンアイ』のファムケ・ヤンセンじゃないですか。ゼニア・オナトップ(役名)が奥さんですよ。今回は大活躍でしたけど、前回は無駄なファムケ・ヤンセンの使い方してるよね。」と自ら「007」ネタを披露すると、井筒は「嫁はんヤバかったよ。ものすごく鬼気迫るものがありましたよね。エロい所がないと映画じゃないもん。だから『007 スカイフォール』はダメなんです。」とバッサリ。宇多丸は「『007 スカイフォール』は両方あるじゃないですか。あれはジュディ・デンチ(M役)がエロなんですよ(笑)。アイツがさ太ももをサワサワするのあったじゃん(笑)…って、そんな話はいいんだよ!」と自虐ネタを披露し、遂に観念した様子だった。

 井筒とリーアム・ニーソンが共に60歳ということから、宇多丸は「井筒さん主演で、日本版『96時間』をやったらいい。そんなのがあってもいいと思うんですけどね。その荒唐無稽さを許容するアレがすごく狭いからね。でも、それで本当にすごく面白い映画が作れれば多分、人は来ると思うんですよね。『96時間』はまさに、これだけ面白ければ人は来るということだと思う。」と配給の20世紀FOXに提案する一幕も。

 話題はリーアム・ニーソンの過去の出演作へとさかのぼり、宇多丸は「演技派のイメージがあった人が、今やアクション俳優になってるけど、元々サム・ライミ監督の『ダークマン』(1990年)の最初の方で、縁日で景品が当たったのにくれないといって、ブチ切れて指を逆折りする場面があって、この人は若い頃から元々キレやすかったんです。そういうのを臭わせたキャスティングもいいですよね。」とコメント。井筒は「この人、良いシリーズを見付けたよね。俺だいぶ先行き心配してたんですよ。もう『星戦争(スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス)』(1999年)行ってから、もうお前アカンやろ?って思ってた。でも、こんなアクションするとは思わなかったからね。」と明かした。

 宇多丸が「当たり役とか、どの監督にとっても、キャリア上でこれがターニングポイントみたいなのって、もちろん毎回全力で作られてても、運もある訳じゃないですか?」と質問すると、井筒は「役者は過去と決別して、吹っ切ることが大事なんですよね。肩に背負っているのを一回全部置いて、もう一回行くのが大事なんですよ。その時にもし何か自分のキャラが掴めたら、ハマったりするんですよ。」と達観した回答。宇多丸は「身長(190cm)がこれだけ大きいから、顔は子犬だけど、強そうには見える。今や娘大好きな、怖いお父さんのイメージがあるから、多分『バトルシップ』(2012年)は完全に『96時間』を踏まえてある。」と、『96時間』以降の出演作について語った。

 危うくラストシーンのネタバレをしかけた井筒だったが、宇多丸が「『96時間』を観てて、このお父さん死にましたとか、そんな訳ない。みんな実は、娯楽映画は結末を知って行ってるも当然というのはありますよね。今回も電話とかのお約束シーンがあるけど、それがどうアレンジされているかが見所。」と紹介すると、井筒も「そんなもん詐欺みたいなもんだからな。もう分かった上で見るんだから。」と同意。最後に、父と娘の関係性について、宇多丸が「この親子ってベッタリというか、子離れが出来てない。ちょっと問題があるぐらいじゃないですか。今回それがより強化されたふしが、ちょっと心配。」と述べると、同じ娘をもつ父である井筒は「いやでも、あんなもんですよ。」とブライアンと変わらぬ溺愛ぶりを覗かせた所で、上映の時間が訪れた。

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