カズのフットサル日本代表デビューは、ひとまず周囲を納得させるものだっただろう。 
 彼が初めて代表のトレーニングキャンプに招集された9月下旬の合宿を取材した。
ディフェンス中心のトレーニングメニューに、カズは苦闘していた。マーカーが入れ替わると動きが混乱し、相手をフリーにしてしまうことがあった。フルコートでは挽回可能でも、フットサルではシュートに結びつく「間」となるズレが、彼の周囲で生じることがあった。
 
 ミゲル・ロドリゴ監督の指示に熱心に耳を傾け、チームメイトとも確認作業を繰り返すなど、精力的な姿勢ははっきりと読み取れた。だからこそ、時間の無さが重くのしかかっているように思えてならなかった。
 
 W杯開幕は、ほぼ1か月後に迫っている──果たして戦力と呼べるレベルにまで到達できるのか、僕自身は疑問を感じざるを得なかった。「このチャレンジは彼にしかできない」というロドリゴ監督の言葉も、どこか空疎な響きを伴っていた。
 
 それがどうだろう。3回のトレーニングキャンプを経て10月24日のブラジル戦に臨んだカズは、フットサルプレーヤーとしての資質を身につけていた。

「頭のなかのパワーを、100%ディフェンスの理解に割いている。ということは、攻めにかかったときに伸び伸びと創造性を持って、アドリブを利かせるプレーができている状況ではない。いまはまだそういう段階だが、守備がオートマティックになれば本来の力を出せるようになっていくと期待している」

 試合前日の記者会見で、ロドリゴ監督はカズについてこう話していた。AFCフットサル選手権で6試合3失点という守備力を発揮した日本だが、ブラジル、ポルトガルと対戦するW杯ではさらなる守備力の向上が求められる。「選手生活で最高の守備をしなればならない」とロドリゴ監督も話しており、カズもまた例外ではない。

 ディフェンスで遅れるところはあった。それでも、ゲームの流れに意外なほどスムーズに溶け込んでいった印象がある。攻撃におけるアドリブも垣間見せた。

 もちろん、これぐらいはやってもらわなければならないのは事実である。同時に、このチームにおけるカズはあくまでもオプションのひとつだ。「僕はエースでも何でもないですから」と、カズ自身も話している。チームを牽引するのは既存の選手であり、短時間なら計算できる戦力に成り得ることを、彼はブラジル戦で明示したと理解する。

 さすがだなと思ったのは、試合後である。
 現世界チャンピオンのブラジルと引き分け事実を、多くの選手はどのように理解するべきかはかりかねているようだった。どちらのチームもベストコンディションでなく、3点を奪ったものの同じ数の失点を喫した。自信にできるところはあるが、あくまでもテストマッチに過ぎないので、自信を抱くことをためらわせる。どこか複雑な空気が、取材エリアに立ち込めていた。

 カズの視点は明確だった。

「次のウクライナ戦にどういうモチベーションで臨めるのかが大事。同じように持っていけるようにしたい」と話したのだ。

 27日に行なわれるウクライナ戦は、W杯開幕前最後のテストマッチである。24日のブラジル戦はともかく、ウクライナ戦で内容のないゲームをすることが、11月1日のブラジル戦につながる──彼はそう言いたかったのだろう。
「ピッチに立ったら年齢は関係ないですよ」とカズは繰り返すが、彼の経験はかけがえのない財産としてチームを下支えしている。