一部報道によると、日本サッカー協会(JFA)の次期会長に、大仁邦彌(だいにくにや)副会長の就任が有力となっているという。小倉純二現会長が定年で退任することに伴うもので、6月末に正式決定されるとのこと。

現役時代は慶應義塾大学、三菱重工(現・浦和レッズ)、日本代表で活躍した67歳。引退後にJFA入りしてからは強化委員長、女子委員長、フットサル委員長などを歴任……と、こうした輝かしい経歴だけを見れば、次期会長に推されるのも当然のように思える。

だが、実はこの人事に不安を覚える人間がサッカーメディアのなかには少なくない。一般紙サッカー記者A氏が言う。

「人当たりがよく、敵をつくらないのが大仁氏のいいところですが、はっきり言えばそれだけを頼りにJFA内で生き残ってきた人物。協会のどのポストに座ろうと、彼ならではの考えや方針というものを一切示さない。事なかれ主義が身上なんですよ」

自身の色を明確に打ち出さない調整型のリーダーという意味では、今の小倉会長も同タイプではある。しかし、小倉氏には得意の英語力を生かした、歴代会長随一の国際的なパイプの太さがあった。

「現職のFIFA会長と友達付き合いできたJFA会長なんて、小倉氏のほかには誰もいない。彼の人脈のおかげで実現した国際試合は男女問わず多いんです。大仁氏の場合は英語がからっきしダメだし、国際舞台で社交的に振る舞ったり、タフな交渉を自国に有利な条件で取りまとめるといった芸当も期待できない」(JFA関係者)

そういえば、日本代表のアウェー戦のキックオフ前、相手国の協会会長が肩を抱くなど親密なしぐさを見せながら、たっぷり時間をかけて両チームの選手を激励する一方で、日本選手団の団長を務める大仁氏がぎこちない握手をしながら事務的に通り過ぎてゆく、ってシーンは何度か見たことがある。

内政も外交もダメ。まるでどこかの国の首相のようだが、こんなファン無視の人事を見過ごすわけにはいかない。今すぐ、JFAに対して抗議の声を上げるべきじゃないのか?

ところが、大仁氏の会長就任を消極的にせよ支持する向きも、実はあったりするのだ。

「だって、ほかにやれる人がいないんだから」

そう苦笑いするのはスポーツ紙デスクのB氏だ。

「元会長の川淵三郎氏は、かつて自分の座を脅かしそうなライバルを協会内から徹底的に排除しました。その結果、年齢、経歴の両面で次期会長をやれそうな人材は大仁氏が残っているのみ。財界人など部外者を新会長に招聘(しょうへい)する案もあるようですが、サッカー協会という特殊な職場でいきなり能力を発揮できるかどうか。大仁氏なら、曲がりなりにもJFAのなんたるかはわかっている」(B氏)

そして、「何もしない」のはある意味、ひとつの才能だと見なすことができるのだという。

サッカー専門誌編集者C氏はこう話す。

「かつて会長だった川淵氏や犬飼基昭氏はなんでも独断専行で決めたがり、現場は相当迷惑していました。かえって大仁氏のような何もしない人が上にいたほうが、下がのびのび一生懸命働いていい事をするんです。国際的な政治力のなさにしても、協会内のしかるべき人や部署が代わって担当すればいいだけのこと」

ましてや現在のJFAは、プロリーグの立ち上げやW杯招致といった一大プロジェクトを抱えているわけでなく、手堅い安定路線が求められている。

「そんな時代の会長には変な野心がなく、守りが堅いタイプのほうがいい。大仁氏なら際立った功績は期待できない代わりに、少なくとも後々まで悪影響を及ぼすような失政はしないでしょうからね」(C氏)

ちなみに、大仁氏の現役時代のポジションはDFだった。