「浦和をJ2に落とすと、J1が(集客数などで)困るから、なんらかの力が働いているんじゃないの?」

記者会見場の椅子に腰を下ろすと、そんな声が聞こえてきた。

J1第30節、横浜FM×浦和戦。スタジアムに居たほとんどの人たちが、審判団に不満を持っているのを感じた。それは、記者会見にあらわれた木村監督の「流れを一発で変えられる選手が欲しい。今日の試合でいうと審判だな」という皮肉に、ほとんどの記者が同調していたことが物語っている。

特にミックスゾーンではその傾向が如実にあらわれ、多くの記者がPKをとられた小林をはじめ、選手たちに同情的な質問をぶつけた。結果、「あまり言い過ぎるとアレなんですけど……20年間プレーして、あれがPKだとはじめて知りました」など、審判に対する不満に満ち溢れていた。

確かにPKはフィフティな判定だった。しかし、決して誤審ではない。PKをとる審判員もいれば、とらない審判員もいる判定だろう。ファウルの判定は、【相手競技者に対してのチャレンジが、不用意か】がポイントになる。問題とされたシーンをみると、小林はボールが来る前にお尻を山田にぶつけてしまっている。この一連の動きは不用意かどうか。それが論点になり、そこには試合の判定基準なども含まれる。

また、木村監督は「すぐに笛をピーピー吹いて」と感じていたらしいが、それが基準ならば、PA内であのようなチャージをすべきではなかった。審判の基準を知るのも、世界で戦う上でポイントになるものだ。

もちろん、山本主審がパーフェクトだったわけではないし、決勝点となったFKの判定なども微妙な判定だった。とは言え、選手たちがファウルをアピールして、プレーを止めることが多かったのも事実。それではアドバンテージを採用できないし、そもそも、相手の影響を受けずタフにプレーすればファウルの笛は鳴らない。主は選手たちにある。あきらかな誤審があったわけではないのに、レフェリングが試合を壊したというのは大袈裟ではないだろうか。判定以上に、チームに根本的な問題があったと中村俊輔も中澤も感じている。

批評するのは大いに行うべきであり、「メディア、大衆の役割である」と『ジャーナリズムの原則』にも記されている。それが審判員のレベルを引き上げることになるし、引き上げなければいけない。しかし、議論は健全に、審判員でいうならば、ルールブックが元でなければ意味がない。感情論、またフィードバックをせずに判断できるほど、現代フットボールの審判員の仕事は簡単ではない。

若手審判員は厳しくファウルをとることで試合をコントロールしているし、日本だけがファウルを厳密にとっているというわけではない。その証拠に、オランダエールディビジのPSV×アヤックスの試合もファウルに厳しく、ゆえにファウルの多い試合だった。逆に、前節の名古屋×G大阪の天王山は、フットボールコンタクトに寛容な欧州チャンピオンズリーグのような試合だった。巷で言われていることと逆の現象が起きていたりもする。

今週末に行われるヤマザキナビスコ杯決勝。当然、日本屈指の審判団が割り当てられるだろう。そんな審判団を、ルールブックを元に批評するというのも一興ではないだろうか。

◇著者プロフィール:石井紘人 Hayato Ishii
サッカー批評、週刊サッカーダイジェストをはじめ、サッカー専門誌以外にも寄稿するジャーナリスト。中学サッカー小僧で連載を行い、Football Referee Journalを運営している。著作にDVD『レフェリング』。各情報はツイッター: @FBRJ_JP。