ブンデスリーガ開幕。それに伴い、各局のスポーツニュースは、そこでプレイする日本人選手の活躍を伝える映像を紹介した。ハイライトはハンブルガーと対戦したドルトムントの香川真司。その「バー直撃弾」を、最大の見せ場として伝えた。「キレキレですね」。アナウンサーやコメンテーター、解説者はそう口々に絶賛した。

紹介される映像は、どの局もほぼ一緒。割り当てられた素材を横並びで使っている様子が見え見えで、そこに独自色をうかがうことはまるでできない。スタジオに出演している人たちのコメントも同様。オリジナルな感想を述べる人はいなかった。

どの局もほぼ同じ映像を流し、出演者もほぼ同じ感想を述べる。

この事実、現実に、不自然さを覚えるのは僕だけだろうか。香川は、ビルト紙が選定する今週のベスト11に選ばれたのだが、少なくとも日本のスポーツニュースから流れる映像の中に、それに相応しいプレイを見つけることはできなかった。これでは、いくら褒めても、心の底から褒めているようには聞こえない。熱、本気を感じることができない。

皆がこぞって賛美した「バー直撃弾」も、特段凄いプレイには映らない。

「バー直撃弾」という言葉には、もの凄いシュートを打ち込んだような響きがある。「満塁弾」や「フェンス直撃の2塁打」を彷彿とさせる、つい見出し使いたくなるインパクトに富む言葉ながら、やはりサッカーは野球とは違う。サッカー的には、惜しいプレイに過ぎない。この場合のバー直撃弾は、むしろミスと言いたくなる。

香川はバックラインの背後に飛び出しボールを受けた。そこまでは非常に良かった。問題はその次のプレイ。右後方から来た浮き球を、右のアウトサイドで受けてしまったことにある。つまりそれは、進行方向に対してブレーキを踏むようなトラップになった。香川はそこから横へ、横へ、ディフェンダーをかわすようにシュートへと持ち込んだわけだが、わざわざ人混みの中に向かって行き、シュートの難易度を自ら高める結果となった。左足のインサイドで、ゴール方向にトラップできていれば、次の瞬間、良い角度でシュートを放てていたのだ。

その一連の動作は確かに俊敏だった。「キレキレ」と言えば「キレキレ」だった。香川らしさを発揮したプレイとも言えるが、それは自分自身のトラップミスから生まれた産物に他ならない。もしフィニッシュが得点ならば、ミスは見のがされるべきものになるが、直撃弾になるとそうはいかない。ミスを補えなかったという話になる。

百歩譲っても、このシーンは議論が分かれるべき題材になる。「キレキレ」を強調したい人と「トラップミス」を強調したい人とに良い感じで分かれなければならない。議論の引き金になる恰好のテーマになっているのなら、それはそれで結構だ。だが、それを見ながらどのスポーツニュースも一様に褒め称えた。

褒めたくて仕方がないムード、持ち上げたくて、持ち上げたくて仕方のないムードを感じずにはいられない。1人ぐらい、1局ぐらい、違った意見を吐いても良いんじゃないのと僕は言いたい。

とはいえ現実には、言えないムードを感じることもまた確か。世の中は、ますます出る杭は打たれやすい時代を迎えている気がしてならない。静かにしている方が明らかに得策だ。

それだけに先日、不運な死を遂げた松田直樹選手の貴重さが改めて偲ばれる。惜しい人物を失ってしまったと残念に感じる。

彼は時の代表監督のやり方にノーと言えた数少ない選手だった。僕は前回のブログで、彼は日本代表史上1、2を争うディフェンダーだったと述べたが、しかしながらその代表歴は僅か40。100を超えてもなんら不思議はない大物選手にもかかわらず、ある時から代表を外れ、そして世間的には、知る人ぞ知る選手になった。時の代表監督と彼と、どちらに非があるかなどもちろん知る由もないが、監督はその時、十分な大人であり選手は20代だ。後者はフォローされるべき立場にいる。だが、メディアの中から、彼を支持する声、代表復活を待望する声は現れなかった。

あの時、僕も含めて世の中は、もっともっと騒いでやるべきだったのだ。彼の味方になれというのではなく、それで良いのか、この実力者を代表に加えなくて良いのかという問いかけを、国民にすべきだったのだ。

そうした意味で、とても悔いが残る。いまの時代にあって、最も貴重な人物を亡くしてしまったような気がするのは僕だけではないはずだ。彼の死を惜しむ声が、後を絶たない理由ではないかと思う。

最後にお知らせをひとつ。僕の新刊が昨日、発売になりました。


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