International Friendly Match Kirin Challenge Cup 2010 Japan 1-0 Argentina @ Saitama Stadium 2002
Japan:Okazaki 19

アルゼンチン戦後 ザッケローニ監督会見 (1/2)
キリンチャレンジカップ2010
(スポーツナビ)

わたしにとって(日本代表監督としての)デビュー戦だったが、結果には満足している。それより選手たちが、この合宿で自分が言ってきたことをどれだけピッチで表現してくれるか見ていたが、特にそこに満足している。アルゼンチンはスペインと一緒で最強のチームだと思っている。非常に強敵ということで、試合のアプローチまでは緊張していた。試合前に選手たちに言ったのは、この試合に勝ちたいのであれば、チーム力で上回るしかない。そういうことを伝えた。それからサポーターの皆さんに感謝したい。本当に12番目の選手としてサポートしてくれた。ありがとうございます。

両チームに決定的なチャンスが生まれたが、日本は2点目、3点目を取るチャンスはあったと思っている。試合開始直後は不安な立ち上がりだったが、時間が経つにつれて自信を持つようになり、自信を持って厳しいシチュエーションにも対応してくれた。特にわれわれのチームはサイドチェンジ、サイドを頻繁に変えることが、攻撃面で相手に的を絞らせないことにつながったと思う。

課題としては、アルゼンチンはやはり経験のある選手が多くて、自分たちが疲れたり困難なシチュエーションに置かれたときに、どうすれば楽にサッカーをできるかということを知っている。それに比べて日本は、経験という意味では劣っている。これからチームを作る上で、そういうところも解決していければと思う。

試合終了間際の時間帯で相手にチャンスを作られたが、やはりわれわれが間延びしたので、大きくスペースを与えてしまったからだと思う。われわれが疲れていないときは、見事にコンパクトにまとまっていて不安はなかった。勝利は非常に大事だが、この勝利によって選手たちがそれぞれの実力を信じて、自信を深めてもらえるようになればいいと思う。われわれの目標はアルゼンチンに勝つことではなく、成長していくことである。次の韓国戦に向けて準備していきたい。


日本代表のターニングポイントとなったのはW杯南アフリカ大会カメルーン戦の勝利。主力のGKカメニとソングが抜けていたとはいえ、アウェイのW杯での初勝利は自信になったはずだ。迷走していた岡田さんの指揮がかたまり、ノックアウトラウンド進出、クォーターファイナルまであと一歩というところまで手をかけた。新監督になったチームはたいていはリフレッシュしてよくなるものだが、日本代表はザッケローニから貪欲に戦術を吸収しているように見える。ザッケローニは2年で教えることはなくなるとインタビューで答えていたが、このままの成長を続けていけばザックの知識をあっという間に吸収してしまうかもしれない。ドイツ後のひどさとは違い、立て直しではなく、成長という夢を追いかける分、加速がついている。南アフリカで松井大久保の個人技が通用したのも大きかった。また、ドルトムントで香川が高い評価を受けているのも同じだろう。日本人でもやればできると自信をつけたことでサッカーに対する意識が変わったように思う。

――今日の一番の収穫は何だったか(岩本義弘/フロムワン)

試合前にわたしは「自分たちができること、知っていることをピッチの上で表現してくれ」と(選手に)お願いした。それにプラスして、試合の中でさらにリズムを上げていくこと、また縦に、ゴールに向かう姿勢というのをお願いした。技術面では(指示通りに)ゴールチャンスを作れた。それから精神面では「どんな相手が前にいても、おびえずに行ってほしい」と伝えた。その面では、選手たちはアルゼンチンに対して臆することなくプレーしてくれたと思う。

――1点リードで迎えたハーフタイムでの指示は

まず(日本の)ゴールによってアルゼンチンが前がかりになってきて、ディフェンスでの修正点があったのでそれを伝えたことがひとつ。あとは2点目を取りに行こうということを選手には伝えた。


日本代表から難しいことをやろうという気持ちが消えたことは大きいだろう。無理筋なパスをつなげることはなくなった。アジアでは通用する狭いところを通すパスも世界では通用しない。といって、安全な各駅停車のパスをつなぐわけではなく、きちんとトライアングルを作り、サイドアタックを起点にして攻撃を組み立てていた。また守備でもメッシにはズタズタにされたものの決定的な場面では体を張って守りきった。ディアゴナーレで上手くカバーし、シュートコースを絞ることでGK川島が守りやすかったのも事実。実際、危険な場面は立ちあがりのミスのところだけ集中力が欠けていた。

――実際に試合を指揮してみて、日本の選手の能力的な印象は期待通りだったか(田村修一/フリーランス)

今回の合宿、そして今日の試合を通じて、選手たちへの以前から抱いていた印象が確信に変わった。非常にクオリティーを持った選手が多いが、それに気付いていない選手も多い。自分たちが持っている力に自信を持ってもらい、まだまだ伸びしろがある選手がいるので、2014年のワールドカップを目標としてチームと一緒に成長していってほしいと思う。それから今日の試合は、たくさんある仕事のほんの一部にしかすぎない。われわれが狙っているところは違うし、勝利や結果はついてこないといけないが、長い目でこのチームを見ていく上でこの試合は、結果以上に内容も見ることができて非常に良かったと思う。

――逆にネガティブな面、思惑違いな面はあったか

ノー、ノー、答えはノーだ。それぞれ選手たちが持っている実力を出してくれたので、ネガティブなサプライズはなかった。特に強調したいのは、香川、岡崎、森本、本田(圭)、前線の選手たちが犠牲心を持って、慣れていないポジションを代表のために頑張って守備陣を助けてくれた。プラス、サポーターの力、12番目の選手たちのサポートのおかげで結果がついてきてくれたと思う。

――チームの経験がない分、選手交代でカバーしたと思うが、交代で出た選手の働きについてどう思うか(大住良之/フリーランス)

攻撃で交代で入った選手は非常に良かったと思う。交代については、数人は単純に疲労から、ほかはチームのバランスを考えて投入した。特に中盤でやられているというか、中盤でエネルギーを使っていると気付いたので、バランスを出すために変更を加えた。特にパストーレ、メッシを中盤に入れてきて、相手の中盤でのパスワークが非常に上がったこと、ディ・マリアとラベッシがワイドに開いて、スペースでいいボールを待っていたこと。それをカバーするには、やはり中盤を厚くするしかなかったと思う。


アルゼンチンは前がかりになって攻めてくれたことで、日本はフレンドリーマッチでありながら本気の世界を感じることができた。イグアイン、メッシ、テベス、ラベッシ、ディ・マリアとそろった前線は渋滞を起こし気味だったが、狭い地域を通してくるパスワークはさすがだったし、そこに飛びこむ嗅覚も素晴らしかった。日本代表はアルゼンチンのスピードに反応できたことで自信がついたはずだ。難しいことをしなくても世界を相手に互角に戦えるということを知っただけでも十分な収穫だったのではないか。

個人的にはアルゼンチンに大敗でも仕方がないと思っていた。ザッケローニと中田英寿の対談で中田が言っていたように日本人選手は言われたことはできるが言われないことを自らしようとはしないという言葉が当てはまると考えていたからだ。現実には想像性はあったのだが、監督に求められることが多すぎて頭の中で混乱を起こしていただけとも言える。

ザッケローニは現在のイタリアでは過去の人だが、昨シーズンまでユベントスを率いてカンピオナートを戦ったという経験があり、現場を離れていたわけではない。ユベントスで持論の3-4-3を捨て柔軟に対応し、最後はシンプルに戦うことにしたように、日本代表でもシンプルな指示だけをすることで選手の頭に考える余地を残したとも考えられる。

岡田さんをイタリア第一期とするなら、ザッケローニは第二期。有袋類のように特殊な成長をした日本サッカーが世界に追いつくには過去のヨーロッパのサッカーを復習しながら基礎を学びなおす必要がある。いきなり世界的な監督に学んでも高度過ぎてついていかなかったかもしれないのだ。となると、日本サッカー協会の判断は正しかったとも言える。ザッケローニ招聘の本意がどこにあったのかは公表されない限りわからないのだが。

――終わったあと、ロッカールームで選手たちに何を伝えたか? また今日のシステムと選手は、今後のベースとなるのか、それとも韓国戦では違ったやり方をするのか

ロッカールームに長くいなかったので、触れ合う機会は限られていたが「おめでとう、お疲れさま」と。試合前にわたしがお願いしたことを、できるだけピッチで表現してくれたことについて「ありがとう」という気持ちだ。2つ目の質問だが、いわゆる海外組の選手たちは、やはり非常に能力は高い。ただし忘れてはならないのは、Jリーグから出てきている選手。Jリーグが素晴らしい選手を輩出してくれているという印象を受けた。次の韓国戦は、ある意味で、今日よりも難しくなると思う。明日の午前中に、今日プレーした選手の情報を確認して、それからけがで残念ながら出られなかった本田拓、松井、闘莉王の状況も聞いて、韓国戦についてはこれから練っていきたいと思う。川島、岡崎も筋肉に張りがあるというので、明日の午前中にまとめて状況をチェックしたい。


選手を固めたことで不安が残った南アフリカのことを考えれば公式戦までまだ時間があるこの時期は選手を試していく絶好の機会だろう。アルゼンチンには勝ったが韓国戦も勝たなければならない試合ではない。もちろん勝ったほうがいいのは当たり前だけれども、選手が経験を積むことのほうが大切だ。今日出られなかった選手に機会を与えるのはいいことではないか。ブラジルまでの時間を逆算しているわけではなく、ザックは2年で知っている限りのことを教えるはずだ。彼の持論は3FWという考え方。ゼーマンのシャドーも含めた3FWという考え方は相手からゴールを奪う手段であって目的ではない。選手が理解すれば大きな武器になる。システム変更をするとしても基本は変えず応用ということになるだろう。そうしないと選手が混乱してしまうだろうから。

――チームとして相手を上回るしかない。それから前線のプレスが機能した。このふたつのキーワードについてコメントが欲しい(湯浅健二/フリーランス)

犠牲心はすべてのチームにとってキーワードになると思う。攻撃陣が前の方で頑張れば、中盤とディフェンスを助けることによって、ボールを自分たちの高い位置で奪える。それは攻撃陣にはゴールのチャンスになる。そして、攻撃のパートと守備のパートの助け合いということになる。特にマスチェラーノ、ブルディッソにボールが入ったときに、本田(圭)、香川、岡崎の献身的なプレーがチームを助けたと思う。

――スタメンにW杯のレギュラーが5~6人いたが、この結果を出したことで今後のチームにどのような結果を与えることになるのか

先ほども言ったが、Jリーグが素晴らしい、能力の高い選手を輩出していることを伝えたい。この1カ月、時間の許す限りJリーグを見てきて情報を集めて、いつも試合から戻るときには抱え切れないほどの情報を持って帰ることができた。それを今後も代表に生かしていきたい。最後にJリーグの監督さんたちは、本当に素晴らしい仕事をしてくれていると申し上げたい。


カミカゼと揶揄された日本のFWのチェイシングとアルゼンチンのチェイシングでは違いがあった。それはFWの動きにあわせて中盤が動いていたこと。コレクティブな戦術をとることでチェイシングから全体のプレスが効き、パスワークを大きな武器とするアルゼンチンから何度もパスカットをしてショートカウンターを仕掛けることができた。もちろんアルゼンチンが不調だった、体調不良だったということは考えの外においてであるが。わずか4日間で吸収したとすれば、日本人選手の伸びしろはスポンジのように恐ろしいほど知識と経験を溜め込んでいることになる。見ていて楽しいサッカーというのは全体が連動したサッカーで、アルゼンチン戦ではきちんと機能していた。