国際電気通信基礎技術研究所(ATR)は11日、脳から知覚映像を読み出し、ヒトの脳活動パターンから見ている画像の再構成に成功したと発表した。同技術のイメージはニューロン誌12月11日号の表紙デザインに採用された。「夢の再生装置」や「BMI」技術への可能性も?

眼から入った画像情報は大脳視覚野の脳活動を引き起こす。逆に、このとき生じる脳活動パターンを解読することで、見ているものを推定できると考えられる。われわれが見ている世界を脳からの信号を解読して映像化することができれば、夢や空想を、テレビや映画のようにスクリーンの上で再生できるかもしれない。
同研究所の神経情報学研究室の神谷室長らはこれまで、機能的磁気共鳴画像(fMRI)で計測されるヒトの脳活動を、パターン認識アルゴリズムを用いた解析により、脳情報復号化技術の開発を行ってきた。しかし、従来の手法では、見ているものを「画像」として取り出すことはできなかった。
今回開発されたのは、ATR研究員らが脳活動パターンから、見ている図形を画像として再構成する方法だ。この方法では、まず視野を複数の解像度で小領域に分割、それぞれの領域のコントラスト値をfMRIで計測される脳活動パターンから予測する。そして、その予測値を組み合わせることで画像全体の再構成を行う。
この手法を用いて、脳活動パターンの学習に用いていない幾何学図形やアルファベットの形の再構成に成功したほか、1億通り以上の候補の中から正しい画像を同定できることが分かった。また、2秒ごとに得られる個々の fMRIスキャンを解析することで、見ている映像を動画として再構成することにも成功した。
同研究成果は、複雑な知覚内容を脳からそのままの形で取り出せることを世界で初めて示したものであり、ブレイン−マシン・インタフェース(BMI)など脳を直接介した情報通信技術の新たな可能性を切り拓くものである。同研究では、実際に見ている画像の再構成を行ったが、同じ手法を用いて、心的イメージや夢のような物理的には存在しない主観的体験を、画像として客観的に取り出せる可能性がある。
したがって、同研究で開発した手法は、心を生み出す脳内メカニズムを探るツールとなると同時に、医療における心理状態のモニタリングや、脳を介した情報伝達システムの開発など、さまざまな分野での応用が期待される。
(編集部:T.0tsu)