インパルス・板倉さん。

テレビでは、とぼけたコントの役柄が印象的ですが、じつは作家としても評価が高く、これまでに4作の小説を執筆。

3月5日に単行本1巻が発売になったマンガ『マグナレイブン』(ヒーローズ)では、原作執筆を担当しているのです。

お笑い芸人として精力的に活動するのと同時に、クオリティの高い作品を執筆しつづけられるのはなぜなのか?

「メディアが嫌うから、こういう話は本当はあまり出したくない」という、板倉さんの“創作の源”に迫りました。

〈聞き手:天野俊吉(新R25編集部)〉


板倉俊之(いたくら・としゆき)】1978年生まれ。1998年、堤下敦とコンビ「インパルス」を結成。バラエティ番組『はねるのトびら』(フジテレビ系列)などに出演し、人気を博す。お笑い芸人としての活動のほかに、小説家、マンガ原作家としても活動。おもな著書に『トリガー』『蟻地獄』(リトルモア)、『機動戦士ガンダム ブレイジングシャドウ』(KADOKAWA)など

ドラマチックな人生じゃないから、芸人自伝本は書けない。

天野:
そもそも、板倉さんが文筆業をはじめたきっかけは何なんですか?

板倉さん:
10年ちょっと前に「芸人本」が流行ったじゃないですか。『ホームレス中学生』(田村裕)とか『ドロップ』(品川ヒロシ)とか、自伝的な本が。

それで僕にもオファーがきたけど、僕には決定的に欠けてることがあったんです。

天野:
なんでしょう?

板倉さん:
「ドラマチックな人生」です。

僕には、書いただけでエンターテインメントになるようなドラマチックなエピソードなんて何もなかった。書いただけでエンターテインメントになる芸人の人たちって、本当すごいと思いますよ。

それで、「フィクションでよければ興味あります」ってお返ししたのが始まりですね。

天野:
ほかの芸人本とは違って、100%フィクションで書いていると。

コントの台本を書くのと、小説やマンガ原作を執筆するって、どれぐらい違うものなんでしょうか?

板倉さん:
全然違いますね。共通点は「パソコンを使う」ってことぐらい

コントの場合、5分尺ぐらいの短いものであれば、早ければ3時間とかでできる。

小説は情景描写が必要だし、視点人物決めて…とか、圧倒的に時間がかかります。今回のマンガ原作も、ストーリーの種を思いついてから数年はかかってますから

天野:
お笑いとの共通点はあまりないんですね…

板倉さんの小説の才能を称賛する声は多いですが、ではなぜそんなクオリティの高いものが執筆できるんでしょうか?

板倉さん:
ドラマチックな人生じゃないかわりに、僕のなかにずーっとあったのが、「世の中に対するモヤモヤ」。

「世の中おかしいな」って感じること、みんなどこかにあると思うんですけど、普段からモヤモヤ考えていることがずーっとあって、尽きないんです。

それをうまく表現できないと、イライラするんですよ

天野:
どういうときにモヤモヤを感じるんですか?

板倉さん:
いつでも感じてますよ。

ニュースを見て、誰かが批判されてるのを見ても、1回1回引っかかっちゃいますね。

天野:
批判というと、堤下さんの交通事故の報道とか…


「あーその話来ましたか」顔。蒸し返してすみません…

板倉さん:
いや普通の事故だったらわかりますけどね(笑)。誰にでもあることじゃんって思うけど…

車運転する前に睡眠薬飲んじゃったら「それはまあ叩かれるんじゃないの」って思いますよ(笑)。

天野:
すごい客観視してますね…

板倉かわいそう」という空気がずっとありますが…活動が制限されて、ショックとかはなかったんですか?

板倉さん:
いや別に。レギュラー番組がたくさんあって、それが打ち切られたとかならショックですけど、そういうわけじゃないですからね。

営業が決まってた学園祭の出演がキャンセルになっちゃったんで、関係者の人たちには申し訳ないなと思いましたけど。人気の絶頂でもない芸人を呼んでくれてたのに

天野:
めっちゃ冷めてる…

なぜ世間は一概に「いい」「悪い」と決め付けられるんだろう?

天野:
ほかにはどんなニュースを見て、理不尽さやモヤモヤを感じるんでしょうか?

板倉さん:
いや、それを言っても得がないんですよね。僕のモヤモヤはメディアが嫌う方向の話になっちゃうので


そこをなんとか…

板倉さん:
じゃあ言いますけど、今回『マグナレイブン』のテーマになったモヤモヤは、「“暴力反対”って正しいのか?」ということ。

暴力はよくないとか言うけど、暴力で解決できる問題ってけっこう多いはずなんですよ。

たとえばですけど、児童虐待なんか、虐待されてる子どものほうが大人より強い「暴力」を振るえるなら、最近報道されてるような悲惨な事件は起きないはずですよね?


なるほど、攻めてるテーマだ

板倉さん:
ちょっと前に話題になってた「パワハラ問題」とかも、どっちがまともかっていう話だと思うんですよね。

まともな人間が、自分の裁量で「こいつは殴らなきゃいけない」って判断することと、自分の権力を見せ付けたり守ったりするために殴ることは、全然ちがうと思いませんか?

天野:
え!? いや、どうですかね…

板倉さん:
上に立つ人に「ハラスメント」の責任を押し付けることしかしなかったら、上司とか先生になりたい人いなくなっちゃうんじゃないかなと思うんですよね。

逆に教師のほうがズレてるヤツだったら、生徒が大変になる。「どっちがまともかによる」としか言いようがないじゃないですか。

なのに、「こういうときは教師が批判されます」と決まってるのがよくわからない

天野:
それはたしかに…

板倉さん:
本当はケースバイケースのことを、なんで世間は一概に「いい」「悪い」って言うんだろう?って、昔から思ってるんですよね。

小学校の帰りの会で叱られたときの「俺なりの事情はあるのに断罪していいのか」っていう憤りのまま、執筆をしてるんだと思います



「僕は、イライラしたまま死んでいくんです」

板倉さん:
「死ぬのが決まってるのに生きる」ということも理不尽だと思いませんか?

天野:
はい…!?


ここから、板倉さんの死生観が展開されます

板倉さん:
一時期、「よくみんな笑って生きてられんな」と思ってましたよ。全員死ぬんだぞって。今いくら頑張ってもムダになるわけですよね。

天野:
スゴイ話になってきた

板倉さん:
「人生ムダじゃない」ってことを逆算的に結論づけてくれるから、宗教とかがあるんだって思うんですよ。自分で答えを見つけたいから、僕はやりませんけど…

今は、頑張ることの意味を自分で設定して、「自分で哲学をつくって生きたらいいんじゃないか」と思ってます。

天野:
その板倉さんなりの「意味」が、モヤモヤを文章にすることだと。

「お笑い」もそういう意識でやってるんでしょうか? 疑問に感じることを笑いに昇華するような…

板倉さん:
それは全然違いますね。

笑いにメッセージを込めても、邪魔なだけじゃないですか。


違うんか…すみません…

板倉さん:
最近考えるのが、「僕はイライラしたまま死んでいくんだろうな」ってこと。

自分のなかでモヤモヤしてる言いたいことを、全部言えないまま死ぬってことがわかってますから。

ただぶちまければいいわけじゃなくて、人様に見せられるエンターテインメントにならないと出せない。人生の制限時間内に、その作業が追いつくかどうかですよね。



うれしいのは「インパルス板倉」だと知らずに読んだ人の反応

天野:
イライラ、モヤモヤっていう話ばっかり出てきますけど、執筆しててうれしいこととかもあるんでしょうか?

板倉さん:
読者の反応で一番うれしいのが、僕が書いたって知らずに読んだ人が「これ書いたの板倉だったんかい!!!」って驚くことなんですよね。

「芸人が書いた話」っていう目で見られるのは、あんまりうれしくない。

天野:
なぜですか?

板倉さん:
作者の顔がチラつくと、作品にとって不幸だなと思ってるんで。

世間の人が「インパルス板倉」って言われて想像するのって、コントで変なこと言ってる僕だと思うから、そうなると作品に集中してもらえないですよね。



板倉さん:
僕、自分の作品のamazonレビューを見ることもあるんですけど、一番ヘコむのは「☆2」なんですよ。

天野:
「☆1」ではなく?

板倉さん:
今日話してるように、自分が世間とズレてるところとかはわかってるつもりなんで、「1」はあんまり傷つかないんですよ。「ああ、また理解されない人か」としか思わない。

「2」だと、ある程度自分と周波数が合う人だったのに、「ちゃんと読んだうえでダメだったか〜!!」って思うんで、めっちゃヘコみますね。



天野:
今日は、ふだんは話さないという「創作の源」を明かしてくれてありがとうございます。

多才なのは、いろんなマンガや小説を読んでてインプットが多いからなのかと思ってましたが…

板倉さん:
インプットはめちゃくちゃ少ないですよ。話題の作品とかも全然触れてないタイプですね。

いまだに『カメラを止めるな!』も観てないんですよ

天野:
そうなんですか!?

板倉さん:
小説も、ちゃんと読むようになったのは30歳すぎてから

自分の最初の小説を出してから、道尾秀介さんの『ラットマン』というミステリーを読んだんです。それで「ウワアッ!」って何度も振り回される体験をして。

「読者を手玉に取る快感」ってこういうことかとハッとしたんです。

だから自分の小説も、なるべく読者を引っ掛けて、驚いてもらえるようにやってます。普通に書くより、5倍ぐらい時間かかりますけどね



取材してわかりました。この人はホンモノの天才肌だと。

インタビュー中にもあった通り、板倉さん原作の『マグナレイブン』は「暴力」と「理不尽」をテーマにした意欲作。ぜひチェックしてみてください!

〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=中山駿(@nk_shun)〉

板倉さんのマンガ原作作品『マグナレイブン』

「理不尽を生み出すヤツらを退治するんです!」

街にはびこる悪人によって、引き起こされた問題を
暴力によって解決する、禁断のバイオレンス・ノワールアクション!

マグナレイブン - 漫画:武村勇治/原作:板倉俊之 / 第1話 無駄な情報交換だな | ヒーローズ | 月刊ヒーローズと
https://viewer.heros-web.com/episode/10834108156632483696
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