JR九州が検討を始めたとされる、九州新幹線を活用した物流事業。国鉄時代から「貨物新幹線」「郵便新幹線」といった構想が浮かんでは消えていきました。それぞれどのような経緯だったのでしょうか。

最初からあった新幹線の貨物輸送計画

 現在は旅客列車しか運転されていない新幹線で、貨物輸送が始まるのでしょうか。2019年1月1日、JR九州が「新幹線を活用した物流事業への参入検討を始めた」(2019年1月1日付け西日本新聞朝刊)と報じられました。


貨物輸送の構想が浮上した九州新幹線(2011年5月、恵 知仁撮影)。

 近年、過疎地を通るローカル線を中心に「貨客混載輸送」の導入が相次いでいます。これは旅客列車に宅配便の荷物などを載せて、旅客と一緒に運ぶというもの。鉄道会社にとっては経営が厳しいローカル線の新たな収入源になり、運送会社にとってはトラック運転手の負担軽減になります。

 西日本新聞の記事によると、JR九州が検討を始めたとされる物流事業は「6、8両編成で運行している既存ダイヤと車両をそのまま使用」「車両のうち1両を貨物専用にして荷物を運ぶ」「配送区間は博多〜鹿児島中央間を想定」としています。

 しかし、新幹線を使って貨物を運ぶことが考えられたのは、これが初めてではありません。というより、新幹線はもともと旅客輸送と貨物輸送の両方を行うことになっていました。

 国鉄は東海道新幹線の建設を決めた1950年代の当初から、新幹線で旅客列車と貨物列車の両方を運転することにしていました。1958(昭和33)年に国鉄がまとめた計画によると、東京、静岡、名古屋、大阪の4か所に貨物駅を設置。旅客列車が走らない深夜帯に、コンテナを搭載した貨物列車を運転することが考えられていたのです。

0系改造の「郵便列車」も計画された

 1964(昭和39)年に東海道新幹線が開業。この時点では旅客列車しか走っていませんでしたが、貨物ターミナルの予定地に延びる線路が営業用の線路をまたげるよう、高架橋をあらかじめ2層式で建設しておくなど、貨物列車の運転に備えられていました。


「新幹線貨物輸送」に対応した2層式高架橋の遺構(2016年7月、恵 知仁撮影)。

 しかし、利用者数が予想を大きく上回り、旅客列車の本数も大幅に増加。列車が増えれば増えるほど、線路も傷みやすくなってしまいます。そのため、本来は貨物列車が走るはずだった深夜帯はメンテナンスを行うことに。ほかにも資金不足などの問題があったとされ、貨物列車の計画は事実上中止に追い込まれたのです。

 こうして幻に終わったはずの新幹線貨物輸送でしたが、1980年代には旅客列車を使った小規模な貨物輸送が考えられるようになりました。

 まず1981(昭和56)年、比較的軽くて小さな荷物を旅客列車に載せて運ぶ「レールゴーサービス」が東海道新幹線で始まりました。重要書類などを迅速に運べるというメリットがあり、記者(草町義和:鉄道ライター)も1990年代には大阪在住のカメラマンと写真(ポジフィルム)をやり取りするため、「レールゴーサービス」を何度か使ったことがあります。

 また1982(昭和57)年には、郵政省(現在の総務省と日本郵政グループ)が国鉄に対し、新幹線を使った郵便列車の運行を提案しました。これは当時の東海道・山陽新幹線で運行されていた0系電車を改造し、郵便物を運ぶための専用かご(パレット)を車内に搭載して郵便物を運ぶというもの。当面は東京〜新大阪間で4両編成の郵便列車を1日2往復運転し、将来的には東京〜博多間でも運行するという想定でした。ただ、パレットの積み卸し設備をどう整備するかなどの問題があり、実現しませんでした。

国鉄も小型コンテナ輸送を計画したが…

 一方、「レールゴーサービス」は東北・上越新幹線にも拡大。国鉄は1985(昭和60)年、「レールゴーサービス」を発展させるものといえる「新幹線物品輸送」を計画しました。この計画でも郵政省の提案と同様、既存の車両を改造して車内に小型コンテナを搭載できる車両の導入が考えられます。


「初代新幹線」こと0系を改造し、貨物輸送を行うことも考えられた(2010年6月、草町義和撮影)。

 しかし、当時の国鉄は分割民営化に向けて動き出しており、「国鉄改革関連法案との関連など諸般の事情から実現せず、幻の計画で終わった」(福原俊一「国鉄末期に構想された新幹線荷物・郵便輸送」〈JTBパブリッシング『幻の国鉄車両』〉)といいます。

 その後も、貨物専用の新幹線を建設する大掛かりなプランから、旅客用の車両を貨物輸送に使う小規模なものまで、様々な構想が提案されていますが、いずれも小規模な実証実験を除き、新幹線での貨物輸送は実現していません。「レールゴーサービス」もインターネットの普及などで利用者が減り、2006(平成18)年には東海道・山陽新幹線でのサービスが終了。いまでは東北・上越新幹線でしか行われていません。

 九州新幹線での構想が西日本新聞の報道通りに実現した場合、1両まるまる貨物専用となるため、客と貨物が同じ車両に乗るローカル線の貨客混載輸送より規模が大きなものになります。これが新幹線での本格的な貨物輸送のきっかけになるかどうか、今後の動きが注目されます。

【写真】すでに始まっている「貨客混載」の様子


新潟県の北越急行ほくほく線で行われている貨客混載輸送。宅配荷物を入れた専用パレットを旅客列車の車いすスペースに固定して運んでいる(2017年4月、草町義和撮影)。