正月ライブツアー「ひとりぼっちのバラード」 毎年恒例の正月コンサートでバラードを歌い上げる沢田研二=2014年1月19日(写真:日刊スポーツ)

2018年に古希を迎えた沢田研二(以下ジュリー)が、同年7月の日本武道館を皮切りにして、半年以上にわたるツアー「OLD GUYS ROCK」を全国各地で開催している。今月はそのクライマックスとして、1月19日から3日間、再び日本武道館に立つ予定だ。

今回のツアーはいろいろな意味で注目されている。まず70歳記念で組まれた大規模な日程。いつものホール公演に加え大会場でのものも含み、その数は60本を超えている。

もう1つは、ジュリー初となる、バンド編成ではなく、ギタリストと2人だけで行う「ロック」コンサート・ツアーである点。その相棒は1980年からの付き合いとなる柴山和彦氏である。前回までの、柴山を含む通称「鉄人バンド」として愛されてきたバンドを解散し、彼だけを残した形だ。これはジュリーが数年前から構想していたものだという。セットらしいセットもなし、マイクとギターと照明だけで進行していくパフォーマンスは、これまでに体験したことのない「新しいもの」だ。

売れ行き不振=落ち目ではない

そして、「注目されてしまった」こともあった。昨年10月17日に予定されていたさいたまスーパーアリーナ公演がチケットの売れ行き不振を理由としてキャンセルされた件が、メディアで大きく取りざたされたのは記憶に新しい。

だが、「売れ行き不振」という言葉から、ジュリーを「落ち目の歌手」と連想するのは早計だ。今回のツアーでは60回以上の公演を行う。しかもそのほとんどの会場が、全国の1000〜2000席規模のコンサートホールである。会場には最初と最後の日本武道館、ほかに大阪城ホール、横浜アリーナ、そしてさいたまスーパーアリーナといった大会場での公演も含まれている。ざっと考えただけでも席数は十数万というところだ。

この10年ほどの、少し年齢の近いベテランのロック、ポップス系ミュージシャンの毎年のコンサート本数を見てみると、ジュリーと同じく大規模ホールにこだわってツアーをしているさだまさしは70〜80本、山下達郎が50〜60本。中島みゆきは同じ会場での連続公演「夜会」なども含むと年平均で20本ぐらいだろうか。アリーナクラスも含むミュージシャンでは浜田省吾が20〜30本、小田和正は多い年で50本弱をこなしている。これを鑑みれば、ジュリーがこうしたトップアーティストクラスであることは一目瞭然だ。

ドタキャンとなったさいたまスーパーアリーナの公演は水曜日に行われた。その11日前には横浜アリーナで公演があったが、こちらは土曜日だったこともあって空席が目立つほどではなかったようだ。売り上げが伸びなかったのは日程的に無理があったからかもしれない。ジュリー自身も「今回はお祝いだからと強気に出たのが裏目に出た」という旨の発言をしていた。

ジュリーは前年にもツアーを行っているが、こちらはデビュー50周年だったこともあって、おなじみの曲を駆け足で50曲歌うという派手な内容だった。結果的にバンドによる最後のものとなったことから「鉄人バンドロス」に陥り、今回は行かないというファンも少なからずいたのではないか。

コンサートで披露するのは「新しい曲」

実は、ジュリーはこの規模のツアーを毎年、実に45年以上行っている。「毎年行っている=行えている」ということは、つまり次もツアーを組めるだけの集客ができているということである。会場側も次のジュリーの公演を待っている。デビューから50年以上、観客の前に立たなかった年はない。

還暦の年、2008年に東京と大阪で行ったドーム公演が成功して話題となり、人気(コンサート動員数が)が持ち返してからは、チケットが取りにくくなるほどとなった。その頃から、久々に、あるいは初めてジュリーのコンサートに足を運ぶ人が増え、セットリスト中の過去のヒット曲の割合が低いことを否定的に受け取る観客が増えたという印象は否めない。

ジュリーは以前から、ツアーは新曲のお披露目である、あるいは逆に、ツアーをする理由として新作を作っている、と語っている。毎年ツアーに出るために、毎年新作を出し続けている(ここ数年は4、5曲入りのミニアルバム)。しかもその全曲をライブで披露するのである。彼はこれを30年以上続けている。

こうした新作は、ファンクラブを通じて、あるいは、コンサート会場での販売が主となるので、チャートの上位には登場しないが、新曲にも振り付けがあったりするので、熱狂的なファンはしっかり発売時に購入していることになる。これに会場での売り上げが加わるので、その総動員数を考えればかなりの売り上げ枚数となっているだろう。

CDやレコードの売り上げが低迷する昨今、ライブやコンサートでの収入はとても重要なものになっている。一般社団法人コンサートプロモーターズ協会によると、2017年に行われたライブ数は3万1674件と10年前から約2.2倍に増えている。ライブによる売り上げも2017年は約33億2000万円とこちらも10年前の3.2倍の規模に膨らんでいる。

こうした中、多くのミュージシャンはグッズも多数販売するようになっているが、ジュリーのグッズはTシャツやトレーナーくらいしかない。パンフレットも時折作られる程度。彼はあくまでも歌手・パフォーマーであり、彼の「売り」はあくまでも歌と演技なのだ。

すなわち、ジュリーはそうした「歌で勝負している自分にちゃんと金を払ってくれるファン」を獲得しているのである。以前のように、ファン数の拡大増加をもくろんだテレビ出演は行わなくなって久しいにもかかわらずだ。

古希になっても新たな挑戦を続けている

また、今回のツアーを「ギター伴奏だけでのドサ回り」と揶揄する声も聞こえるが、ジュリーはこの編成で何万人もの観客と対峙する覚悟なのである。たった2人で「どれだけロックできるか」という勇気ある試みであり、新たな挑戦だ。音楽的にも興行的にもこの編成への答えはこれから出していくことになるだろうが、古希になってなお、未知の分野に切り込めるアーティストはそういないだろう。

くだんの「ドタキャン」について、所属事務所は「契約上の問題」があったとして、詳しいことを明らかにしていない。直後にジュリーも囲み取材に応じ、「事前に聞いていたよりもチケットが売れていなかったことがわかった」と説明した。

こうした中、ジュリーを「プロではない」と批判する声があったが、プロの仕事をしていないのはチケット販売に携わっていた面々ではないだろうか。売れ行きが芳しくなかったら、割引券や招待券を用意して、少なくとも舞台に立つ者が不快にならない程度に客席を埋めるやり方もあっただろう。こうしたことは、ほかのアーティストのコンサートでも当たり前に行われているといっていい。

3日間の武道館公演について、「また売れていない」だの「またドタキャンか」だのと騒ぎ立てる声がある。運営側は前回の反省を生かして、ジュリーが気持ちよく歌えるように準備をしていてほしいものだ。