お年玉を渡す前に親子で使い道について話し合ってみてはいかがでしょうか?(写真:masa/PIXTA)

クリスマスが終わり、子どもたちの次の楽しみは年始にもらえるお年玉だろう。家庭の中でお金の話をする機会は多くないと思うが、お年玉は現金を手渡しすることもあり、子どもとお金の話をするちょうどいいチャンスだろう。

近年はキャッシュレス化の流れか、電子マネーでお年玉をあげるというような話も聞くが、せっかくの機会なので、現金で手渡すと同時に、これを機にお金をどう使うか、貯めるかなど、家庭で子どもに金融教育を行うことをお勧めしたい。

日本のお年玉事情は?

まずは日本のお年玉事情について見てみよう。学研教育総合研究所が発表している「小学生白書web版(2017年8月調査)」によると、回答した子どもたちのうち93.2%がお年玉をもらっているとしている。もらったお年玉の総額の平均は1万9386円となっている。2015年度の平均が1万7578円、2016年度の平均が1万9056円であったことから、この数年は増加傾向にあるようだ。

この調査は小学校1年生から小学校6年生、それぞれの学年で男女100人ずつ、計1200人にアンケートを取っているが、とくに、低学年におけるお年玉の増加傾向がみられる。また、学年が上がるにつれてお年玉の額も上がる傾向がある。

その使い道についてみてみると、「貯金」が83.3%と圧倒的に多く、その後に「おもちゃ(の購入)」が25.9%、「ゲーム機・ゲームソフト(の購入)」が19.4%となっている。日本人は金融資産を株式投資などの資産運用には回さず、現金や預金にしておくことが多いといわれているが、子どもの頃からすでに貯金する癖がついているというのは非常に興味深い結果である。

幼い頃から貯金の癖がついていること自体はすばらしいのだが、ほかの統計データを見てみると、自ら積極的に貯金を行っていないという点ではまだ改善の余地がありそうだ。金融広報中央委員会が発表している「子どものくらしとお金に関する調査(2015年度)」によれば、小学校中学年だと63.1%、小学校高学年だと70.4%の子どもたちが貯金はあると回答している。

だが、そのうちのそれぞれ23.5%、28.9%が「貯金はあるが、家の人が管理しているのでよくわからない」と回答している。つまり、貯金はしているものの、自分の意志で貯金をしているというよりは、親から言われてなんとなく使わずに預けている状況なのだろう。


さて、お年玉事情について学んだが、次はいざ手渡すときのことを考えてみよう。おそらく、ほとんどの方が「無駄遣いしちゃダメだよ」と言って手渡すのではないだろうか。

筆者にも子どもが3人いるため、そのように言ってしまう気持ちは痛いほどわかるのだが、金融教育という観点からはお勧めできない。これまでにそのようにしてきた親が多かったので、前述の調査で「貯金をする」と回答した子どもが8割もいたのだろう。

筆者は金融教育のベースには経済学や会計の概念があるべきと考えている。たとえば、経済学の前提に基づけば、人間は限られた条件下において効用を最大化するように動くとされている。

子どもがお金を手にしたとき、主に「使う」か「貯める」かの2つの選択肢が生じると思うが、今欲しいものがあり、それを買うことが最も効用が最大化される、つまり満足度が最も高くなるのであれば、お金をすぐに使うことは悪いことではないし、むしろ最も正しい選択をしたことになる。

使うべきか貯めるべきか考えさせる

頭ごなしに「貯金しなさい」と言うのではなく、使うべきなのか、貯めておくべきなのかを考えさせるというのが家庭でできる金融教育の第一歩なのではないだろうか。

ちなみに、わが家では子どもたち(就学前)に毎月2回、少額ながら定期的にお小遣いをあげ、いつも買い物に行くスーパーや百貨店の広告を一緒に読むようにしている。まだ小さいので複雑な計算はできないが、今いくら貯金があるのか、自分が欲しいものはそれぞれいくらなのか、この程度は理解ができる。

現在の貯金とこれから定期的に入ってくる金額を考えれば、どれぐらい貯めればいいのかなども感覚的に理解できるので、それなりに選択肢を作りながら、実際の行動の取捨選択をできているようだ。

アメリカで使われている子ども向けの金融教育の教科書では「opportunity cost(機会費用)」という言葉を用いているが、何かを選択し手に入れるときは同時に何かを諦めているという感覚を持たせることも金融教育である。

子ども向けの金融教育というと、残念なことに、「子どもにお金のことを教えないでほしい」「金融教育は危険なのでわが子には必要がない」などと言われることがある。その背景には、金融教育というと資産運用、つまり投資を連想するからなのだろう。確かに投資で損をしたという人が周りにいればいるほど、そのような考えになるのも理解できる。

しかし、投資は金融教育という幅広い分野においては全体のごく一部でしかない。金融教育ではお金を使うこと、貯めること、増やすことなど、お金に対するさまざまな概念や方法論を教えていく。投資はあくまで増やすという点でしかない。

また、それ以外にも、そもそもどのようにお金が誕生したのかなどの歴史や、お金が労働の対価であるという概念、一般的な世帯の収入など身の回りの数字の相場観を養うことも金融教育の一環だと考えている。

これらのことを学ぶと、子どもたちはお金について武器と防具を手に入れることになると筆者は考えている。武器とは攻めの手段。つまり、資産を増やしていく知識を指すので、それこそ資産運用などの知識である。一方で防具とは資産を守るすべである。資産を守るということはどういうことか。

警察庁が発表した「平成30年上半期における特殊詐欺認知・検挙状況等について」によれば、2017年1年間では特殊詐欺の認知件数は1万8212件に上り、被害総額は394億7000万円にもなっている。この数字はあくまで警察が認知している数字の合計なので、泣き寝入りしている分を合計すれば、被害総額は400億円を超えていてもおかしくない。

実際にあった特殊詐欺の例を見てみると、スマートフォンの利用時に虚偽の内容に誘導されて現金を振り込まされるようなケースも多い。最近は小学生の頃からインターネットやスマートフォンを利用する機会があり、適切な金融教育を受けていないと被害に遭う可能性も高くなるだろう。このような詐欺から身を守るための金融教育を防具と言っている。

足りないのは使い方の教育

これまで見てきたように、日本人はもともと貯金をすることは習慣づいている。そして、近年では金融教育=投資と思いこまれるように、投資についての情報も世の中にはあふれかえっている。

ここから言えることは、子どもにお金の話をするうえでいちばん足りていないのはお金の使い方の部分である。学校教育で金融教育を期待できない以上、家庭での金融教育こそが求められるわけだが、実はお金の使い方については増やし方や貯め方と比べると方法論が教えにくい。しかし、筆者は実に単純な方法で良いのではないかと考えている。

わが家ではとくに子どもたちに趣味を隠すこともなく、目の前で趣味の時間を費やしている。筆者の場合は釣りが趣味なので、実際に釣りに子どもたちを連れていくこともあるし、家で釣り具の手入れをすることもある。

子どもたちは親の楽しそうな姿を見て、うらやましそうな顔をしている。当然ながら大人と子どもでは経済力に差があるため、子どもたちから見れば親が持っている趣味に関する物の量にうらやましさを最も感じるようだ。

自分たちの貯金ではそんなに多くの物を買えないと文句も言ってくるが、仕事でお金をもらい、家族に必要な分を支払い、残ったお金の一部を趣味に費やすと説明すると、自分たちも大人になったら一生懸命仕事をして、好きな物を買うと意気込んでいる。

大事なことは、お金を使うことや、お金の話をすることが卑しいこと、悪いことという印象は持たせないようにすることだ。最も簡単な方法は、日常から家でお金のテーマが出てきたら躊躇することなく話をすることであり、お年玉を渡すタイミングはベストだろう。お年玉を渡すときに金融教育の第一歩を踏み出すことができれば、その1年が家庭での金融教育元年になっていくことだろう。