経済物理学モデルによる株価下落の予測の精度は?(撮影:尾形文繁)

株価などの金融資産の価格が割高か割安かといったバリュエーションに関する指標は多数あるが、「いつ調整されるか」を言い当てることは難しい。

経済物理学モデルで過去2回とも当てた!


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筆者はその1つのツールとして、経済物理学を用いたバブル崩壊の予測モデルを何度か紹介してきた 。2017年11月17日の筆者コラム『経済物理学で日経平均株価の暴落時期を探る』では、「足元(2017年11月当時)から18年2月末までに日経平均株価は大幅または小幅な調整をする可能性が高い」とし、これが的中した。

同様に、2018年2月16日のコラム『「2月暴落」が的中!経済物理学で「次」を予想』では、「(2月の株安から)株価が再上昇し、バブル形成のサイクルに回帰した場合は6月ごろに再びバブル崩壊の可能性が高まる」とし、5、6月の株価の調整も的中させた。

その後、比較的短いスパンで上昇して下落した9〜10月の局面では分析を行わなかったことが悔やまれるが、1年で2度の下落局面を的中させることができたという実績はモデルの有用性を考えるうえで十分に検討に値する事実だろう。


経済物理学では、バブルを「揺れを伴いながら、崩壊する点(臨界点)へと近づいていく系列」としてとらえる。そして、その「臨界点」へ向かっていく過程を「べき乗則」によって指数関数的に変化する「トレンド成分」と、周期運動する「サイクル成分」の重ね合わせであると考える。


上図のように、水準が「べき乗則」的(≒指数関数的)に上昇する過程で、周期的な変動が小さくなって「臨界点」に達したときにバブルが崩壊する、という考え方である(臨界モデル)。この関数と実際の価格変動の「当てはまりのよさ」を比較する(例えば決定係数などの尺度を用いる)ことで、バブルの崩壊のタイミングを予想することができる。

「臨界モデル」を利用した「みずほクラッシュ指数」

ここでは、この「臨界モデル」を用いて株式相場の臨界点到達(=バブル崩壊)の蓋然性の高さを議論したい。

具体的にはTOPIXの過去100営業日のデータを用いて各パラメーターの推計(最小二乗法によるフィッティング)を逐次的に行う。臨界点到達時点の想定は推計期間の10営業日後とした。つまり、過去100営業日のデータから予想される「10営業日後の臨界点到達」の蓋然性を求める推計である。蓋然性のベンチマークは、モデル式に対する当てはまりのよさを示す決定係数とし、この決定係数を「みずほクラッシュ指数」と呼ぶ。指数が大きいほど、10営業日後のバブル崩壊の可能性が高いと想定される。

2017年以降のデータについて推計すると、株価が急落した2018年2月の前の2017年10月〜2018年1月は、「みずほクラッシュ指数」が高水準にあったことがわかる。つまり、「10営業日後に臨界点到達」(当時は株価が上昇していたので、バブルの崩壊)の蓋然性が高いというシグナルを、指数は出していた。

また、指数の上昇は限定的ではあったものの2018年5〜6月の下落局面の前や、2018年10月の下落局面の前も、一定のシグナルを出していたことがわかる。これらの局面における株価の動きがバブル的であったかどうかは別として、「みずほクラッシュ指数」は株価が下落に転じる局面を予想する指標になりそうだ。


なお、直近でも指数が0.4を超えて上昇しており、臨界点が意識される。ただし、現在は株価上昇期ではなく、むしろ株価が下落しているため、モデルがとらえているのはバブルではなく「逆バブル」である。「臨界モデル」は式全体にかかる符号をマイナスにすれば、市場の下落局面が臨界点(セリング・クライマックス)に達するタイミングを予測するモデルにもなる。

以下では、「みずほクラッシュ指数」が発している「逆バブル」のシグナルを基に、最近の株価の下落が臨界点に達するタイミングを探る。

今回は株価下落局面の起点を2018年1月とし、足元(2018年12月5日)までのデータを使って、株安が臨界点に達するタイミングを予測した。

具体的には、過去の分析と同様にモデル上の逆バブル崩壊のタイミングを2018年12月末から1カ月間隔でずらし、実際の株価データに対してフィットするか(当てはまりがよいか)決定係数の推計を行うことにより、逆バブル崩壊が最も起こりそうなタイミングを調べた。

べき乗則で下落続けば、19年1月に「臨界点」へ

その結果、2019年1月末の当てはまりが最もよいことがわかった。今後も「べき乗則」に従うように「逆バブル」が続く場合、2019年1月には臨界点に達し、セリング・クライマックスとなる可能性がありそうだ。もっとも、決定係数は0.6程度にとどまっている。2018年2月の株価下落時には0.8を超えていたことを勘案すると、まだ完全に「逆バブル」と呼べる状況にはなっていない可能性があることには留意が必要である。この先も「べき乗則」的な下落が続けば、一段と蓋然性が高まるだろう。


今後も「みずほクラッシュ指数」を用いて、「逆バブル」の発生(セリング・クライマックス)と崩壊(株価の底打ち)の可能性をウォッチしていきたい。