JALが第69期定時株主総会を開催。同社が2020年の就航を目指している国際線の中長距離LCCについてなど、株主との質疑応答について、おもな内容をまとめました。植木会長は社内で「LCC推進派」だったそうです。

1株あたりの年間配当金は合計110円

 JAL(日本航空)は2018年6月19日(火)、東京都内で第69期定時株主総会を開催。以下の3議案が議決されました。


東京都港区で開催されたJALの第69期定時株主総会(2018年6月19日、恵 知仁撮影)。

第1号議案「剰余金の処分の件」

1.配当財産の種類:金銭
2.株主に対する配当財産の割り当てに関する事項およびその総額:日本航空普通株式1株につき金57円50銭。配当総額201億9547万4473円。
3.剰余金の配当が効力を生じる日:2018年6月20日(水)。

 配当性向は、親会社株主に帰属する当期純利益から法人税等調整額の影響を除いた額の30%程度が目安とのこと。「当期の1株あたりの年間の配当金は、中間配当52円50銭と合わせて110円」になるそうです。

第2号議案「取締役10名選任の件」

 人数はこれまで同様、社外取締役以外の取締役7名、社外取締役が3名の計10名で、以下の人物が選任されました(敬称略)。

植木義晴(再任)、赤坂祐二(新任〈社長〉)、藤田直志(再任)、斉藤典和(再任)、菊山英樹(再任)、進 俊則(再任)、清水新一郎(新任)、小林栄三(再任/社外/独立役員)、伊藤雅俊(再任/社外/独立役員)、八丁地園子(新任/社外/独立役員)

第3号議案「監査役1名選任の件」

 熊坂博幸さんの退任にともない、久保伸介さんが選任されました。

第69期の営業収益など

・営業収益:1兆3832億円(前期比7.3%増加)
・営業費用:1兆2086億円(前期比8.1%増加)
・営業利益:1745億円(前期比2.5%増加)
・経常利益:1631億円(前期比1.1%減少)
・親会社株主に帰属する当期純利益:1354億円(前期比17.5%減少)

質疑応答「航路混雑の影響は?」「エンジントラブルどう考えているか?」

 JALの第69期定時株主総会では、以下のような株主との質疑応答が行われました。


東京都港区で開催されたJALの第69期定時株主総会(2018年6月19日、恵 知仁撮影)。

Q:昨年度と今年度のエンジントラブル2件について、どう考えているでしょうか?

A:いずれの事例も運輸安全委員会で調査中で、最終的な結論は出ていませんが、定例的に行っている内視鏡の検査間隔を従来の半分にするなど、総合的に検査態勢を強化しており、引き続きエンジンメーカーと協力し、全力を尽くします。

Q:羽田、伊丹、福岡で航路の混雑が目立っていおり、定時運航への影響が考えられますが、これにどう対応するのでしょうか?

A:最初にお客さまへ、定時運航へのご協力に感謝したいと思います。空港や航路の混雑により、定時運航の確保が難しい所は確かにありますが、空港におけるハンドリングの改善など、まずやることをやって、定時運航を確保していきたいと考えています。

Q:羽田のサクララウンジは、地方に比べてスナック菓子が少ないです。

A:今年の初めに変えたものの、まだまだ十分でないという貴重なご意見をいただきました。対応を考えていきたいと思います。

Q:成田〜伊丹便に乗ったとき、搭乗率が低かったのですが(半分も乗っていない)、どう考えているのでしょうか?

A:データでは全ての便がそうではありません。また、JALの中期経営計画に「地方経済の振興」というものがあり、そこに貢献することで会社の価値を高めていきたいと考えています。そうした意味で、成田発着の国際線に接続する国内線は非常に重要です。なかには利用率が低い路線があるかもしれませんが、改善していきたいと考えています。

(議長の植木義晴代表取締役会長)今期の国内線有償座席利用率(ロードファクター)は71.8%で、マイルでの搭乗などを含めると78%程度と、好調に推移しています。ご安心いただければ。

質疑応答「新規設立の中長距離LCCについて詳しく」

Q:昨日(2018年6月18日)、大阪で発生した地震のため、伊丹発着便を中心にJALは60便が、ANAは14便が欠航したという報道がありました。「機材繰り」という言葉を使わず、この差を説明してほしいです。

A:特に昨日の場合は、地上交通機関も寸断されており、鉄道の復旧状況などにもアンテナを張り巡らせながら対応しました。昨日のケースに限らず、運航するかどうかの判断をギリギリまでのばすのは、お客さまにとっても適切ではないと考えて降ります。

Q:国際線中長距離LCCへの参入について、路線、機材など、内容を詳しく説明してください。

A:中期経営計画において「フルサービスキャリア事業を磨き上げる」「事業領域を拡げる」としているうちの、後者になります。昨今、日本に乗り入れているLCCは、基本的には近距離のアジアからです。2020年、成田空港の発着枠が4万回増え、便数は1日50便ほど増えます。またお客さまの価値観が多様化し、JAL国際線のロードファクターも高いなか、中長距離に関してプレイヤーがいないのであれば、我々のフルサービスキャリアと両輪で、次の成長に繋がるのではないかと考えています。

 使用機材は航続距離1万3000kmのボーイング787-8で、ほぼ北米、ヨーロッパに届きます。その機材を使いながら、フルサービスとはまた別ブランドで、新たなニーズに対応、しっかりした成長戦略に基づき、成功させたいと考えています。

(植木会長)私は社内でLCC推進派でした。B787-8であれば、いまJALが飛んでいる路線をカバーできます。そうしたところに学生の方など、20万円30万円かかると難しいが、半分で行けるなら――という方がいらっしゃる。そうした若い方にご利用いただいて、会社へ就職したのちはJALにビジネスで、といった感じでしょうか。JALの、そして日本の将来のためにも、中長距離LCCは必要と考えています。

JALを退社した人を新規LCCに 海外委託「安かろう悪かろう」は違う

Q:三菱MRJの導入について、どう考えているのでしょうか?

A:MRJはまだ開発中ですが、国内線リージョナルジェットの後継機として選定し、いま現在、32機を発注しています。MRJは日本の国家を挙げたプロジェクトのひとつとして、夢を持って開発された飛行機です。早く就航できるよう、各部門から三菱へ出向させ、開発協力、情報提供をしています。2021年に受領し、投入する予定で、計画通りに進めていきたいと考えています。

Q:2010年末、経営破綻で整理解雇者165名を出しましたが、このことについてどう思いますか?

A:希望退職を募るなど努力をしたうえ、やむを得ず実施したもので、これは最高裁の決定で、法的に最終確定しています。ただ現在、JALが事業領域を広げて成長していこうとしているなか、「人の確保」は重要な経営課題で、中長距離LCCの新規航空会社を立ち上げるにあたって、JALを退社した方も募集の対象にすることを考えています。新しい事業などで人が必要になる場合に、過去に退社した方も対象にしていきたいです。

Q:整備の海外委託は、どれくらいコストに影響しているのでしょうか? 安全面に不安を及ぼしている点はないのでしょうか?

A:一定の範囲で国内・海外に整備を委託していますが、適切な体制、監査などで適正な委託管理を行っています。コストありきではなく、信頼できる委託先に、しっかりした管理体制で委託しているため、自営の整備と同じようにできています。

(赤坂祐二社長)海外委託は安かろう悪かろうというイメージがあるかもしれませんが、そんなことはなく、手を取り合って品質を高めて、「航空の安全を守る仲間」としてやっています。

シェア重視の過去には戻らない

Q:名古屋は路線が限られ、特典航空券や株主優待が使いづらいです。

A:ご指摘の通り、首都圏への比重が高い形で再建を図ってきたため、以前に比べてネットワークが縮まっているのは事実です。ただ破綻の前までは、シェアを重視して収益をそこなうことがありました。シェアだけを重視するという経営破綻前に戻る気はありませんが、需要の動向へ常に目を光らせ、トライしていきたいと考えています。

Q:いざというときのために、緊急脱出の訓練を一般人でも体験できたらいいのでは?

A:JALではパイロット、客室乗務員のほか、一般社員も含め、全社員を対象に緊急脱出訓練の研修を行っています。一般のお客さまを対象には行っていませんが、現在、機内で放映する安全ビデオを、分かりやすく改訂することを考えています。少々お待ちいただければ。

Q:JALグローバルクラブの会員数が増えていると思いますが、このままだとサービスが立ちゆかなくなるのでは?

A:確かに増えていますが、サービスや路線ネットワークの規模も拡大しており、会員数が増えることはJALにとって利益になります。サービスを低下させないよう、努力していきたいです。

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 なお、今回の出席者数は1255名、運営時間は2時間21分、質問者数は14名でした。

【地図】JALが「中長距離LCCのターゲット」としているエリア


JALが新設する中長距離LCCのターゲットとするエリアと、そのコンセプト(画像:JAL)。