識者も落胆した"同一労働同一賃金"のウソ

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いざというとき、自分の身を守ってくれるものは何か。その筆頭は「法律」だ。「プレジデント」(2017年10月16日号)の「法律特集」では、職場に関する8つのテーマを解説した。第6回は「従業員の給料格差」について――。(全8回)

■研修のあるなしで、格差を是認

2016年12月に提出された「同一労働同一賃金ガイドライン案」を読んで、心底落胆した。ガイドライン案には、こと細かく「問題とならない例」と「問題となる例」が分類して示されているが、定義付けの議論に終始している限り、同一労働同一賃金の実現は極めて疑わしいからだ。

そもそも定義付けを行うことは、現実的ではない。実際に「有期雇用労働者及びパートタイム労働者」の基本給を、労働者の職業経験や能力に応じて支給する場合の例を見てみよう。

正社員を対象に特殊なキャリアコースが設定され、選択した正社員は職業能力がアップし、それに応じた基本給の支給を受ける。一方、パートタイマーには同キャリアコースが設定されておらず、職業能力アップの機会もなく、そのため基本給は正社員よりも低いまま。この場合の賃金差は「問題とならない例」だとしている。

確かに、正社員のキャリアアップのために研修を実施している企業は少なくないし、その対象は正社員のみとするケースがほとんどだろう。ということは、「たとえ同一労働であっても、研修の有無によって同一賃金でなくてもいい」というケースがきっと多発するだろう。

今回のガイドライン案は、労働者派遣法の「専門26業務」の騒動を思い起こさせる。派遣雇用で3年間の期間制限対象から外れる業務範囲をめぐり、「どれが当てはまり、何が当てはまらないか」という問題が紛糾した揚げ句、同業務枠の廃止に至った。同一労働同一賃金も、結局は定義付けの極論に終始した揚げ句、雲散霧消してしまうのではないか。

■両者間の健全な競争を阻んでしまう

労働者のモチベーションを下げる点でも問題だ。非正規社員はどんなに頑張っても、正社員とは最初から区別されており、「決められたことを淡々とこなせばいい」という気持ちになる。一方、正社員は既得権益で守られる。その結果、両者間での健全な競争を阻んでしまい、会社全体の生産性は一向に上がらない。

日々、千差万別な業務が繰り広げられているなかで、その定義付けをすることは現実的ではない。それをいくつかの具体例で、無理やり示そうとしていることに問題の根源がある。そこで私が提案したいのは、同じ職場における成果と賃金を一致させる「同一労働成果同一賃金」だ。非正規社員でも正社員と同じ成果をあげたら、同じ金額の賃金を払う。これにより職場内に競争が生まれ、自ずと生産性がアップしていく。

事務などの間接部門は定量評価が難しいという声も出るだろう。しかし、定性評価であっても、その数を積み重ねることで皆が納得する評価が可能なことを、私は長年にわたる人事畑での経験で知っている。働き方改革の灯火を消すことなく、日本企業全体の生産性向上につなげていきたい。

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山口 博
モチベーションファクター代表取締役

第一生命保険、マニュライフ生命保険、SAPジャパンなどでトレーニング部長、人事部長などを歴任。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』。

 

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(モチベーションファクター代表取締役 山口 博 構成=田之上 信 撮影=小田駿一)