NTTグループによるベンチャー支援への取り組みを解説!

NTTグループは20日、東京ミッドタウンにて同社のベンチャー企業支援会社「NTTドコモ・ベンチャーズ」の活動報告および事業成果の展示会「NTTドコモ・ベンチャーズデイ」を開催しました。

NTTグループによるベンチャー企業支援の歴史は2008年に発足した「NTTインベストメント・パートナーズ」にその原点があります。その後NTTグループを代表したスタートアップ及びベンチャーコミュニティとの総合窓口として活動を広げるため2013年に「ドコモ・イノベーションベンチャーズ」への商号変更を経て、さらに現在の「NTTドコモ・ベンチャーズ」へと商号変更を行った経緯があります。

NTTグループによるベンチャー企業への支援策とはどのようなものなのでしょうか。またその取り組みは成功しているのでしょうか。カンファレンスの模様や展示会に出展した一部の企業の紹介とともに解説します。


創業から10年。その活動は3rdギアへ入ったと語るNTTドコモ・ベンチャーズ


■ベンチャー企業とNTTグループ各社を繋ぐNTTドコモ・ベンチャーズ
前述の通り、同社はNTTドコモの名前を冠しているもののNTTドコモの子会社的な扱いではありません。むしろNTTデータやNTTファイナンス、NTTレゾナントなどNTTグループを構成する主要企業各社を繋ぎ、その専門知識を活かしてベンチャー企業を支援する中核的な役割を担っています。

ベンチャー企業の支援と一言で言ってもその規模や形態は様々ですが、同社が行っているのは数億円から十数億円程度の比較的小規模な支援です。100億円を超えるような大規模な事業支援や協業はグループ各社が直接行い、もっと規模が小さく起業からの支援や技術的なアドバイスを行う場として東京と米国カリフォルニア州のシリコンバレーに拠点を置き活動を行っています。


各拠点にはダイバースメンバーズと呼ばれる各分野で5年〜10年の経験を持つベテランメンバーが配属されている


その主な取り組みとしてそれぞれの技術やサービスを持つベンチャー企業とNTTグループ各社を繋ぐ「イノベーションヴィレッジ」プログラムも行っており、週に数回のディスカッションやアライアンスによる活動支援が主な内容となっています。


ベンチャー企業同士の意見交換の場でもあるイノベーションヴィレッジ


■ベンチャー投資をNTTグループの成長へと繋げたい同社の思惑
「単なるベンチャー投資からパートナーシップへ」。壇上でそう語るのは同社取締役副社長の稲川尚之氏です。現在のベンチャー企業の在り方は10年前とは大きく変革しており、革新的な技術1つで大企業へと成り上がることを夢見るような起業が激減した一方で、様々な技術やアイデア、サービスなどを繋ぎ、ユニークな製品を生み出して社会インフラを構成するような大企業へその製品やアイデアを売り込むといった流れが主流となりつつあります。

その流れはいわゆる一攫千金を狙ったかつてのベンチャースピリットよりも確実性や成功率が高く、現在はむしろベンチャーとしての起業が増加しているとも語ります。その状況は数字にも現れており、同社によるベンチャー企業への投資件数は前年比で3倍に、協業においても2.4倍となっています。


起業支援の場は日本や米国だけではなくイスラエルや北欧を中心としたヨーロッパにも拡がっている


同社やNTTグループとしても、単なる一流企業を目指し成り上がろうとするベンチャー企業への投資を行うだけではライバルを増やすだけになるリスクがありますが、自社グループの企業と提携しその技術を活用できる環境を整えられる企業への投資であれば互いにメリットの多い投資となり、Win-Winの関係を構築できます。

また技術支援や自社アライアンスへの積極的な参加を促すことで技術そのもののノウハウやヒントをベンチャー企業側から得られるだけではなく、共有技術として囲い込み技術面で他社と差別化を図ることも可能になります。

こういったメリットの多い状況から投資額も年々増加し、2018年には総額500億円にも及ぶ支援を行うとしています。


ベンチャーの技術やアイデアを囲い込み、互いに成長路線を築き上げることが最大の目的だ


■通信・IoT技術を活かしたシナジーモデルを
展示会場ではこれまでに同社が支援し商品化されたものや現在商品化が進められている様々なベンチャー企業の製品が展示されていました。いずれも将来性や可能性に溢れた製品ばかりであり、NTTグループが強みとする通信技術やIoT技術を駆使したものが多い印象でした。


スマートフォン(スマホ)とBluetoothで連携し音や光で場所を知らせるIoTタグ「TrackR pixel」(トラッカール ピクセル)



逆に本製品を押すことでスマホの場所を探すこともできる



2017年10月より国内販売が開始されており価格は2,980円。スマホと本製品の通信が途絶えるとアラームが鳴る「置き忘れ防止機能」なども備わっている



見た文字をそのまま音声で読み上げてくれるスマートグラス「OTON GLASS」(オトン グラス)



内蔵されたカメラで対象の文字を撮影するとオンラインサーバ上で画像認識され音声で出力する仕組み



現在クラウドファンディングも実施されている



ForEst(フォレスト)が開発し啓林館が販売している学生向け電子問題集アプリ「ATLAS」(アトラス)



数学・科学・物理など約100冊に及ぶ問題集が1つのタブレットで利用できる



アトラス自体は問題集を販売するためのプラットフォームでありユーザーは欲しい問題集をアプリ内で自由に購入することができる


NTTドコモ代表取締役副社長およびNTTドコモ・ベンチャーズ代表取締役社長の中山俊樹氏は囲み取材の場においても「ベンチャー支援はシナジーモデルにかなりシフトしている。我々はその鎹(かすがい)に」と語り、その多くが同社やNTTグループとのコラボレーション前提での出資である点を強調していました。

10億円前後の比較的小規模なベンチャー投資をグループ企業による100億円を超えるような巨大投資から敢えて切り離しレイヤー化することで、ベンチャー企業に必要なスピード感や柔軟な開発支援体制を整えつつグループ企業とのシナジーも視野に入れていくスタンスは、体力と規模のあるNTTグループらしい支援策と言えます。

一方でベンチャー企業の技術をNTTグループ側が囲い込むことでその成長を阻害したり飼い殺しにしてしまうリスクもありますが、中山氏が「ホームランよりヒットを狙っていく」と語るように、ベンチャー企業側としてもプラットフォーム支援や通信インフラの活用など資金のみの支援よりも得られるメリットが大きい分、綱渡りではない着実な成長戦略を描きやすいのかもしれません。


グループ企業の総力をベンチャー育成に注ぐ。巨大なNTTグループならではの力技だ


記事執筆:秋吉 健


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