アメリカ、中国、ロシア。大国はおしなべてサッカーが弱い。日本も例外ではない。主要国でありながらサッカーも強い国と言えば、ドイツ、フランスが1番、2番に来る。

 アメリカ、中国、日本は、ずっとサッカー後進国だった国。言い訳の材料はたっぷりあるが、ロシアは別だ。それなりのサッカー史を持つ伝統国。ソビエト連邦時代の88年に、欧州選手権(ユーロ)で準優勝を飾っているが、これは監督以下、メンバーの大半がウクライナ人で、ロシアとはあまり関係がない。ロシアとしての特筆すべき出来事はユーロ2008のベスト4に限られる。

 W杯では1994年大会以降、6大会中3度予選を通過しているが、いずれもグループリーグ落ち。ユーロも2008年のベスト4を除けば、グループリーグ敗退、あるいは予選落ちを繰り返している。2018年W杯で、開催国としてのノルマといわれるベスト16入りを果たせるか。微妙なところだ。

 アメリカはサッカー環境という点で、ロシアより劣るのにロシアより強い。90年以降、W杯には7度連続出場し、決勝トーナメントに4度出場。2002年日韓共催W杯ではベスト8に輝いている。準々決勝対ドイツ戦の敗戦は、ドイツMFフリングスが、アメリカのシュートをゴールライン上で手で止めたにもかかわらず、主審がPKを取らないという誤審に泣いた結果だった。悔しい試合として記憶される。

 アメリカは2009年コンフェデレーションズ杯では、準決勝で、翌年開催されたW杯本大会を制したスペインに2−0で勝利。続く決勝対ブラジル戦も、前半を2−0リードで折り返した。2−3で逆転負けを喫したが、強国ブラジルを番狂わせ寸前のまで追い込む敢闘精神に、感激せずにはいられなかった。

 ロシアとアメリカ。日本のお手本として、あるべき姿を示してくれたのはアメリカだ。ロシアより、番狂わせを狙う気質に優れている。立ち位置が確保できている。アメリカは弱者になれるが、ロシアはなれない。この差は大きい。ロシアが格上に勝つ姿は、想像しにくいのだ。

 つい、オランダ人指導者の常套句を聞かせたくなる。彼らに話を聞けば、例外なくこの言葉を枕詞に、話を進めてくる。

「我々は小さな国だ」。「だからどうするか」。「工夫しなければ生き残れない民族なのです」

 ロシアにこの謙虚さはない。「小さな国」と謙ることはない。大国意識を前面に押し出しながら、強者と対戦する。「工夫しなければ生き残れない」との危機感はない。

 ベスト4入りしたユーロ2008で、ロシア代表監督を務めたのはオランダ人監督のヒディンクで、準々決勝の相手も「強国」オランダだった。ヒディンクはオランダ戦用の布陣、メンバーを組み、対抗したことが奏功。3−2で勝利を収めた。ヒディンクという存在は、ロシアにとって最高の処方箋だった。

 ヒディンクはご承知の通り、2002年日韓共催大会では、韓国代表監督として采配を振るい、そしてチームをベスト4に導いた。韓国はもともと小国気質を備えた国だ。特にこの時は、共催国日本に対して、強烈な対抗意識を持っていた。ドイツに対するオランダのように。そのベスト4という結果には必然を感じた。

 ヒディンクはその4年後、今度はオーストラリアの監督に就任する。同国が、W杯の大陸間プレイオフで、南米5位のウルグアイと対戦するタイミングだった。下馬評で上回っていたのはウルグアイ。だが、ヒディンク率いるオーストラリアは、そこでまさかの勝利を飾った。

 ヒディンクのようなタイプは、格上と対戦する小国の監督を任せると、無類の強さを発揮する。小国の監督に適していないのは、大国気質が抜けない監督だ。2014年ブラジルW杯に臨んだザッケローニ。2006年ドイツW杯でヒディンク率いるオーストラリアに初戦で1−3で敗れたジーコ、しかり。日本との相性は、どう見ても悪かった。