卓球のジャパンオープン荻村杯で驚きの下克上を達成した孫穎莎(中国)【写真:Getty Images】

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16歳が初出場2冠、“平野役”の練習要員が平野に勝った世界5位に大金星

 “そっくりさん”が“本家”を超えた――。卓球のジャパンオープン荻村杯(東京体育館)は最終日の18日、一人の少女が驚きの下剋上を完成させた。女子シングルス決勝。世界ランキング5位・陳夢(中国)を破ったのは、世界的には無名の孫穎莎(中国)だった。初出場のワールドツアーでダブルスと2冠を達成。世界選手権前には、平野美宇(エリートアカデミー)の“コピー選手”として練習要員を務めていた16歳。準決勝で平野に勝った格上選手を破り、王者・中国の底力をまざまざと見せつけた。

 “本家”を彷彿とさせる攻撃的な卓球で大逆転勝ちだ。

 孫は1-1と善戦していた第3ゲームから8-11で2ゲーム連取された。それでも「最後まで力を持てる力を発揮できた」と、ここから2ゲーム奪取。3-3でフルゲームに持ち込むと最後まで攻め抜き、11-8で大金星を挙げた。

「うれしいです。ダブルスで優勝して自信がつきました。今日は勝てるかわからない展開だったけど、勝つことができて本当にうれしいです」

 前日の女子ダブルスに続く2冠。場内インタビューでは、少し照れくさそうに喜びを語った。

 わずか1か月前は“そっくりさん”だった。今月に行われた世界選手権。中国代表は合宿に世界の有力選手のプレースタイルを模した練習要員を23人招集。伝統的なユニーク練習で話題を呼んでいたが、国際卓球連盟(ITTF)公式サイトの記事によると、平野役を務めた4人のうち1人が孫だったという。

 平野は4月のアジア選手権で世界ランキング1位の丁寧ら、地元・中国勢のトップ3選手を次々と破って優勝。史上最年少でアジア女王に輝いた17歳を倒すため、「似ているところはある。身長も同じくらいだし、スピードがあるところが似ている」(孫)という16歳が抜擢。代表選手の練習相手を務めていた。

平野に尊敬のまなざし「私よりも実力がある」…それでも優勝できる中国の底力

 そんな“コピー選手”が下剋上を成し遂げた。

 相手の陳は平野を4-0のストレートで圧倒し、決勝進出。“本家”に勝った格上を破ってみせたのだ。これまでジュニア世代を主戦場とし、シニアのワールドツアー初出場だった孫は「大会に来る前は優勝できるなんて思ってなかった。とりあえず、外国人選手には負けないことだけ……」と驚いた。

 日本勢は17歳・平野に加え、16歳・伊藤美誠ら10代の躍進が著しい。「彼女たちのことはもちろん、知っています。非常に強い選手。彼女たちは私よりも実力があります」と分析した孫は、平野について「すごくスピードがある。進んだプレーもしている」と尊敬の眼差しを向けた。

 しかし、格上とみていた平野も伊藤も敗れた大会で、あっさり勝ってしまうから、王者・中国の底力が見て取れる。

 今大会も男女の単複計4種目を中国勢が独占。自国の競争について「たくさん若い選手がいるけど、私自身は重圧は感じない。プレー中に自分の力を出し尽くすことだけです」と孫は事もなげに言ってのけた。今回の陳との決勝についても「中国人選手とは(国際舞台で)対戦はあまりなかったし、プレッシャーは感じなかった」と言うから、磨き抜かれた精神力が末恐ろしい。

「これからも持てる力を発揮して、今後の試合も頑張っていきたいです」

 殊勝に意気込みを語った16歳。日本の若手も成長しているが、中国の若手も成長している。それを孫穎莎は“本家超え”によって証明してみせた。