世界最大シェアを誇る宇宙輸送企業であるアリアンスペース社(本社:フランス)は、日本事務所開設30周年を迎え、2016年4月19日にレセプションを開催した。この30年間に日本の企業や政府機関から請け負った30件の衛星などの打ち上げを実施、商業打ち上げでの日本国内シェアは75%と圧倒的だ。


アリアンスペースは、航空機で言えば航空会社と空港運営を兼ねたような企業で、ロケットの開発や製造はエアバス・サフラン・ローンチャーズなどのメーカーと、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)やフランス国立宇宙研究センター(CNES)などヨーロッパの政府宇宙機関が協力して行っている。アリアンスペースの役割は、ロケットによる衛星打ち上げサービスを行うことと、その営業活動だ。


日本は市場、仲間そしてライバル



アリアンスペースがこれまでに打ち上げてきた人工衛星は500機以上。そのうち30機が日本の衛星や実験装置だ。ステファン・イズラエル代表取締役会長兼CEOは「今後も日本は、重要で有望な市場だ」と語った。これまで、BS放送を担うB-SATの放送衛星は全てアリアンスペースが打ち上げており、CS放送などを担うスカパーJSATの衛星は2016年も2機の打ち上げを予定している。


と同時に、日本にも宇宙ロケットがあり、打ち上げサービスを行っているが、アリアンスペースにとって日本は仲間でもありライバルでもある。三菱重工業とアリアンスペースは協定を結んでおり、日本のロケットとアリアンのロケットがお互いに衛星打ち上げを融通することになっている。打ち上げスケジュールの問題や、技術的問題などで顧客の要望に応えられない場合に、代わりに打ち上げてもらうという協定だ。ただし、H-IIAロケットとアリアンロケットの仕様が異なるため、これまでは融通が難しかった。


しかし、H-IIAロケットの運用自由度を高める高度化プロジェクトや、次世代のH3ロケットの開発で融通性は高まる。アリアンスペース東京事務所代表の高松聖司氏は「日本の新しいロケットができれば、三菱重工業との融通はしやすくなる」と前向きに評価した。一方で、日欧共通の課題の一例として「衛星オペレーターが利用しやすい環境整備が必要だ。アリアンの発射場ではフランス語、日本では日本語で運用しているため、英語圏の顧客は利用しにくい」と、きめ細かなサービスの重要性を挙げた。


2020年代の新型ロケット、アリアン6とヴェガC



アリアンスペースは現在、大型のアリアン5、中型のソユーズ、小型のヴェガを運用している。このうち、アリアン5とソユーズを置き換えるアリアン6を2020年、ヴェガを改良したヴェガCを2019年から運用する計画だ。これはちょうど日本が、中大型ロケットを2020年からH3、小型ロケットを2016年から強化型イプシロンで置き換えるのとよく似ている。


次世代ロケットの話となると、低価格や再使用で話題のスペースX社と比較されることが多いが、イズラエルCEOは「アリアンスペースは、他社の動向に慌てて従うような企業ではない。目的はヨーロッパの宇宙輸送需要に応えることだ」と説明し、スペースXの動向とアリアンスペースの戦略には関係がないことを強調した。また「スペースXは火星探査なども目標としているが、アリアンスペースにそういう構想はない。重複する市場は多くない」とも語った。


再使用などの革新的技術については「スペースXもまだ回収したロケットの再使用には成功していないし、それが経済的に意味のあることかどうかはわからない」とし、「アリアン6は発展性を考慮しており、第1段をヴァルカン(液体水素を燃料とするロケットエンジン)から、液体メタンを燃料とする新型エンジン「プロメテ」に置き換える研究を進めている」と説明した。