レスター・シティのFW岡崎慎司は、前半だけで交代を命じられた。3月5日に行なわれたワトフォード戦で9試合連続となる先発出場を果たすも、大きな見せ場のないまま、45分間でMFアンディ・キングと交代。その後、チームは得点を挙げて1−0で勝利した。

 試合後、クラウディオ・ラニエリ監督は交代策について、次のように説明した。

「前半は、中盤中央の位置でワトフォードが数的優位に立っていた。彼らは中央に人数をかけてきたが、我々は(MFエンゴロ・)カンテと(MFダニー・)ドリンクウォーターしかおらず、大いに苦しんだ。ふたりを助けるため、3人目のセントラルMF(アンディ・キング)を投入した」

 ワトフォードの布陣は4−3−2−1。「中盤底の3ボランチ」+「攻撃的MFの2枚」が中盤の中央寄りでプレーする場面が多く、レスターはその位置で数的不利に陥った。なかなかボールを前方へ運べず、苦しい試合展開を強いられた。

 そこで、ラニエリ監督はハーフタイムに修正を施す。4−4−2の2トップ一角に入った岡崎を下げ、セントラルMFのキングを投入したのだ。この策が、見事に功を奏す――。4−1−4−1にシステムをチェンジしたことで中盤が安定し、プレスの威力も増した。勢いに乗ったレスターは、MFリヤド・マフレズの技ありのゴールで先制。ラニエリ監督のシステムチェンジが、レスターに勝利を呼び込んだ。

 一方、「戦術的理由」からベンチに退いた日本代表FWとしては、消化不良の一戦になった。ラニエリ監督の会見が行なわれる前にミックスゾーンに姿を見せた岡崎は、「交代理由? 監督からは、いつも説明がないんで。自分としても、そういうのは逆に欲しくない。気を遣われるのが一番嫌なんで」と、自身の交代策について話した。

 そのせいか、「怖いプレーがあまりできなかった」と反省を口にしたが、「自分にとって不利なときもあるんですよね。まあ、こういう交代は仕方ないかなと思う」と、試合展開から交代を命じられたことも感じ取っていた。さらに、「落ち込むことではない。僕個人としては悪くなかった」と気丈に話した。

 岡崎が前半だけで交代を命じられるのは、この試合で4度目のこと。過去3回はシーズン前半戦に集中しており、最後の1回は10月17日のサウサンプトン戦(2−2のドロー)までさかのぼる。久しぶりに前半だけで交代させられたが、同じ采配でも約5ヶ月前とは受け取り方に違いが見えた。

 もちろん、前半だけで交代させられることへの課題は一緒だ。システムチェンジによる交代であっても、「(そういう立ち位置を)俺としては変えていきたいと思っている。たとえば、前半でゴールを決めていたら、たぶん70〜80分はプレーできていたかと。俺が目指すのはそこです」と言う。

 ただ同時に、優勝を目指すレスターが値千金の勝利を収めてもいる。「前半だけでの交代」と「チームの貴重な勝利」──。"悔しさ"と"うれしさ"という、相反するふたつの感情が複雑に入り混じっているのではないかと、筆者は勝手に想像していたが、試合後の岡崎は素直に、「いや、勝ってよかった」と笑顔を見せた。日本代表FWは前向きに言葉をつなぐ。

「ここまできたら、チームとして優勝するか、(来季)CL出場権を確保したい。たしかに、この首位争いのなかで自分がゴールを決めれば、ヒーローになれる。でも、俺が特別に結果を残して勝ってきたシーズンではないし、こういう立場になるのも仕方ない。だけど次、また来季もチャレンジできるわけだし。自分の怖さは出せていると思う。ここでガッカリしていられない」

 チーム内で絶対的な立ち位置を目指しながら、レスターの一員として団結して戦っていく──。そんな岡崎の意志は、「プレミアリーグの優勝争い」に話が及んだときにも感じられた。仲間へのリスペクトを忘れていないのだ。

「プレミアリーグどころか、これまで俺は優勝争いを経験したことがない。日本では清水エスパルスで優勝争いをしていても、早めに離脱していくパターンが多かった。そういう意味では、今のチームメイトのすごさを改めて感じます」

 思い返せば、シーズン前半戦の岡崎は前半だけで交代を命じられると、「『(交代が)俺かよ......』という気持ちがあった。これは前節で(先発を外されたときも)そうだったけど、『結局、俺かぁ』って」と素直に思いの丈を口にしていた(第5節・アストンビラ戦後)。

 ところが今、レスターの置かれている状況は、当時とまるで違う。シーズンが残り9試合になっても首位の座をキープし、2位のトッテナム・ホットスパーとの差を5ポイントに広げた。3位のアーセナルとは、実に8ポイント差である。プレミアの頂(いただき)が、おぼろげながら見えてきた。

「今シーズンは監督の交代策がハマっていて、後半から良くなるパターンが多い、僕が後半から出場し、内容が良くなる試合も経験している。そういう意味では、誰かが犠牲にならざるを得ないときもある。だって、優勝争いを戦っている、首位を走っているチームなんですから。自分はそこに割って入ろうとしているのだから、こんなことでめげていてはダメ。あきらめずにガンガンいけばいい」

「残り9試合、がんばりたい」と語る岡崎慎司。いよいよシーズンのクライマックスに突入するが、はたしてレスターの「背番号20」はここまでの経験を生かし、前線での"違い"となってチームを頂上へと導けるか。

田嶋コウスケ●取材・文 text by Tajima Kosuke