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●第6世代iPod touchは何が変わったのか
7月16日、iPod touchが2年10ヶ月ぶりのモデルチェンジを果たし、第6世代が登場した。第5世代と比べて形状はほとんど変わっていないが、中身は大きく変わっている。ガラケー派だがスマートフォンアプリが気になっているという人にも強く訴求しそうだ。

第5世代のiPod touchが登場したのは2012年の9月で、iPhone 5と同時の発表だった。iPhone 5と同じ4インチ・アスペクト比16:9のRetinaディスプレイを搭載。CPUはiPhone 4sと同じデュアルコアのApple A5を採用し、背面側に500万画素のiSightカメラを搭載するなど、登場当時はそこそこのスペックだったが、その後iPhoneやiPadが代を重ねる間も変更はなく、気づけばすっかり取り残されていた感があった。

第6世代のスペックは、こうした約3年間の鬱憤を一気に晴らすに十分なものがある。CPUにはiPhone 6と同じ、最新のApple A8を搭載(クロック数は1.1GHzといわれている)。一気に64bit化を果たし、CPU性能は第5世代比で約6倍、GPUは約10倍と、それぞれ大幅に高速化した。

また、iOS 7で登場した高速な3D API「Metal」もサポートした。複数のアプリを動かす際に不安要素だったワークメモリも1GBに倍増していおり、大規模なアプリも快適に動きそうだ。iPhone 6のA8は1.4GHzで動作しているため、第6世代iPod touchの性能は、単純計算ではiPhone 6の約80%程度の処理能力ということになりそうだが、それでもiPhone 5sと同等クラスの性能が期待できる。

■性能比較

カメラも新しくなり、iSightカメラ(背面側・メインカメラ)が500万画素から800万画素になった。もっともレンズの明るさなどのスペックから判断するに、世代としてはiPhone 5cと同じカメラユニットが採用されているようだ。一方、FaceTime HDカメラ(前面側・インカメラ)はiPhone 6と同じユニットの可能性がある。いずれにしても性能的には最新機種に見劣りしないというわけだ。

フラッシュメモリは16GB/32GB/64GBに加え、Apple Store専売で128GBモデルが追加される。昨年販売終了したiPod classicが担っていた大容量需要に対しても、これで一つの回答を出した形になる。iCloudとの連携があるとはいえ、音楽やビデオだけでなく、アプリや写真なども相当容量を食うようになったため、大容量化自体は大いに歓迎できる。欲を言えば256GBモデルも欲しいくらいだ。

●カラバリはスポーツシューズのよう
○カラー展開も大きく変更

外見上で目につくのはカラーの変化だ。2012年モデルがシルバー・スペースグレイ・イエロー・ピンク・ブルー・(PRODUCT)REDの6色だったのに対し、2015年モデルでは同じ6色ながら、シルバー・スペースグレイ・ゴールド・ピンク・ブルー・(PRODUCT)REDになった。イエローとゴールドが同系色(黄色系)と考えると構成自体は変わっていないが、色味はだいぶ変わっている。ピンク、ブルー、(PRODUCT)REDも色味がだいぶ変わり、ビビッドな色合いになっている。

シルバー・スペースグレイ・ゴールドの組み合わせはiPhoneやiPad Air 2、MacBookと同じで、同系色で揃えたいユーザーにも訴求するだろう。

ちなみにiOSを搭載しないiPod nanoとiPod shuffleも、従来の8色構成からiPod touchと同じ6色構成に変わっている。緑系が消え、ピンク系と赤系が(PRODUCT)REDに統合されたような形になる。色のセットについてはジョナサン・アイヴ率いるアップルのデザインチームが熟慮を重ねて決定したのだろうが、筆者の最初の感想は「ブルーとピンクがスポーツシューズみたいだなあ」だった。

細かい変更点としては、第5世代で採用された専用ストラップ「Apple Loop」の留め金がなくなり、再びのっぺりとしたシンプルなボディに戻った。正直Loopを使っている人はほとんど見たことがないため、余計な周辺機器の在庫を作らないためにもLoopの削除は正しい判断だったのではないだろうか。

なお、名前に反して指紋認証の「Touch ID」は搭載されなかった。大いなる名前負けだと思ったのは筆者だけではないはずだ。

iPod touchはお買い得なのか
iPhone 6よりこっちがお買い得?

iPod touchの価格は、第5世代より1,000〜2,000円値上がりしたものの、現在販売中のiOS端末としては最安で、SIMフリーのiPhone 6と比べると半額未満だ。性能的にも最新機種の2割落ち程度であれば十分すぎるだろう(そもそもiPhone 6は現行世代のスマートフォンでも上位の性能だ)。

■価格比較

iPod touchは音楽プレーヤーとしてよりも、ゲーム機や、スマートフォンを持たせてもらえない子供のためのアプリプレーヤーとしての需要も多い。こうした需要に対して、いかにも型落ちのスペックではなく、最新性能が提供されたというのはいいニュースだ。

また、ガラケーユーザーにとってもiPod touchの性能向上は興味深いニュースではないだろうか。iOSアプリには興味があるが、高い料金プランのスマートフォンを使う気はない、という人たちの間でiPod touchが人気を集めているという。ガラケーのWi-Fiテザリング機能(搭載されている機種は減ってしまったが)や、MVNOのデータ専用SIM+モバイルルーターとiPod touchの組み合わせなら、ランニングコストを抑えて最新のアプリやサービスが利用できる。第6世代はこうしたユーザー層にも強く訴求するだろう。

○音楽プレーヤー市場に新たな基準を持ち込む

スマートフォンの普及により、単独の音楽プレーヤーはすっかりその役目を終えた感がある。市場でも圧倒的存在感だったiPodがソニーのWalkmanシリーズと肩を並べるようになったが、これはWalkmanがハイレゾ需要に応えているという側面もあるが、一方で音楽プレーヤー市場自体が地盤沈下を起こした結果だとも言える。

正直、iPodはもうアップデートしないのではないかと思っていた時期もあるのだが、第6世代iPod touchは、まだまだアップルがこの市場を見捨てていないという強いメッセージだと感じられた。先日スタートしたばかりのApple Musicにも対応しており、Wi-Fi環境があればストリーミングによる聴き放題サービスも利用できる。

考えてみれば、ほかの音楽プレーヤーで聴き放題サービスに対応しているものや、アプリで拡張できるものはほとんどない。iPod touchが標準だということになれば、iPodというブランドは、再び音楽プレーヤー市場でも無視できない存在感を表すことになる。アップルのウェブサイトのメニューからも姿を消してしまったiPodだが、なかなかどうして、まだまだ無視できない存在であり続けるようだ。

(海老原昭)