杉村啓『白熱日本酒教室』(星海社新書)
ミニコミの発行、各メディアへの寄稿、また自由大学での講義などを通じて、いまの日本酒の面白さを伝える杉村啓の待望の日本酒本。まずは自分の好みに合った日本酒を見つけられるよう、ラベルの読み方にはじまり、多様な日本酒の種類と違い、さらに楽しみ方まで授業形式でレクチャーしている。

写真拡大

忘年会、新年会とお酒を飲む機会の多いこの時期。これを読まれているなかにも、つい飲み過ぎて悪酔いしてしまった人もきっといることだろう。「むむ教授」こと杉村啓が、日本酒についてその種類から楽しみ方までとことんレクチャーした新刊『白熱日本酒教室』では、悪酔いしない飲み方に関しても1章を割いて解説している。

悪酔いを避けるには、「違う種類のお酒をちゃんぽんにして飲まないようにする」ということがよく言われる。これについては「飲むお酒を変えると気分が変わって、つい飲み過ぎてしまうから」などと説明されてきた。だが、実際のところはどうなのか? 本書によれば、本当の原因は「飲んだ量を把握しにくくなるから」だという。たとえばビールで乾杯して、そのあとに日本酒を飲むとした場合、それぞれアルコール度数も違うので、自分がどれだけお酒を飲んだのか、把握するのはたしかに難しいだろう。

そこで出てくるのが「アルコールの1単位」だ。これは、それぞれのお酒を純アルコール20グラム分を基準に、各お酒の量を把握することである。くわしい計算は本書で確認していただくとして、日本酒でいえば、アルコール量20グラムは、1合分(180ミリリットル)に相当する。これがビールでは中瓶1本分(500ミリリットル)にあたる。だから、乾杯でビールの中瓶1本を空け、さらにそのあとに日本酒を1合飲めば、それで2単位分のお酒を飲んだことになる。

ちなみに体重60キロ前後の日本人の場合、1単位分のアルコールを分解して酔いが覚めるまでに約3時間、2単位ともなると約7時間かかるのだとか。睡眠時間が7時間前後であれば、2単位が翌朝まで酒の残らない「適量」ということになる。著者はここから《お酒になれていない人や、自分の限界がわからない人の場合は、まず2単位分のお酒を飲むことを心がけましょう》と呼びかけている。あわせて、アルコールの分解のためには水をお酒と一緒に飲むことも大切ということなので、ぜひ覚えておきたい。

本書ではもちろん、日本酒の魅力についてもたっぷり語られている。ビールにもウイスキーにもワインにもお酒にはみんなそれぞれ魅力があるわけだけれども、日本酒ならではの魅力とは何だろうか? その一つには、さまざまな温度で楽しめるということがあげられる。

《ホットワインやホットビールのようにスパイスや蜂蜜などを入れたカクテルにするのではなく、焼酎のようにお湯割りにしたりして温度を変えるのではなく、そのままのお酒の温度を変えることでさまざまな味わいを産み出すのは、日本酒ならではの文化です》

その証拠に、日本酒の温度には「燗酒」「冷や」「冷酒」というよく聞く分け方以外にも、たとえば燗酒のうち30度は「日向燗」、35度は「人肌燗」、40度は「ぬる燗」などといった具合に5度間隔で名前がつけられているのだ。なお、勘違いされがちだが、夏場に飲みたくなるような、キンキンに冷えた酒は冷やではなく、冷酒と呼ぶのが正しい。これに対して、冷やは人肌よりも少し低い、ちょっと冷たいと感じる温度を指す。さらにいえば、「熱燗」というこれまたよく使われる名前も、正確には50度と、燗酒でもかなり高い温度を指すので注意したい。

燗酒にすると全体的に甘みが増し、苦みが減り、旨みが増え、香りが広がるというから、何ともいいことづくめ。家ではあまり酒を飲まない私も、それを知ったら、この正月はこたつのなかに燗酒をちびちび飲んですごしたくなった。あ、でも、考えたら家には徳利もおちょこもない……。と思ったら、本書には「電子レンジで使えるマグカップにお酒を入れて温める」という方法も紹介されていた。

本書で紹介されているのは、先ほどの温度による日本酒の呼び方の違いのように、日本に古くから伝わる慣習だけでなく、洋酒の世界から採り入れた新味ある提案も少なくない。たとえば、日本酒ならではの器であるおちょこは、一気にたくさん飲んでしまうのを防ぐために重要だとする一方で、日本酒の香りを堪能するには、日本の伝統的な器よりもワイングラスのほうがじつはふさわしいという話が出てくる。こうした柔軟な発想のもと、さまざまな日本酒の楽しみ方を提案しているのが、本書の特徴だ。

このほか、本書の各章の前には見開きのマンガ(アザミユウコ画)が、章の終わりには内容のまとめがそれぞれ収録され、読者の理解を助けてくれる。それにしても、むむ教授が女の子のキャラクターで登場するのには驚いたけど。

※『日本酒白熱教室』の著者・杉村啓さんが、明日、12月30日(火)に東京ビッグサイトで開催されるコミックマーケット3日目に「醤油をこぼすと染みになる」というサークル名で出展します。配置は東館A-38b。今回の冬コミに合わせて、今春書籍版も刊行されたミニコミ誌『醤油手帖』の新刊「フルーツ醤油編」(400円)のほか、『白熱日本酒教室』とのコラボ枡(500円)が新作として販売されます。そのほか、本書のもととなる、酩酊女子政策委員会との合同誌『むむ先生の日本酒白熱教室』をはじめ、既刊の販売も。興味を持たれた方はどうぞ、小銭をご用意のうえ、会場へGO!

(近藤正高)