9月24日に創刊された〈やんちゃジジイ〉雑誌「MADURO(マデュロ)」。雑誌に載っているのは高級品ばかり。やんちゃジジイこと「やんジー」が若い女の子に対する煩悩をさらけだす文章が秀逸。ワインボトルを亀甲縛りしたりする(?)。

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9月24日に創刊した雑誌「MADURO(マデュロ)」。キャッチコピー「いつまでもジジイおしゃれでやんちゃがいい!」のとおり、「ジジイ」世代をターゲットにした雑誌だ。「LEON」を立ち上げ「チョイ悪オヤジ」という言葉を生み出した岸田一郎が編集長を務める。
表紙に並ぶ見出しは「ジジイ百までゴルフ忘れず」「子々孫々に残したい超絶コンプリ時計」「100万円持ってカジノはVIPで」などなど。もっとも目立つのは「やんちゃジジイの煩悩108 金は残すな!自分で使え!」。

「MADURO」が新しく提案するのは「やんちゃなジジイ」通称「やんジー」。やんジーはバブル世代で、「全力でお洒落も遊びもこなしてきた50・60歳代。年相応の〈渋さ〉を醸し出す上品で貫禄あるやんちゃジジイ」。ちなみに、枯れたジジイは「枯れジー」、バブルの頃でセンスが停止しているチャラいジジイは「チャラジー」と名づけられている。
名づけはジジイだけにとどまらない。やんジーの妻は「昔は確かにキレイだった」「魔ダム」。そしてやんジーのガールフレンドは「より積極的に人生を楽しもうとしている女豹系」の「姫ーナ」!

この単語がどのように使われているかご紹介しよう。

〈やんジーはどんな車に乗るべきか? そもそもジジイの武器とは、「引き出しの多さ」です。姫ーナが知らない、あんな世界やこんな世界を見せてあげてこそ、ジジイの存在価値があるというもの〉
〈エクストリームビキューナで作った一着がジジイに、そして姫ーナに刺さらないワケがありません。それこそ腕を組まれたら最後。極上の肌触りに味を占め、もうアナタからひと時も離れてはくれないでしょう〉
〈するりと外したボウタイの内側に昔流行ったアニマル柄のプリントタイなんぞ持ってきてごらんなさい。「カワイイ〜」と、頼みもしないのに茶髪の姫ーナが食いついてくる事間違いなし〉
〈いつもすれ違うプードルを連れた姫ーナの視線が、今日から変わるはず! そんな期待すら抱かせるほどの効果がハットにはあります〉
〈「次はフライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン弾いてね」ときたなら、ピアノ教室とともに、ホテルもソッコー予約です〉

このような文章と一緒に並べられているのが、ギブリ(855万)、ドーメルのジャケット(240万)、TAIKI NAKANOのボウタイ(1万5000円)、フェルト地のハット(8万9000円)、ピアノ教室(一回3000円〜4000円)エトセトラエトセトラ。
だいたいどの文章の展開も、「こんな素敵な商品があるよ!」→「これがあれば姫ーナ/魔ダムはクラクラ!」→「買おう!」という大変わかりやすい構成になっている。紙面の印象は「高級な『通販生活』」。

この雑誌のターゲットは「金を持て余す50〜60代」とされている。「紙の雑誌」という媒体で展開するのも、その層が電子よりも紙に親しんでいるからだと、岸田編集長は準備号発売時のインタビューで語っている。
アンケートを見ると、よりターゲット層が明確に見える。「あなたのご職業を教えてください」は、会社経営と会社役員が先頭に来る。「あなたの年収を教えてください」は、一番低くて1000万未満(分類、ざっくりすぎる!)。最終的には「5億円以上」という選択肢まである。
しかし、年収1千万を超す男性の割合は全体の約5.8%。読者の多くは「5.8%に憧れをもつ、それ以下の人」であるだろう。50代〜60代の男性の貯蓄額は若い世代と比べると多いが、老後のことや家計、ローンなどのことを考えると、景気よく使うわけにもいかないのが現実だ。

「MADURO」は、「若い女子にチヤホヤされたい!」という欲望も、「不倫、いいんじゃないですか!」といった姿勢も、セクシャルハラスメントのような言動も、清々しいまでに丸出しにしている。ちょっぴり苦笑いしてしまう。やんジー的な価値観は「やんジーにとってイケてる」だけで、下手すれば滑稽にも見える。
それでも、その価値観に思わずクラッとして、お金を持っている世代が経済をまわしてくれるのなら正直ありがたい。
別に高級車や高級時計を買わなくてもいい。やんジーの夢を見て、ヘアケアやブレスケア、身だしなみ、ついでに遺言なんかにも気を遣ってくれれば、誰もが損をしない状況ができあがる。「MADURO」はある意味、幸せを作る雑誌だ。
ただし、現実の女性は「姫ーナ」のようには優しくない(姫ーナの反応は「お店のお嬢さん」のそれだ)。やんジー志望者さん、それだけは間違えないようにしてくださいね!
(青柳美帆子)