『AKB48じゃんけん大会公式ガイドブック2014』(光文社)
昨年(2013年)は前年優勝者の島崎遥香に加え、大島優子と渡辺麻友とAKB48本体のメンバーが表紙を飾ったじゃんけん大会公式ガイドブック。それに対し今年は、昨年優勝者の松井珠理奈のほか山本彩と宮脇咲良と、AKB48兼任とはいえ、それぞれSKE48・NMB48・HKT48と姉妹グループに所属するメンバーが表紙に登場した。じゃんけん大会の結果からいえば、3人ともベスト16入りは果たせなかったものの、宮脇は、大会終わりの発表で、AKB48の次のシングルにて渡辺麻友とともに初めてセンターを務めることが決まっている。

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昨日、9月17日に日本武道館にて「AKB48グループじゃんけん大会2014〜拳で勝ち取れ!1/300ソロデビュー争奪戦〜」が開催された。今回の優勝者は、すでに報じられているとおり渡辺美優紀(NMB48・SKE48兼任)である。その渡辺は準決勝で岩立沙穂(AKB48)と対戦している。岩立は2回のあいこの末に敗れたものの、「私は、じつは3年前にお客さんとしてじゃんけん大会を見に来ていたので、きょうここに立っていることが信じられない」と、出場できたこと自体がうれしかったとのコメントを残した。

じつは、その3年前のじゃんけん大会を報じたあるテレビ番組のなかで、岩立は会場で開演を待つファンの一人としてマイクを向けられ、「あいこになったとき、すっごいドキドキしますね」と答えていた。驚いたことに、このとき彼女は、AKB48の13期研究生オーディションの最終審査を4日後に控えていたという。オーディションに合格した岩立が秋葉原のAKB48劇場で初舞台を踏んだのは、その年の12月のことだ。

昨年はまだ研究生として、武道館での本選の前に予選を通過しなければならなかった岩立だが、彼女を含む13期生は全滅だった。おかげで「持ってない13期生」との汚名を着せられるも、今年はそれをみごと返上、準決勝まで進んだのである。永尾まりや(AKB48)を破って準決勝進出を決めたとき、岩立は「今年は持ってる」と喜びをかみしめた。

このほかにも、今年もじゃんけん大会ではさまざまな名場面、珍場面が生まれた。メンバーが思い思いの衣装で登場するのも、毎年のことながら楽しめた。前半でまず目を惹いたのは、Aブロック1回戦であたった高橋みなみ(AKB48)と山本彩(NMB48・AKB48兼任)の衣装だ。それは、高橋が東京タワーを、山本が通天閣を模した(ほかにもそれぞれ東京と大阪の名物があちこちにあしらわれていた)もので、両者があいついで登場すると、会場はドッと沸いた。試合のほうは山本が勝ったが、その直後、高橋が衣装が重すぎるせいか急に転倒したり、「足跡を残せた」とコメントして「爪痕では?」と山本に指摘されたりとハプニングを連発する。それにしても、転んだあと「手首ひねったで」と言っていたたかみな、大丈夫だったんでしょうか……。

衣装の意外性でいえば、昨年の優勝者である松井珠理奈(SKE48・AKB48兼任)が強く印象に残った。昨年はセーラー服でのぞんだのに対し、今年は大人っぽく決めようと、和服に和傘という出で立ちで現れた珠理奈。17歳ながら、旅館の若女将を思わせる落ち着いた雰囲気でよく似合っていた。

昨年はパーを出し続けて優勝を射止めた珠理奈だが、今年はまず、横山由依(AKBでは同じチームKに所属)との1回戦をグーで制した。敗れた横山いわく「珠理奈さんが『パー出して、パーッと勝つぞ』と言っていたから、チョキを出した」のだとか。だが、珠理奈に言わせれば、今年のじゃんけん大会の公式ガイドブックのインタビューで「パーを出すとはかぎらない」と話していたという。駆け引きはどうやら大会前より始まっていたらしい。ただし、その後2回戦での向井地美音(AKB48)との試合はパーで勝ち、さらに小谷里歩(NMB48・AKB48兼任)との3回戦では、ふたたびグーを出したものの敗北を喫した。

駆け引きといえば、今年のAKB48選抜総選挙の1位・渡辺麻友(AKB48)は、新曲「心のプラカード」に掛けてプラカードに「チョキ出します」と堂々と書いて1回戦にのぞんだ。対戦相手は阿部マリア(AKB48)。チョキを出すというのは引っかけなのか、それともパーを出せという無言の圧力なのか……後輩の阿部も迷ったはずだが、まゆゆは言葉どおりチョキを出し、阿部がグーで勝つという結果に。試合直後、レフリーを務めたイジリー岡田から「いま、心のプラカードには何と書いてありますか?」と聞かれたまゆゆは、「正直すぎた」と答えていた。

本大会でもっとも歓声があがった試合の一つは、Gブロックでの薮下柊(NMB48)と中西智代梨(AKB48)による3回戦だった。結果は中西が勝ち、ベスト16入りを果たした。今年行なわれた「大組閣祭り」でHKT48からAKB48に移籍した中西は、48グループの次代を担う一人とも目されている。毎年じゃんけん大会では、こうした次世代メンバーが上位16位に入ってくることも少なくない。今年でいえば、中西のほか、川本紗矢(AKB48)・東由樹(NMB48)・大和田南那(AKB48)・荒井優希(SKE48)・朝長美桜(HKT48・AKB48兼任)・岡田奈々(AKB48)・岩立沙穂(AKB48)・佐藤妃星(AKB48)がそれにあたるだろう。もちろん上位に入ったのは次世代ばかりではない。たとえば、じゃんけん大会には第1回から参加しながらも、これまでずっと初戦敗退だった宮崎美穂(AKB48)は今回初めて連勝し、準々決勝にまで残るという健闘を見せた。

なお、宮崎を破ったのは、AKB48のいまや数少ない1期メンバーのひとり、小嶋陽菜だった。決勝でみるきーこと渡辺美優紀に負けたとはいえ、こじはるは最後まで自分のペースを貫き通した。1回戦の、生駒里奈(乃木坂46・AKB48兼任)との対戦には、生駒の所属する乃木坂46のメンバーを「こじ坂46」と称し応援団に引き連れて登場。さらに、生駒に対し「負けたら『こじ坂』に入ってもらう」と約束させると(一方、生駒ちゃんのお願いは「勝ったら小嶋さんのおっぱいを触らせてください」というものだった。何じゃそりゃ!)、あっさりそれを実現、あとの試合も勝ち抜いてゆく。

力まないで勝負にのぞむというこじはるの姿勢は、準決勝の際に「欲を出したら負ける」と語っていたみるきーとも通じるところがあった(みるきーといえば、『うる星やつら』のラムちゃんを思わせる衣装も目を惹いた)。だが、さしものこじはるも、川本紗矢との準決勝を前に「勝つとか負けるとか全然考えずにヘラヘラと数時間やって来て、初めて勝ちたいと思った」とコメント、このときは勝ったものの、「9年間AKBをやってきて初めて本気を出す場面が来た」と語った決勝戦では破れてしまう。じゃんけんにおいて本気を出すのは、必ずしも得策ではないというわけか。

それでも小嶋にとっては3年ぶりのベスト16入り、順位でいっても2010年の第1回大会での3位をひとつ上回る結果となった。私は本大会を名古屋市内の映画館でのライブビューイングで観戦していたのだが、決勝を前に、隣りにいた観客が友人と思しき人と「これ、こじはる勝ったら卒業するんじゃない?」と話しているのを聞いて、ちょっとドキドキしてしまった。こじはるもそんなファン心理を見透かしたように、決勝後、「勝ったら卒業と思った」とコメントしていたものの、いや、その言葉もどこまで信じていいのやら。6月の選抜総選挙での「まだ卒業しません」宣言といい、今後もしばらくは彼女に振り回されることになりそうだ(もちろん、ファンにはそれが楽しいんだけど)。

ともあれ、例のこじはるの言葉と、みるきーの誕生日が今週金曜ということを受けての、AKB48グループ総監督・高橋みなみによる本大会の総評、「神様は2度ほほえんだ。小嶋さんの卒業を回避させ、みるきーに誕生日プレゼントを与えた」とは、けだし名言だったと思う。
(近藤正高)